『バード ここから羽ばたく』『アメリカン・ハニー』『ワザリング・ハイツ 〜嵐が丘〜』『COW/牛』 |早稲田松竹 official web site | 高田馬場の名画座

アンドレア・アーノルド監督特集

クララ

今週の早稲田松竹では、アンドレア・アーノルド監督作品の最新作『バード ここから羽ばたく』と、『アメリカン・ハニー』『ワザリング・ハイツ 〜嵐が丘〜』『COW/牛』の4作を上映いたします。

アーノルド監督は、最新作『バード ここから羽ばたく』の舞台にも通じるイングランド南東部ケントの公営住宅で、4人兄弟の長女として育ちました。18歳頃に家を出てダンスオーディションを受け、ダンサーとしてテレビ番組に出演。その後あらためて学び直し、映画制作の道へと進みます。彼女の作品には、そうした自身の経験が色濃く反映されています。とりわけ印象的なのは、作中にたびたび登場する“動物”の存在です。これは、実際に彼女自身が動物に救われた経験に由来しているといいます。また特徴のひとつでもある手持ち撮影は、その場に立ち会っているかのような臨場感を生み出し、観る者を作品世界へと引き込んでいきます。

最新作『バード ここから羽ばたく』では、不器用で自分勝手な一面を持ちながらも家族を想う父、別の男性と暮らす母、そしてそんな両親や生活環境に閉塞感を抱く主人公ベイリーが描かれます。ばらばらに見える家族ですが、その関係性はどこまでもリアルで、簡単には割り切れない“家族”の姿を浮かび上がらせます。

そこに現れるのが、謎めいた存在“バード”。いつもビルの屋上に立ち、どこかつかみきれない表情を浮かべています。彼は、自分の親を探し続けており、やり場のない孤独を募らせるベイリーと出会うことで、物語は思いがけない方向へと進んでいきます。二人がそれぞれの家族と向き合うなかで起こる出来事の積み重ねが、ベイリーを不器用に、ときに強引に救っていきます。

アーノルド監督はインタビューで、
「どんな相手でも、時間をかけてその人を見ていれば、その人の中に優しさを見出すことができると信じてきました。どんな人であっても、どんなことをした人であっても、必ず共感を抱くことができると」
と語っています。

今回上映される4作品には、そんな監督のまなざしと優しさが確かに息づいています。ぜひスクリーンで、そのまなざしを見届けてください。

【モーニングショー】ワザリング・ハイツ 〜嵐が丘〜
【Morning Show】Wuthering Heights

アンドレア・アーノルド監督作品/2011年/イギリス/129分/DCP/スタンダード

■監督・脚本 アンドレア・アーノルド
■原作 エミリー・ブロンテ「嵐が丘」
■出演 ジェームズ・ハウソン/カヤ・スコデラーリオ

■第68回ヴェネツィア国際映画祭撮影賞受賞

© 2011 Wuthering Heights Films Limited Channel Four Television Corporation and The British Film Institute. All Rights Reserved

【2026/2/28~3/6上映】

古典的名作をアーノルド流に描く長編第3作 史上最も野蛮で狂おしい「嵐が丘」

ヨークシャーの荒れ地に佇む屋敷“嵐が丘”の主人アーンショーが、ひとりの孤児を連れ帰る。少年はヒースクリフと名づけられ、アーンショーの娘キャサリンと一心同体のような強い絆で結ばれるが、キャサリンは裕福な家の息子エドガーと結婚してしまう。出奔したヒースクリフは数年後に大金持ちになって舞い戻り、再びキャサリンの前に現れるが……。

《世界3大悲劇》のひとつ、エミリー・ブロンテの小説「嵐が丘」。過去に幾度も映像化されてきた古典的名作を、アーノルドが独自の解釈と美意識を駆使して映画化した長編第3作。激しい風が吹きすさぶ荒れ地を舞台に、幼い頃からともに育ったヒースクリフとキャサリンの深すぎる愛情が、周囲の人々を巻き込んで不幸にしていく。自然派のアプローチで知られるアーノルドは、不条理なほど激しい愛憎劇の源泉を厳しい地理環境と主人公の幼少期に見出し、最も泥と濃霧にまみれ、野蛮で狂おしい『嵐が丘』を生み出した。出自が不明の主人公ヒースクリフ役に黒人俳優を起用したことも話題となった。

アメリカン・ハニー
American Honey

アンドレア・アーノルド監督作品/2016年/イギリス・アメリカ/163分/DCP/スタンダード

■監督・脚本 アンドレア・アーノルド
■撮影 ロビー・ライアン
■編集 ジョー・ビニ

■出演 サッシャ・レイン/ライリー・キーオ/ シャイア・ラブーフ/アリエル・ホームズ/ウィル・パットン

■第69回カンヌ国際映画祭コンペティション部門審査員賞受賞

©2016 Parts & Labor, British Film Institute, Film4 and Hold Your Horses. All Rights Reserved.

