『訪問、あるいは記憶、そして告白』+『カニバイシュ』/『夜顔』+『絶望の日』 // 【1本立て】『アブラハム渓谷 完全版』

【2026/1/3~2026/1/9】『アブラハム渓谷 完全版』/『訪問、あるいは記憶、そして告白』『カニバイシュ』/『絶望の日』『夜顔』

すみちゃん

2015年4月2日に106歳でこの世を去った、ポルトガルの巨匠マノエル・ド・オリヴェイラ監督。106歳まで生きること自体人間として奇跡的なのに、最期まで映画を撮り続けた紛れもない超人である! 彼のフィルモグラフィーは短編を含めると膨大な作品数となるのだが、今回は2025年に没後10周年で上映された珠玉の5作品を上映する。

オリヴェイラ監督の作品は、荘厳で耽美な映像ゆえに堅苦しい内容なのではないかと思わせるが、びっくりするぐらいおちゃめで滑稽なものがある。『カニバイシュ』では全編オペラで演出される上品さと、映画内で起こっている衝撃的な出来事とのギャップに笑いが止まらないし、『夜顔』ではシックなパリの街並みの中、ルイス・ブニュエル監督作『昼顔』(1967)の登場人物たちの38年後を描くという絶妙なシチュエーションで、一見、紳士な装いのアンリが、友人の妻であるセヴリーヌを追い掛け回す不気味映画になっている。

また、今回上映されるオリヴェイラ作品の映画の中にいる人たちと、わたしは何度も目が合うことに驚いた。映画の中の世界は作りものなのに、現実のこちら側を向こうが意識している。『絶望の日』では役者が今から演じる役についてこちらに説明をするし、『カニバイシュ』ではカメラ目線で歌ってくる! オリヴェイラの死後に公開することが言付けられた自伝的ドキュメンタリー『訪問、あるいは記憶、そして告白』で、彼は「虚構とは映画の真の現実である 虚構を通して我々は現実を最もよく知り 確固たる現実を知るのだ」と語っている(ちなみにこのドキュメンタリーも、オリヴェイラ氏がめっちゃこっち見てきます)。虚構から現実を見つめる登場人物たち。そして現実から虚構を見つめるわたしたち。こちらも何か反応を返したいという感情が芽生え、まるで視線で対話をしているような気持ちになる。

そもそも映画はその時代を映し取る記録的な役割もあるけれど(実際、彼の初めての監督作は『ドロウ河』というドキュメンタリーである)、彼のどの作品からも具体的な時代性を感じない。古典的な装いをしながら、あるいは実験的な手法を使いながらも、常にいつの時代にも変わらず欲望を持つ人間の面白さを描いている。オリヴェイラ映画の記念碑的作品である『アブラハム渓谷 完全版』では、美貌を持つエマを中心に、“美”というものが一体人間に何をもたらし、なぜ人は“美”を求め、翻弄されてしまうのかという、大きな問いが投げかけられている。鑑賞した後は思わずその壮大さに圧倒されるだろう。

正直、オリヴェイラ監督の作品をまとめて紹介することは難しい。なぜなら、彼の作品はその都度変化しているからだ。彼は20歳で監督デビューをしていたが、長期間映画を撮っていない時期もあり、精力的に作品を作り始めたのが60歳なのも他の監督にはない特徴だ。だから思う。長生きってすごい! 

彼のドキュメンタリーでは父から引き継いだ事業の経営者としての苦労も語られるし、逮捕された経緯についても語られる。人生って色々だ。また、友人や知人の話がきっかけで映画作りが始まることも多く、作品ごとに別の手法を試していて柔軟だし、とどまるところを知らない。106歳まで変化し続けられるなんて、やっぱり並大抵の人間ではないだろう。そんなスーパー人間であるマノエル・ド・オリヴェイラ監督。彼の作品を映画初めに観たら、もしかしたらご利益があるかもしれませんね。

【1本立て】アブラハム渓谷 完全版
Abraham's Valley

マノエル・ド・オリヴェイラ監督作品/1993年/フランス・ポルトガル・スイス/203分/DCP/ヨーロピアン・ビスタ

■監督・脚本 マノエル・ド・オリヴェイラ
■原作 アグスティーナ・ベッサ=ルイス
■撮影 マリオ・バローゾ 
■製作 パウロ・ブランコ

■出演 レオノール・シルヴェイラ/セシル・サンス・ド・アルバ/ルイス・ミゲル・シントラ

■1993年東京国際映画祭最優秀芸術貢献賞受賞

© Madragoa Filmes, Gemini Films, Light Night

【2026/1/3~1/9上映】

フローベール「ボヴァリー夫人」をアグスティーナ・ベッサ=ルイスが翻案し、原作を執筆。言葉、映像、そして音楽それぞれが自律しながら精妙かつ鮮烈に調和する「文芸映画」の最高峰。男性的な世界/権力に詩的な想像力で抵抗する、主人公エマの苦悩。ディレクターズ・カット版とも言える、本来の姿でスクリーンに蘇るオリヴェイラ映画の記念碑的作品。

