『巴里の屋根の下』+『幕間』+『ル・ミリオン』/『巴里祭』『自由を我等に』 // 【1本立て】『天井棧敷の人々』

【2025/12/6~12/12】『巴里の屋根の下』+『幕間』+『ル・ミリオン』/『巴里祭』『自由を我等に』 // 【1本立て】『天井棧敷の人々』

ミ・ナミ

今週の早稲田松竹は、ルネ・クレール監督の『巴里の屋根の下』『ル・ミリオン』『巴里祭』『自由を我等に』と短編『幕間』に加え、マルセル・カルネ監督の『天井桟敷の人々』を特別興行で上映いたします。

『巴里の屋根の下』は、パリの街角で実演しながら楽譜売りをする青年アルベールとある女性ポーラの恋愛と、さら彼女に横恋慕するアルベールの親友やごろつきたちの人間模様を描いています。ルネ・クレール初のトーキーですが、テンポの良さや音楽の使い方、抑制のきいた演出は無声映画の美点を感じます。市井の人にある生活臭を漂わせながらも饒舌に愛を語り、物語を駆動させる役割を果たす、アルベールが披露する歌の数々も必聴です。

高額当選の宝くじの行方をめぐり3人の男女が巻き起こす騒動を描く『ル・ミリオン』は、『巴里の屋根の下』よりもさらに歌を主体にしたミュージカル調コメディです。ひょんなことから別人の手にわたってしまった宝くじ、異彩を放つキャラクターの面々、ウソみたいな展開のつるべ打ちに笑いが止まらない、正統派ローラーコースターコメディである一方、ラストではそっと人生で最も大切なことを示してくれます。

7月13日、革命記念日である巴里祭の前日の喧騒を背景にした『巴里祭』は、祝祭の幸福感の中で惹かれ合う二人が、しかし実に互いの意地とわずかなすれ違いのせいでままならない運命をたどりゆくことになります。人生とは本当に些細なボタンのかけ違えで如何様な結末になってしまうことの切なさと、だからこそスクリーンの中で一瞬一瞬を躍動する劇中人物たちへの愛おしさもひとしおとなるのです。主演カップルを演じたアナベラとジョルジュ・リゴーが一躍人気スターとなったのも納得のケミストリーです。

脱獄した男性の友情と恋を描いた『自由を我等に』は、忌み嫌っていた刑務所から命からがら脱獄するも、実社会もまた等しく憂鬱な光景が広がっていた…という序盤の描写が示しているように、ルネ・クレール流の洒落が利いていながら貧富の差や機械化への風刺といった社会批判にも確と軸足を置いた作品です。富と名誉で回る世間で真の自由さを追い求めようとする二人の主人公には痛快な思いにさせられます。

そして『巴里の屋根の下』で助監督を務めたマルセル・カルネは、もしかしたらそうしたある意味“師”であるルネ・クレールによるチャーミングな劇中人物の描写に魅了されたのかもしれません。ドンドンドンドン…!と舞台を踏み鳴らすような効果音、興奮をかき立てるラッパのファンファーレによる幕開けで、観客を当時のパリの犯罪大通りの喧騒へといざなう『天井桟敷の人々』。邦題にある「天井桟敷」とは、劇場で最後方・最上階の天井に近い場所にある観客席のこと。観にくいがゆえに通常は安い料金に設定されています。物語の舞台でもあり、19世紀のパリに実際にあったフュナンビュール座でこの席は「天国」と呼ばれ、ここに詰めかけて無邪気に声援や野次を飛ばす最下層の民衆あふれ返っていたそうです。本作はそんな観衆が見守る中、パントマイム役者バチスト、落ちぶれた女優ガランス、バチストを一途に想う座長の娘ナタリーの3人を主軸に、劇場が立ち並ぶパリの犯罪大通りに集まる様々な芸人や不良までが絡み合いぬきさしならない恋模様が展開されていきます。芸道に恋に振り回されながら率直に生きる人間の愚かしさが愛おしげに描かれていて、ルネ・クレールとはまた異なる味わい深さがあります。

