『台北ストーリー』+『冬冬の夏休み』/『恋恋風塵』+『童年往事 時の流れ』

【2025/11/22(土)~11/28(金)】『台北ストーリー』+『冬冬の夏休み』/『恋恋風塵』+『童年往事 時の流れ』

まつげ

1980年代、台湾の若手監督を中心に、台湾社会を深く掘り下げ、これまでの台湾映画界の商業映画とは一線を画す“台湾ニューシネマ”という新潮流が生まれました。今週は、そんな“台湾ニューシネマ”を代表する監督のホウ・シャオシェン(侯孝賢)の特集です。

ホウ・シャオシェン監督は、今回上映する『冬冬の夏休み』(1984)、『童年往事 時の流れ』(1985)、『恋恋風塵』(1987)といった、台湾の田舎での人々の営みに重きを置いた作品で、世界的に評価されました。

小学校を卒業したトントンと、妹のティンティンが母方の祖父母のいる田舎で夏休みを過ごす『冬冬の夏休み』。兄妹が列車に乗ってたどり着いた田舎は、緑にあふれ人間と自然が調和した豊かな場所でした。虫取りや川遊びを楽しむトントンとその後を一生懸命についていこうとするティンティン。祖父母、親戚、そこで出会った友人たちと触れ合うことで、ふたりは忘れられない大切な夏の記憶を刻むのです。

田舎町・九份で育った幼馴染の少年アワンと少女アフンが心の距離を縮めながら大人になってゆく『恋恋風塵』。緑美しい、山間の村で育ったふたりはお互いの両親公認の相思相愛の仲です。中学卒業後、家計を助けるために台北に出て働き始めるふたり。80年代当時の台北ではそのような若者が多く、共同生活や住み込みをし、お互い支えあいながら生活していました。アワンとアフンは大都会の早い時の流れに戸惑い、故郷の家族のことを常に気遣って、後ろ髪を引かれているようです。

1943年に中国から台湾へ移り住んだ小学生の主人公アハとその一家の物語『童年往事 時の流れ』。一家で暮らす畳や襖のある小さな家で、アハは兄弟、両親、祖母それぞれの世代の思いを感じ取ります。父が亡くなり中学に入ると町のギャングになるアハ。仲間とメンツを守るために夜な夜な町を駆け巡りつつも、家族想いのアハは祖母や母を支えながら少しずつ大人になっていくのです。この作品は監督の自伝的作品と言われています。ホウ・シャオシェン自身、1歳で台湾へ移り住みました。

どの作品もカメラは登場人物と適切な距離を保ち、彼らの心情を語るような田舎の風景が心に染みわたります。山と川、緑、列車、歩ける線路、階段、電線。そこに暮らす人々は、家計は決して楽ではないけれど、その生活の営みには心の豊かさが感じられます。

一方、ホウ・シャオシェンが製作・脚本・主演を担当し、エドワード・ヤンが監督した『台北ストーリー』(1985)は高度経済成長期真っ只中の台北を舞台に、都会的な男女の物語を描いています。

「台湾には台北と台北以外がある」(「台湾物語」新井一二三/「侯孝賢台湾映画地図」パンフレットより)――日本における東京と同様に、台湾の都市の中でもとりわけ台北の存在は大きく、多くの台湾人が目指す場所でした。

主人公は、家業の布地問屋を営む男と大手不動産デベロッパーで働く女。ふたりは幼馴染で、煮え切らない関係が続いています。急速に発展する経済の波にのまれ、ふたりの間には次第に温度差が生まれすれ違っていきます。過去や今あるものを捨てきれない古風な男を、ホウ・シャオシェンが演じています。

郷土派のホウ・シャオシェンと都会派のエドワード・ヤンという対照的な監督の違いを、他の3作品とで見比べるのも面白いかもしれません。

台北ストーリー 4Kレストア・デジタルリマスター版
Taipei Story

エドワード・ヤン監督作品/1985年/台湾/119分/DCP/ビスタ

■監督 エドワード・ヤン
■共同脚本 エドワード・ヤン/ホウ・シャオシェン
■脚本 チュー・ティエンウェン
■撮影 ヤン・ウェイハン
■音楽 ヨーヨー・マ

■出演 ホウ・シャオシェン/ツァイ・チン/ウー・ニェンチェン/クー・イーチェン

■1985年ロカルノ国際映画祭審査員特別賞

©3H productions Ltd. All Rights Reserved.

