『ANORA アノーラ』『スターレット』/『 プリンス・オブ・ブロードウェイ』『テイクアウト』// 特別レイトショー『レッド・ロケット』/『フォー・レター・ワーズ』

【2025/10/25(土)~10/31(金)】『ANORA アノーラ』『スターレット』/『 プリンス・オブ・ブロードウェイ』『テイクアウト』// 特別レイトショー『レッド・ロケット』/『フォー・レター・ワーズ』

すみちゃん

ショーン・ベイカー監督の最新作である『ANORA アノーラ』が第97回アカデミー賞5部門を受賞したニュースを見たときは、大興奮した。お金をかけた超大作だって面白いけれど、地に足がつきまくっている、今を生きているんだぞ! という人間臭い映画だって魅力的ですよね!? 分かります、分かりますとも、と勝手に祝福していた。まだ観ていなかったのに!(笑)

なぜまだ観ていないのにそう確信していたかと言うと、これまでのショーン・ベイカー監督が作ってきた映画に登場する人々は、みなお金に困っていたり、偏見を持たれていたりするのだけれど、それでもなんだかんだ誰かに出会って救われたり、他愛もない会話が面白かったり、厳しい現実をユーモラスに、強く生きているからだ。何度、ショーン・ベイカーの映画に出てくる人たちを見て励まされてきたことか。

今回の特集では今まで観ることができなかったショーン・ベイカー監督の初期作品に触れることで、彼がどのように人々を描こうとしていたかを辿ることができる。なんていい機会なのでしょうか。さぁ、一緒に辿っていきましょう!

『ANORA アノーラ』の主人公であるアノーラはストリップダンサーで、『レッド・ロケット』(21)の主人公のマイキーはポルノ俳優だ。セックスワーカーが主人公であることが多いショーン・ベイカーの作品。彼のフィルモグラフィーで最初にセックスワーカーが主人公として登場しているのは『スターレット』(12)のジェーン。ガレージセールで購入したポットをきっかけに、売り主の老婦人のセイディと親しくなっていく物語だ。車社会のアメリカで、老婦人と若きセックスワーカーの女性が出会える機会なんて、もしかしたらそうないのではないかと思う。いや、出会っていたとしても、親密な関係を築き上げられる人はどのくらいいるのだろう? もしかしたらそんな風に思っているわたしにこそ、偏見があるのかもしれない。出会えないかもしれない人たちが出会い、もっと相手を知ろうとすれば、この社会が変わるんじゃないだろうか? ショーン・ベイカーはそんな希望を込めているのではないかと思う。アノーラもマイキーも、自分とは違う仕事や生き方をしている人と出会うことで、世界が目まぐるしく変わっていく瞬間があって、その時の煌めきがたまらなくまぶしい! ああ、出会いっていいなぁ~~って思える!

そんな彼の姿勢は、初期の作品にも表れている。『プリンス・オブ・ブロードウェイ』(08)と『テイクアウト』(04)はどちらもアメリカ社会で働く不法移民が主人公の映画だ。撮影もショーン・ベイカーが担っており、手持ちカメラによる臨場感は彼のまなざしそのもののように感じられる。アメリカで生まれ育った彼が撮りたいと思ったのは、『テイクアウト』でひたすら自転車でデリバリーをする青年であり、『プリンス・オブ・ブロードウェイ』で偽ブランド品を売っている青年だった。どちらも明日どうなるかわからない不安が常にあるけれど、身近な人が助けてくれる瞬間が描かれていて、それが本当に心に染みる。どんなに厳しい現実でも、助け合える社会であってほしいという思いが、彼の書く脚本には込められているのだ。

こうして辿っていくと、長編デビュー作品の内容に驚く人がいるかもしれない。意外にも彼が最初に撮ったのは、アメリカ郊外の男子大学生がホームパーティーでただひたすらくだらない話をしている『フォー・レター・ワーズ』(00)という映画だ。ポルノ女優がどうだとか、何人とヤッたかとか、本当にどうでもよさそうな内容なのだけど、この歳の、この時でしか共有できないのだろうな~という会話が繰り広げられる。その会話の中に、時々切実な青年の悩みが見え隠れするから面白い!