ルネ・クレールとマルセル・カルネは、ともに“フランス映画ビッグ5”と呼ばれています。そうした“巨匠のクラシック映画”に対して、もしかしたら何か敷居の高さを感じてしまう方もいるかもしれません(私もそうでした)。しかし、たとえばルネ・クレールが監督した今週の作品を見ていると格式ばった感じは全くありません。特に、90分程度という上映時間でこんなにも人間を豊かに描いていることに感動すらおぼえます。物見高く、うつり気で意地悪で時にうんざりもさせられるけれども、日々を楽しみ、そして懸命に生きる彼ら彼女たちに愛おしさがこみ上げてくるのです。

人間って皆面白い。だから人と生きていくのも案外悪くないのかもしれません。

【1本立て】天井棧敷の人々 4K修復版
Children of Paradise

マルセル・カルネ監督作品/1945年/フランス/190分(途中休憩あり)/DCP/スタンダード

■監督 マルセル・カルネ
■脚本・台詞 ジャック・プレヴェール
■撮影 ロジェ・ユベール/マルク・フォサール 
■美術 アレクサンドル・トローネル/レオン・バルザック/レイモン・ギャビュッティ
■音楽 ジョゼフ・コスマ、モーリス・ティリエ
■演奏 コンセルヴァトワール管弦楽団

■出演 アルレッティ/ジャン=ルイ・バロー/ピエール・ブラッスール/マリア・カザレス/マルセル・エラン/ピエール・ルノワール

■1946年ヴェネチア国際映画祭特別賞受賞/1979年セザール賞特別賞受賞

© 1946 Pathé Cinema – all rights reserved.

【2025/12/6~12/12上映】

台詞、美術、衣裳、音楽…すべてに酔いしれる、美しくも悲しい愛の物語。映画史に輝く詩的リアリズムの傑作!

~第一部~[犯罪大通り]
1840年代、劇場が立ち並ぶパリの《犯罪大通り》。パントマイム師のバチストは、女芸人ガランスを偶然助けたことから、彼女に恋心を抱く。若き俳優ルメートルや、犯罪詩人ラスネールも彼女に惹かれていたが、ガランスは誰のものにもならない。そこに、ガランスに魅せられたもう一人の男・富豪のモントレー伯爵が現れ…。

~第二部~[白い男]
数年後…。座長の娘ナタリーとの間に一児をもうけたバチストは、フュナンビュル座の看板俳優として舞台に立つ日々を送っていた。そんなバチストを毎夜お忍びで観に来る一人の女性が。それは、伯爵と一緒になったガランスだった。ガランスが訪れていることを聞いたバチストは、たまらず舞台を抜け出すが…。

詩人プレヴェールによる数々の名台詞が、人間の弱さや愚かさ、愛の真実を見事に表現します。何があっても観ておくべき! 世界最高の恋愛映画 ――美輪明宏

ヴェネチア国際映画祭で監督賞を受賞した『霧の波止場』(38)や、『陽は昇る』(39)、『悪魔が夜来る』(42)等を生み出した名コンビ、監督マルセル・カルネと脚本家ジャック・プレヴェールが、第二次世界大戦中ナチス占領下となったフランスで、丸2年を費やし完成させた本作。1945年、解放後まもないフランスで公開され大ヒットし、ヴェネチア国際映画祭特別賞やセザール賞特別賞を受賞。1952年に初公開された日本でも大きな反響を呼び、今日まで語り継がれるふたりの代表作となった。