★当館では2K上映となります。

【2025/11/22(土)~11/28(金)上映】

この街は、そして私たちはこれからどこに向かってゆくのだろう。

台北市内のガランとしたマンションの空き家を訪れる男女2人。女は、ステレオをあそこに、テレビはここに、と夢を膨らませている。男は気のない様子でバッティングの素振りのフォームをしながら「内装に金がかかりそうだ」、「わたし、今度昇進するから大丈夫」。

過去に囚われた男と未来に想いを馳せる女のすれ違いが、変わりゆく台北の街並みに重ねられ、やがて思いもよらない結末を呼び込む…。

監督:エドワード・ヤン×主演:ホウ・シャオシェン 「台湾ニューシネマのもっとも幸せな瞬間」に誕生した奇跡の一本

エドワード・ヤンが、『恐怖分子』の前年に撮りあげた長篇第2作。すでに『風櫃の少年』『冬冬の夏休み』などを発表していた盟友ホウ・シャオシェンが、エドワード・ヤンのために自宅を抵当に入れてまで製作費を捻出し完成へとこぎつけた、凄まじい強度を孕んだ野心作だ。ホウ・シャオシェン自身が主演を務め、この後エドワード・ヤンと結婚することになる台湾の人気シンガー、ツァイ・チンが共演している。

「『台北ストーリー』の主人公2人は、それぞれ台北の過去と未来を表している。過去から未来への移行というのがテーマだ」とエドワード・ヤンがいう通り、80年代なかば、日に日に変貌を遂げていたアジアの大都市・台北そのものが映画のもう一人の主役といえる。

ながらく日本で見られる機会がなかった本作だが、マーティン・スコセッシ率いるフィルム・ファウンデーションにより4Kデジタル修復が実現、エドワード・ヤンの生誕70年・没後10年となる2017年に日本で公開された。

冬冬の夏休み デジタルリマスター版
A Summer at Grandpa's

ホウ・シャオシェン監督作品/1984年/台湾/98分/DCP/ビスタ

■監督 ホウ・シャオシェン
■原作 チュー・ティエンウェン
■脚本 チュー・ティエンウェン/ホウ・シャオシェン
■撮影 チェン・クンホウ
■編集 リァオ・チンソン
■音楽 エドワード・ヤン/トゥー・トゥーチー

■出演 ワン・チークアン/リー・シュジェン/エドワード・ヤン/グー・ジュン/メイ・ファン/ティン・ナイチュ/チェン・ボージョン

©CITY FILMS LTD.

【2025/11/22(土)~11/28(金)上映】

まばゆい光のなかで、世界と出会った

台北で暮らす小学校を卒業した少年、冬冬(トントン)と幼い妹の婷婷(ティンティン)。母の入院をきっかけに、ふたりは夏休みの間、厳格な祖父の住む田舎の家へと預けられ、祖父母とともに暮らすことになる。冬冬は、近所の同世代の子どもたちとすぐに打ち解け、遊びながらのびのびと日々を過ごす。一方、婷婷はふとしたきっかけで寒子という若い女性と出会い、交流を重ねていく。陽射しに包まれた風景の中、周囲の大人たちの会話に耳を傾けながら、ふたりの夏の日々が静かに過ぎていく――。

あの夏の日々が、ふたたび蘇る。ホウ・シャオシェンの代表作にして台湾ニューシネマの金字塔!

日本の現代映画作家にも大きな影響を与えた台湾ニューシネマの旗手、ホウ・シャオシェン監督。彼の詩情が結実した初期の代表作である本作は、少年と少女が過ごすひと夏の時間を静謐なまなざしでとらえる。台湾中部の銅鑼を舞台に、懐かしくも美しい田園風景は観る者の心を掴み、誰もが自身の子ども時代の記憶を呼び覚まされるだろう。

さらに本作では『牯嶺街少年殺人事件』『ヤンヤン 夏の思い出』のエドワード・ヤン監督が俳優として出演。主人公・冬冬の父親役を演じるほか、劇中音楽の選曲も手がけている。脚本は『悲情城市』をはじめ数々のホウ・シャオシェン作品を支えてきたチュー・ティエンウェン、撮影は『台北ストーリー』『風櫃の少年』などの撮影を手がけたチェン・クンホウが担当。1980年代の台湾ニューシネマの核心を担った才能が集結した歴史的にも貴重な一作が待望のデジタルリマスター版としてふたたびスクリーンに蘇る。

童年往事 時の流れ
A Time to Live, a Time to Die

ホウ・シャオシェン監督作品/1985年/台湾/138分/Blu-ray/ビスタ

■監督・脚本 ホウ・シャオシェン
■製作 シュ・クオリャン
■脚本 チュー・ティエンウェン
■撮影 リー・ピンビン
■音楽 ウー・チューチュー

■出演 ユー・アンシュン/シン・シューフェン/ティエン・ファン/メイ・ファン

■1986年ベルリン国際映画祭映画批評家賞/ロッテルダム国際映画祭最優秀非欧米映画賞

© 2014 Taiwan Film and Audiovisual Institute. All rights reserved.