ショーン・ベイカーの映画に登場する人たちは、みんな正直に話すし、嘘をついたって隠せていない。どうでもいい話を真剣にするし、本気で罵るし、めっちゃ怒る。告げ口もする。なんか悪いことはいっぱいしている! でも、それが人間だし、ちゃんとその日一日をバカ真面目に生きている。それってすごいことじゃない!? だって、全力で誰かと正直に話すってめっちゃ体力いるじゃん!? 実際、わたしたちの生きている社会ではそんな全力人間ばかりではないし、話を聞いてもらえないこともいっぱいあって、ショックなことがたくさんあるけれど、日々を生きることの面白さをショーン・ベイカーはずっとずっと映画にしてきたのだと思う。ショックなことだって、人生誰にだってあるっしょ! ドンマイって励ましてくれる。まさに人生賛歌! ありがとう、ショーン・ベイカー! 彼の人間に対する愛を、ぜひ受け止めに来てほしい! いや、マジで!

ANORA アノーラ
Anora

ショーン・ベイカー監督作品/2024年/アメリカ/139分/DCP/シネスコ/R18+

■監督・脚本・編集 ショーン・ベイカー 
■製作 アレックス・ココ/サマンサ・クァン/ショーン・ベイカー
■撮影 ドリュー・ダニエルズ
■音楽監修 マシュー・ヒアロン=スミス

■出演 マイキー・マディソン/マーク・エイデルシュテイン/ユーリー・ボリソフ/カレン・カラグリアン/ ヴァチェ・トヴマシアン

■第77回カンヌ国際映画祭パルムドール受賞/第97回アカデミー賞作品賞・監督賞・主演女優賞・脚本賞・編集賞受賞、助演男優賞ノミネート/第82回ゴールデングローブ賞作品賞・主演女優賞・助演男優賞・監督賞・脚本賞ノミネート ほか多数受賞・ノミネート

© 2024 Focus Features LLC. All Rights Reserved.

【2025/10/25(土)~10/31(金)上映】

おとぎ話? ううん、現実(リアル)

NYでストリップダンサーをしながら暮らす“アニー”ことアノーラは、職場のクラブでロシア人の御曹司、イヴァンと出会う。彼がロシアに帰るまでの7日間、1万5千ドルで“契約彼女”になったアニー。パーティーにショッピング、贅沢三昧の日々を過ごした二人は休暇の締めくくりにラスベガスの教会で衝動的に結婚! 幸せ絶頂の二人だったが、息子が娼婦と結婚したと噂を聞いたロシアの両親は猛反対。結婚を阻止すべく、屈強な男たちを息子の邸宅へと送り込む。ほどなくして、イヴァンの両親がロシアから到着。空から舞い降りてきた厳しい現実を前に、アニーの物語の第二章が幕を開ける――。

シンデレラストーリーのその先を描いた、セクシーでゴージャスでユーモラスな人間賛歌の傑作誕生!

全篇iPhoneで撮影し、サンダンス映画祭他多くの国際映画祭で喝采を浴びた『タンジェリン』、アカデミー賞助演男優賞にノミネートされた『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』、カンヌ国際映画祭コンペティション部門出品作『レッド・ロケット』など、アメリカ社会の「声なき声」をすくいあげ、丁寧にかつユーモラスに描いてきたショーン・ベイカー監督。長編8作目で監督が描くのは、自らの幸せを勝ち取ろうと全力で奮闘する、ロシア系アメリカ人の若きストリップダンサー、アノーラの等身大の生きざまだ。身分違いの恋という古典的なシンデレラストーリーを21世紀風にリアルに描きなおした本作は、監督作品史上最もエンターテイメント性が高く、清濁合わせ呑む人間らしさに溢れている。