訪問、あるいは記憶、そして告白
Memories and Confessions

マノエル・ド・オリヴェイラ監督作品/1982年/ポルトガル/68分/DCP/スタンダード

■監督・脚本 マノエル・ド・オリヴェイラ
■撮影監督 エルソ・ロケ
■声 テレーザ・マドルーガ/ディオゴ・ドリア
■台詞 アグスティーナ・ベッサ=ルイス

■出演 マノエル・ド・オリヴェイラ/マリア・イザベル・ド・オリヴェイラ/ウルバノ・タヴァレス・ロドリゲス

© Cineastas Associados, Instituto Portuges de Cinema

【2026/1/3~1/9上映】

1942年に建てられて以来、およそ40年間オリヴェイラが暮らしたポルトの家を舞台に、家族、そして自らの人生を辿るドキュメンタリー作品。『アブラハム渓谷』の原作者でもあるポルトガル文学の巨匠アグスティーナ・ベッサ=ルイスがテキストを手がけている。自身の死後に発表するように言付けられ、2015年にポルト、リスボン、カンヌ国際映画祭、山形国際ドキュメンタリー映画祭で上映された。

カニバイシュ
The Cannibals

マノエル・ド・オリヴェイラ監督作品/1988年/フランス・西ドイツ・イタリア・スイス/99分/DCP/スタンダード

■監督・脚色・台詞 マノエル・ド・オリヴェイラ
■原作 アルヴァロ・カルバリャル
■撮影 マリオ・バローゾ
■音楽・オペラ台本 ジョアン・パエス
■製作 パウロ・ブランコ

■出演 ルイス・ミゲル・シントラ/レオノール・シルヴェイラ/ディオゴ・ドリア

■1988年カンヌ国際映画祭コンペティション部門正式出品

© Filmargem, La Sept, Gemini Films

【2026/1/3~1/9上映】

マルガリーダとアヴェレダ子爵の婚礼の夜。子爵は自らが人間でないことを告白する。それを聞いたマルガリーダは錯乱。厳粛な雰囲気に満ちた貴族たちの晩餐会は、驚愕の事態へと展開する。人間、動物、機械などあらゆる境界を超越し、奇想天外なユーモアが炸裂するオペラ・ブッファ(喜劇的なオペラ)映画の怪作。

絶望の日
Day of Despair

マノエル・ド・オリヴェイラ監督作品/1992年/ポルトガル・フランス/77分/DCP/ヨーロピアン・ビスタ

■監督・脚本・台詞 マノエル・ド・オリヴェイラ
■撮影 マリオ・バローゾ
■製作 パウロ・ブランコ 

■出演 テレーザ・マドルーガ/マリオ・バローゾ/ルイス・ミゲル・シントラ

© Madragoa Films, Gemini Films

【2026/1/3~1/9上映】

19世紀ポルトガル文学を代表する小説家カミーロ・カステロ・ブランコ。葛藤と苦悩の末、拳銃自殺を遂げるに至ったその最期の日々を、手紙や新聞記事、調書などに取材し、その生家を舞台に描く。音楽にワーグナーの「トリスタンとイゾルデ」と「パルジファル」を使用。オリヴェイラ作品の中で最も厳格とも評される作品。

夜顔
Belle Toujours

マノエル・ド・オリヴェイラ監督作品/2006年/ポルトガル・フランス/69分/DCP/ヨーロピアン・ビスタ

■監督・脚本 マノエル・ド・オリヴェイラ 
■撮影 サビーヌ・ランスラン 
■製作 ミゲル・カディリェ

■出演 ミシェル・ピコリ/ビュル・オジエ/リカルド・トレパ/レオノール・バルダック

■2007年ヨーロッパ映画賞男優賞ノミネート

© Filbox Produções, Les Films d’ici

【2026/1/3~1/9上映】

ルイス・ブニュエル監督作『昼顔』(1967)の登場人物たちの38年後を描く。パリで偶然再会したアンリとセヴリーヌ。アンリは真実を打ち明けるという口実でセヴリーヌを食事に誘う…。過去をめぐり立ち上がる、欲望に満ちた謎。ミシェル・ピコリが再び「アンリ」役で登場。カトリーヌ・ドヌーヴが演じた「セヴリーヌ」にはビュル・オジエが扮する。