【2026/2/28~3/6上映】

ここではないどこかへ

貧しい地元でゴミを漁り、父親の違う妹や弟たちの世話をして暮らしていた18歳のスターは、スーパーマーケットで出会った男ジェイクに誘われ、バンに乗って旅をする若者たちのグループに参加する。彼らは雑誌の定期購読のセールスを生業にしており、アメリカ中を回りながら毎夜パーティー三昧で浮かれ騒ぐ日々を過ごしていた。ジェイクに心惹かれ、恋に落ちるスターだったが、次第に苦い現実が見えてくる。

刹那な旅を続けるキャラバンに飛び込んだ少女の姿を追いかける珠玉の青春ロードムービー

“ここではないどこか”を求めて、刹那な旅を続ける若者たちのキャラバンに飛び込んだ少女の物語。アーノルドはニューヨークタイムズ紙に掲載された、アメリカ中を雑誌の定期購読の勧誘をして回る若者たちの記事を読み興味を惹かれた。ロードムービーとして映画化することを確信し、いくつものルートをロードトリップして回り現地の空気の中に身を置きながら構想を練った。

一部のプロの俳優を除いて、出演者はスーパーマーケットや高速道路、ビーチにたむろする若者たちをキャスティング。演技未経験ながら主役に抜擢されたサッシャ・レインの佇まいは、目を離すことができない不安定さや、かけがえのない純粋さを立ち上がらせている。56日にわたって行われた撮影では、アメリカ各地を車で移動し、モーテルに泊まり込み、若者たちは実際に町中で雑誌購読の勧誘をして回り、まさに劇中の狂騒そのままの毎日だったという。

本作は第69回カンヌ国際映画祭に出品され、アーノルドに3度目の審査員賞をもたらした。

バード ここから羽ばたく
Bird

アンドレア・アーノルド監督作品/2024年/イギリス・アメリカ・フランス・ドイツ/119分/DCP/ヨーロピアンビスタ

■監督・脚本 アンドレア・アーノルド
■製作 テッサ・ロス
■撮影 ロビー・ライアン
■音楽 ブリアル

■出演 ニキヤ・アダムズ/バリー・コーガン/フランツ・ロゴフスキ

■第77回カンヌ国際映画祭コンペティション部門正式出品/第78回英国アカデミー賞ノミネート/第37回ヨーロッパ映画祭2部門ノミネートほか多数受賞・ノミネート

© 2024 House Bird Limited, Ad Vitam Production, Arte France Cinema, British Broadcasting Corporation, The British Film Institute, Pinky Promise Film Fund II Holdings LLC, FirstGen Content LLC and Bird Film LLC. All rights reserved.

【2026/2/28~3/6上映】

この夏は、きっと私の宝物になる

シングルファーザーの父バグと暮らし、やり場のない孤独をつのらせていた少女ベイリーは、ある日、草原で服装も振る舞いも奇妙な謎の男“バード”と知り合う。彼のぎこちない振る舞いの中にピュアななにかを感じたベイリーは、「両親を探している」というバードの手伝いをはじめるが……。

世界の片隅で生きる1人の少女に訪れた魔法のような4日間。驚きと歓喜に満ちた全く新しい<青春物語>

監督と脚本は、社会の片隅に生きる人びとの姿を映し続けてきた名匠アンドレア・アーノルド。国際的な評価や輝かしい受賞歴とは裏腹に、日本では上映の機会が少なかったが、リアリズムと神話的ファンタジーの融合という新境地を拓いた本作で待望の全国公開が実現した。

若い才能の原石を見出すことに定評があるアーノルドは本作の主演にも無名の少女ニキヤ・アダムズを抜擢。ニキヤには学校演劇の経験しかなかったが、思春期のもどかしさやみずみずしさを体現する名演を披露した。父親のバグ役は、クリストファー・ノーランやヨルゴス・ランティモスら錚々たる大物監督に愛される若手個性派の筆頭バリー・コーガン。本作にはリドリー・スコットの『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』を蹴って参加し、若く未熟でありながらもカリスマ性を放つ複雑なキャラクターを妙演している。正体不明の男“バード”を演じたのは、ドイツの名優フランツ・ロゴフスキ。ミヒャエル・ハネケやテレンス・マリックら巨匠監督にも起用される国際派が、現実から遊離した、不穏な空気と安心感を同時に与える難役に説得力をもたらしている。

楽曲提供は大人気ロックバンド、フォンテインズD.C.。さらにコールドプレイの「Yellow」やブラーの「The Universal」など英国のアンセム的なヒット曲が効果的に使われており、エレクトロ・ミュージックの第一人者ブリアルが初めて映画音楽を担当したことも話題を呼んでいる。撮影監督はケン・ローチ作品や『哀れなる者たち』などで知られ、アーノルド監督とは短編時代からタッグを組んでいる名手ロビー・ライアン。本作では16mmフィルムのざらついた画質とスマホのデジタル映像を組み合わせ、リアルでありながら夢の中にいるようなカラフルで詩的な映像美を作り出した。

【レイトショー】COW/牛
【Late Show】Cow

アンドレア・アーノルド監督作品/2021年/イギリス/98分/DCP/ビスタ

■監督・脚本 アンドレア・アーノルド

■第74回カンヌ国際映画祭プレミア部門正式出品

© Cow Film Ltd & British Broadcasting Corporation 2021

【2026/2/28~3/6上映】

一頭の乳牛“ルマ”を4年間密着 アーノルド唯一のドキュメンタリー作品

大規模酪農場で飼育されているホルスタイン・フリーシアン種のルマは、一頭の雌牛を出産する。やがてルマは子牛から離され、搾乳機に繋げられ、餌を食み、放牧されて走り回り、種付けされ、また子を生む。カメラは極力牛の目線の高さに据えられ、農場の日々の営みと、家畜たちの日常が綴られていく。ルマの物言わぬ瞳が語りかけているものとは?

動物に並々ならぬ愛着を抱き、常に人間を自然と背中合わせに描いてきたアーノルドが、酪農場の一頭の乳牛に密着して、4年がかりで完成させたパワフルなドキュメンタリー。ナレーションやテキストによる説明を一切排し、われわれ観客はまったく新しい視点から家畜という存在と向き合うことになる。シンプルに畜産や動物について考えることもできれば、突然訪れる衝撃的な展開に、動物と人間の共生や社会批評や警鐘など、さまざまな寓意や鮮烈なメッセージを見出すことも可能だろう。現時点で唯一のドキュメンタリー作品でありながら、物語を一義的な解釈から解き放つアーノルド流の映画術が冴え渡る。