
ちゅんこ
イギリスの名匠ケン・ローチ監督は、これまで一貫して市井の人々を見つめ、彼らの苦しい現実を描き続けてきた。今回上映する『石炭の値打ち』は、『ケス』に続く脚本家バリー・ハインズとのタッグ作で、日本では未ソフト化・未配信のため見逃されていた、まさに幻の傑作だ。
物語は二部構成で描かれており、第一部はイギリス皇太子の炭鉱訪問を控えた炭鉱町が、急ごしらえの“演出”とも言えるような清掃や修繕をしていき、労働者たちが世間体のためだけに動員される過程を、ユーモアとアイロニーを交えて描いた喜劇で、第二部では一転して、炭鉱労働における労働者への人権軽視と管理体制のずさんさが引き起こす事故の悲劇を、淡々と、そして痛切に描写している。第二部に登場するのは、第一部と同じ人々だ。だからこそよけいに彼らの身に起こる悲劇が胸に迫ってくる。第一部ではごく当たり前の日常生活を送り、笑ったり、くだらないジョークを言い合ったりしている人々が、第二部では常に危険は隣り合わせであることがわかり、時に命を落とすこともある。
これは炭鉱労働者たちが日常的に直面している脅威そのものだと、ケン・ローチは言う。かつて英国社会の象徴でもあった炭鉱という労働現場は、80~90年代のサッチャー政権による炭鉱閉鎖政策により終焉を迎えることになる。だが、今もなお気候変動や貧困、さまざまな不安に直面しながら、生きるため、日々の生活を懸命に送る多くの人々にとって、本作が提起する問題は、決して過去のものではないように思う。
ジェンダー平等先進国16年連続1位(日本は118位)、女性大統領と女性首相が国を治め、世界で最も女性が生きやすいと言われる国アイスランド。だが、以前から男女同権が進む国だったわけではない。今から50年ほど前、アイスランド全女性の90%が仕事や家事を一斉に休んだ、前代未聞のムーブメントがあった。『女性の休日』は、男女平等の実現という明確な目標のもと、みんなで「休む」ことで女性の存在意義を可視化し、誰もが生きやすい社会のため、いまを変えたいと一歩を踏み出した人々の勇気と希望のドキュメンタリーだ。
本作を観終えた後、私はこんなことが本当に可能なのかと驚いたと共に、深い感動を覚えた。だってそこに映し出されるのは、私たちと何ら変わらないごく普通の女性たちだ。女性の権利がないことが当たり前の時代、「これっておかしいことなんじゃない?」と疑問を抱き、彼女たちが声を上げたことで、多くの人々の未来を変えることになるなんて、いったい誰が想像できただろう。実際デモに参加した女性が当時のことを振り返り、「自分が着ていた服をよく覚えている」「私の人生の決定的瞬間の一つになった」と語るシーンがあって、そのときの選択が彼女たちの人生において、どれほど特別で誇らしいことだったのかがよくわかる。
レイキャビクで行われた「女性の休日」には、のちに女性初の大統領になるヴィグディス・フィンボガドッティルや、女性初最高裁判所長官であるグズルン・エルレンズドッティル、そして本作にエンドクレジット曲を提供した当時10歳の少女だったビョークも参加している。あのとき彼女たちが諦めずに行動を起こしたからこそ、アイスランドの現在につながっているのだ。
最後に、1975年10月24日、2万5千人が集まったレイクキャビクの広場のステージで歌われ、その後、アイスランドで最も愛されるプロテスタント・ソングになった『Áfram stelpur(進め 女性たち)』の一部を抜粋して添えたい。
『進め 女性たち』
作詞:ダグニ・クリスチャウンスドッティル/クリスチャウン・ヨウハン・ヨウンソン
だけど本当にやるの?
望むの? できるの?
そう 私は本当にやる
できる 必ずやる!
(中略)
いつか子供たちは言うだろう
「母さんが間違いを正してくれたよ」
いつか子供は言うだろう
「これこそ 私が求める世界」
石炭の値打ち
The Price of Coal
■監督 ケン・ローチ
■脚本 バリー・ハインズ
■出演 ボビー・ナット/リタ・メイ
©Journeyman Pictures
【2026/4/4(土)~4/10(金)上映】
ケン・ローチ監督の真骨頂、此処に有り!