恋に落ちたパントマイム師にジャン=ルイ・バロー、艶やかさと気品を備えた女芸人にアルレッティなど当代随一の役者が勢ぞろいし、詩人プレヴェールのエスプリの利いた名台詞に彩られる。美術、音楽、衣裳すべてが完璧に作り上げられ、3時間10分という長さを微塵も感じさせない。全長400mに及ぶオープンセットに、1500人のエキストラを動員した大通りのシーンは、戦時下で撮影したとは思えない壮大さに満ちている。愛することの喜びと悲しみ、夢と現実、19世紀に生きる人々のひたむきさは、今日の私たちにも一層の切実さをもって迫り、人生を豊かにしてくれるだろう。

ル・ミリオン 4Kデジタル・リマスター版
Le million

ルネ・クレール監督作品/1931年/フランス/83分/DCP/スタンダード

■監督・脚本・台詞 ルネ・クレール
■原作戯曲 ジョルジュ・ベール/マルセル・ギユモー
■撮影 ジョルジュ・ペリナル
■美術 ラザール・メールソン
■音楽 アルマン・ベルナール/フィリップ・パレス/ジョルジュ・ヴァン・パリス

■出演 アナベラ/ルネ・ルフェーヴル/ルイ・アリベール/レーモン・コルディ/ポール・オリヴィエ

■1931年キネマ旬報外国映画ベストテン第四位

© 1931 — TF1 INTERNATIONAL — SOCIETÉ DES FILMS — SONORES TOBIS Affiches S.I.P

【2025/12/6~12/12上映】

もしも、宝くじが当たったら? 男二人と美女が巻き起こす大騒動

画家ミシェルとオペラ座ダンサーで婚約者のベアトリスは同じアパルトマンに住んでいる。ある日、ミシェルが借金取りに追われてアパルトマン中が大騒ぎとなるが、友人のプロスペールが宝くじの当選を知らせ、一同大喜び。しかし、肝心の宝くじは、手違いで謎のチューリップおやじの手に渡っていた…。果たして、ミシェルとベアトリス、プロスペールは宝くじを取り返すことができるのか?

原作はブロードウェイミュージカルやハリウッドでも映画化。クレールは、ヴォードヴィル劇に改変。ローラーコースターコメディから大団円まで様式美にこだわりぬいた大傑作! ヒロイン役のアナベラを一気に世界的スターに押し上げた。

巴里の屋根の下 4Kデジタル・リマスター版
Under the Roofs of Paris

ルネ・クレール監督作品/1930年/フランス/93分/DCP/スタンダード

■監督・脚本・台詞 ルネ・クレール
■撮影 ジョルジュ・ペリナル/ジョルジュ・ロレ
■美術 ラザール・メールソン
■唄「巴里の屋根の下」作曲 ラウル・モレッティ
■作詞 ルネ・ナゼル
■編曲 アルマン・ベルナール 

■出演 アルベール・プレジャン/ポーラ・イレリ/エドモン・グレヴィル

■1931年キネマ旬報外国映画ベストテン第二位

© 1930 – TF1 DROITS AUDIOVISUELS

★『幕間』と同時上映

【2025/12/6~12/12上映】

街に響き渡る、愛と幸せの歌。カフェに集う男女の恋と運命は

パリの街角で楽譜を売り生活をしているアルベールは、ルーマニアからやって来た女性ポーラをスリから助ける。アルベールはポーラに心惹かれるが、ゴロツキのフレッドからも彼女は口説かれている。ある日の夜、ポーラはアパルトマンの部屋の鍵をフレッドに盗み取られ部屋に入れなくなり、アルベールのアパルトマンに泊まることになるが…。

クレール初のトーキーで、世界でもヒットした初のフランスのトーキー作品。映画史上に名高いラザール・メールソンの美術、だまし絵のようなパリの街並みがノスタルジックな世界を作りあげる。タイトルと同名の主題歌のシャンソンも大ヒット、ラッセ・ハルストレム監督『ショコラ』(2000)でも楽曲が使用されている。