【2025/11/22(土)~11/28(金)上映】

今でも、たびたび思い出す。年老いた祖母の、大陸へ帰る道は、幼いころわたしと歩いたあの道なのか。一緒にザクロをとった、あの道なのか。

阿考(アハ)は1947年に広東省に生まれ、1歳のときに一家で台湾に移住した。阿考をふくめ5人の兄弟と、年老いた祖母、両親が彼の家族である。父は体が弱く自宅で療養の身だ。客家(ハッカ)語しかできない祖母は、北京語でアシャオと発音する「阿考」の名をアハと呼んだ。それでアハが彼のあだ名になった。

阿考は村の子供たちのあいだでガキ大将的な存在になり、のびのびと成長する。しかし、父の健康は思わしくなく、ときおり吐血する姿は子供心に小さな影を落としていた…。

少年の成長の年代記を、彼と家族の日常をめぐるささやかな出来事で綴ったホウ・シャオシェン監督の自伝的作品。

タイトルが示す通り、子供の頃の思い出を回想したものである。ホウ・シャオシェン監督が自身の青少年時代を家族の姿も含めて描き出し、彼の映画としては最も自伝的要素が強い作品となっている。阿考という少年の小学生から高校生にいたる成長の年代記。そのなかで、遊び仲間との悪戯、入学試験、淡い初恋、そして家族との死別が綴られていく。そのひとつひとつのエピソードの積み重ねはいわゆるドラマチックなものではなく、淡々と走馬灯のように流れていく。

ホウ監督は本作ではじめてリー・ピンビンを撮影監督に起用。繊細な光の表現が評価され、リー・ピンビンはやがて台湾を代表するカメラマンとして国際的に活躍するようになった。主人公・阿考を演じたユー・アンシュンはこの作品までは無名であったが、以後は今日にいたるまでテレビや映画で活躍している。

恋恋風塵
Dust in the Wind

ホウ・シャオシェン監督作品/1987年/台湾/110分/DCP/ビスタ

■監督 ホウ・シャオシェン
■脚本 ウー・ニェンツェン/チュー・ティエンウェン
■撮影 リー・ピンビン
■音楽 チェン・ミンジャン

■出演 ワン・ジンウェン/シン・シューフェン/リー・ティエンルー/リン・ヤン/メイ・ファン/チェン・シューファン

■1987年ベルリン国際映画祭フォーラム部門招待作品/ナント三大陸映画祭最優秀撮影賞・最優秀音楽賞受賞

© 2014 Taiwan Film and Audiovisual Institute. All rights reserved.

【2025/11/22(土)~11/28(金)上映】

風塵のように散ってもなお 思いこがれる愛がある

1960年代末。山村で幼い頃から常に一緒に育てられた幼馴染の少年アワンと少女アフン。アワンは成績優秀だったが家が貧しく、家計を助けるために、台北に出て働きながら夜間学校に通っている。アフンも一年遅れて台北に来て働き始めた。大都会台北で二人の絆はさらに強くなり、何時しかお互いに愛情を抱くようになる。しかし、アワンは兵役につかねばならなくなり、二人は互いに手紙を送り合うことで互いの近況を報告し合うが、いつしか、アフンからの手紙は届かなくなり…。

胸にせまる抒情、忘れえぬ感動 ホウ・シャオシェン監督80年代の代表作!

『恋恋風塵』はホウ・シャオシェン監督の長編第七作。兵役と青春の終章を深く繊細に描き、監督としての評価を決定づけた傑作である。風のぬくもり、空気の色、光のあたたかさ。美しい台湾の原風景を背景に、瑞々しい恋物語が綴られる。素人を大胆に主役に据え、人間そのものの持ち味が生き生きと引き出されているところが初期のホウ演出の大きな魅力のひとつだが、この作品の主役二人も全くの新人。少女アフンを演じたシン・シューフェンは『童年往事 時の流れ』に続く二作目で主役に大抜擢され、その後も『悲情城市』までホウ作品のミューズとなった。

「恋恋風塵」というタイトルはホウ監督がつけたもので、風塵とは、とるにたりぬほどの、どこに行ってしまうかわからないほどのという意味である。英題は「DUST IN THE WIND」。