のちに『麦の穂をゆらす風』、『わたしは、ダニエル・ブレイク』でパルムドールを2度受賞するイギリスの名匠ケン・ローチが、1977年にBBCのドラマ枠「プレイ・フォー・トゥデイ」のために制作したテレビ映画「石炭の値打ち(The Price of Coal)」は、二部構成の社会派ドラマ。1969年に公開された映画『ケス』に続く、脚本家バリー・ハインズとのタッグ作品で、英国社会の象徴でもあった炭鉱という労働現場を舞台に、皇太子の視察訪問に右往左往する人々をコメディ調で描く第一部と、一転してハードでシリアスな第二部の二部構成で、炭鉱の人々の暮らしと人生がじっくりと描き出される。
はみ出し者映画の特集イベント「サム・フリークス Vol.27」で上映された際には、満席となり上映終了後には拍手喝采に包まれた。日本では未ソフト化・未配信のため見逃されていたケン・ローチ監督の最高傑作の一つである大作『石炭の値打ち』が遂に劇場初公開を果たす。
今日に至るまで、私たちは炭鉱労働者の勇気、連帯、強さを失ったことを惜しんでいます。どうか、この炭鉱労働者たちの姿に出会い、彼らの笑いを楽しみ、そして彼らの悲しみを分かち合っていただければ幸いです。 ――ケン・ローチ
『第一部:炭鉱の人々』
チャールズ皇太子の公式視察訪問の地に選ばれたミルトン炭鉱。王室による視察訪問など無駄だと反対する労働者たち。一方でほとんどの従業員は賛成していると、炭鉱に草木を植え、ペンキで補修するなど見栄えを整えるためだけの経費も計上する幹部たち。皇太子の視察訪問に備え、右往左往しながらも当日を迎える。
『第二部:現実との直面』
皇太子の公式視察から1ヵ月後、ミルトン炭鉱で地下の爆発事故が発生する。坑内に取り残された8名の労働者たちの安否を願い炭鉱にその家族たちが集まるも二次災害の可能性でどうすることもできない。救助隊が出動し、マスコミも集まるが、経営幹部たちは責任をなすりつけ合って。
女性の休日
The Day Iceland Stood Still
■監督 パメラ・ホーガン
■製作 フラプンヒルドゥル・グンナルスドッティル
■撮影 ヘルギ・フェリクソン
■編集 ケイト・タベルナ
■音響 ベルガー・プリズン
■アニメーション ジョエル・オルロフ
■音楽 マルグリエト・ラウン
■エンドクレジットソング ビョーク「Future Forever」
■出演 ヴィグディス・フィンボガドッティル/グズルン・エルレンズドッティル/アウグスタ・ソルケルスドッティル/グズニ・トルラシウス・ヨハネソンオ
© 2024 Other Noises and Krumma Films.
【2026/4/4(土)~4/10(金)上映】
やるの?できるの?必ずやる!
1975年10月24日、アイスランド全女性の90%が仕事や家事を一斉に休んだ、前代未聞のムーブメント「女性の休日」。国は機能不全となり、女性がいないと社会がまわらないことを証明した。インターネットもスマホもない時代に、女性たちは何に突き動かされ、どのように連帯して成し遂げたのか。その知られざる全貌が、当事者たちのユーモア溢れる愉しげな証言とアーカイブ映像、カラフルなアニメーションで、ポップに、エモーショナルに語られる。
「私たちがいないと、社会はどうなるのか」シスターフッド(女性たちの連帯)が世界に示した柔らかな革命
彼女たちが踏み出した一歩は、女性だけでなく誰もが生きやすい社会にしたい人たちに、勇気とインスピレーションを与える。アイスランド出身の歌姫ビョークも彼女たちを称え、曲を提供した。今や女性大統領と女性首相が統治する、ジェンダー平等先進国(2025年発表・ジェンダーギャップ指数16年連続1位、日本は118位)となったアイスランド。その大きなきっかけとなった運命の1日を振り返るドキュメンタリーである。



