幕間
Entr'acte

ルネ・クレール監督作品/1924年/フランス/22分/DCP/スタンダード

■監督 ルネ・クレール 
■脚本(原案) フランシス・ピカビア 
■音楽 エリック・サティ 

■出演 ジャン・ボルラン/インゲ・フリス/フランシス・ピカビア/マン・レイ/エリック・サティ/マルセル・デュシャン

★『巴里の屋根の下』と同時上映

提供:シュルレアリスム100年映画祭

【2025/12/6~12/12上映】

フランシス・ピカビアのバレエ『本日休演』の幕間に上映するために作られた、名匠ルネ・クレールによるダダイズムの短編映画。音楽は20世紀の音楽に多大な影響を与えたエリック・サティが担当。ピカビア、サティに加えて、マン・レイやデュシャンも出演。

自由を我等に 4Kデジタル・リマスター版
Freedom for Us

ルネ・クレール監督作品/1931年/フランス/84分/DCP/スタンダード

■監督・脚本・台詞 ルネ・クレール
■撮影 ジョルジュ・ペリナル
■美術 ラザール・メールソン 
■音楽 ジョルジュ・オーリック

出演:レーモン・コルディ/アンリ・マルシャン/ローラ・フランス/ポール・オリヴィエ 

■第一回ヴェネチア国際映画祭最も楽しい映画賞受賞/1931年度アカデミー賞美術監督賞ノミネート/1932年キネマ旬報外国映画ベストテン第一位

© 1931 ─ TF1 INTERNATIONAL ─ SOCIETE DES FILMS

【2025/12/6~12/12上映】

成功した男と不器用だが心優しい男。「自由」を求めた二人の友情と恋の行方

刑務所仲間のルイとエミールは脱獄を企むも、要領の良いルイだけが成功。ルイは露店のレコード売りから巨大な蓄音機会社の社長にまで出世する。一方、刑期を終えたエミールは、偶然街で出会ったジャンヌに一目惚れ。ジャンヌはエミールの工場で働いていた。ジャンヌの後をついて工場にたどり着いたエミールは、ルイと再会。ルイは自分の過去を知るエミールが疎ましく、厄介払いしようとするが…。

金持ちが支配し、機械化する社会への批判がこめられた大らかな風刺劇。ヴェネチア映画祭で絶賛されるも、ファシスト政権下のイタリアや、ナチス・ドイツなどで上映禁止処分となった。おもちゃ箱のような工場の美術はユニークで、お金が空中に舞うラストシーンは圧巻! チャップリンの『モダン・タイムス』にも影響を与えた名作。

巴里祭 4Kデジタル・リマスター版
July 14

ルネ・クレール監督作品/1933年/フランス/93分/DCP/スタンダード

■監督・脚本・台詞・作詞 ルネ・クレール
■撮影 ジョルジュ・ペリナル
■美術 ラザール・メールソン
■音楽・唄「巴里祭」作曲 モリス・ジョベール
■原案 ジャン・グレミヨン

■出演 アナベラ/ジョルジュ・リゴー/レーモン・コルディ/ポール・オリヴィエ/ポーラ・イレリ

■1933年キネマ旬報外国映画ベストテン第二位

© 1933 – TF1 DROITS AUDIOVISUELS

【2025/12/6~12/12上映】

パリに咲いた運命の恋を名曲に乗せて描く “翼をなくした天使”と呼ばれたアナベラ主演

革命記念日の前日、お祭り気分のパリ。タクシー運転手のジャンは、向かいのアパルトマンに住む花売り娘のアンナと密かに惹かれ合っている。にわか雨をきっかけに、心を通い合わせたふたり。しかし、昔の恋人ポーラがジャンの部屋に戻ってきて、誤解をしたアンナとジャンは喧嘩し離ればなれに…。

主題歌「巴里祭」はシャンソンの代名詞的名曲で、ルネ・クレール自身が作詞を担当している。恋人たちの雨のシーンは後世の映画に影響を与えた。『ル・ミリオン』で世界的スターとなった、ヒロイン役のアナベラの可憐な美しさが眩しい。