主役アノーラ、通称アニーに抜擢されたのは、新星マイキー・マディソン。批評家から大絶賛を浴び、本作でアカデミー賞主演女優賞を受賞した。彼女に夢中になるお調子者のロシア新興財閥の息子イヴァンには、「ロシアのティモシー・シャラメ」の愛称で親しまれ、本作が英語劇初挑戦となるマーク・エイデルシュテイン。

セックス、美、富というパワーゲームの中で利用されながらも、自らの幸せを求め続ける人間たちへの賛歌をユーモラスに、そして真摯な眼差しで描く。階級意識や偏見に抗うアノーラの圧倒的パワーとエネルギーは、凝り固まった今の世の中を鮮やかに蹴り飛ばす!

スターレット
Starlet

ショーン・ベイカー監督作品/2012年/アメリカ・イギリス/103分/DCP/シネスコ/R18+

■監督 ショーン・ベイカー
■脚本 ショーン・ベイカー/クリス・ベルゴーク
■撮影 ラディウム・チャン

■出演 ドリー・ヘミングウェイ/ベセドカ・ジョンソン/ジェームズ・ランソン/カレン・カラグリアン

© 2012 STARLET FILMS, LLC. ALL RIGHTS RESERVED

【2025/10/25(土)~10/31(金)上映】

年齢の離れた女性2人による心の交流を、ユーモラスに映し出した感動作

女優志望のジェーンは、愛犬のチワワといつも一緒。ある日ガレージセールで購入したポットに大金が入っていることに気づく。ポットの持ち主である老婦人とジェーン、歳の離れた女性二人の心の交流を生き生きと描くユーモラスな感動作。

【レイトショー】レッド・ロケット
【Late Show】Red Rocket

ショーン・ベイカー監督作品/2021年/アメリカ/130分/DCP/シネスコ/R18+

■監督・編集 ショーン・ベイカー
■製作 ショーン・ベイカー/アレックス・ココ/
サマンサ・クアン/アレックス・サックス/ツォウ・シンチン
■脚本 ショーン・ベイカー/クリス・バーゴッチ
■撮影 ドリュー・ダニエルズ

■出演 サイモン・レックス/ブリー・エルロッド/スザンナ・サン/ブレンダ・ダイス/イーサン・ダーボーン/ジュディ・ヒル/ブリトニー・ロドリゲス/マーロン・ランバート

■第74回カンヌ国際映画祭コンペティション部門正式出品/2021年LA批評家協会賞男優賞受賞/インディペンデント・スピリット賞主演男優賞受賞・助演女優賞ノミネート

© 2021 RED ROCKET PRODUCTIONS, LLC ALL RIGHTS RESERVED.

【2025/10/25(土)~10/31(金)上映】

成功は自分のおかげ。失敗はいつも誰かのせい。

「ポルノ界のアカデミー賞を5回逃した」ポルノ俳優だったが、今は落ちぶれ無一文で故郷テキサスへ舞い戻ったマイキー。別居中の妻レクシーと義母リルに嫌がられながらも彼女たちの家に転がり込むことに成功したが、17年のブランクのおかげで仕事はない。昔のつてでマリファナを売りながら糊口を凌いでいたある日、ドーナツ店で働く少女と出会い再起を夢見るが…。

アメリカ社会の片隅で生きる人々を鮮やかに描いた、ひとクセありのヒューマンドラマ

アメリカ社会の「声なき声」を掬い上げ丁寧に描くことに定評のあるショーン・ベイカー監督がパンデミックの最中少数精鋭のクルーで作り上げたのは、ご都合主義でうすっぺら、口先だけの元ポルノスターを主役とした、監督のキャリア中最も想定外の本作だった。 「物語が本当に起こる場所で撮りたい」という監督の意図のもと、撮影監督にはテキサス出身のドリュー・ダニエルズが起用され、テキサス特有の色、湿度、土っぽさを表現するため16mmフィルムを使用し、粗削りでありながらも美しくエモーショナルな景色を映し出している。

主演は、過去のポルノ出演映像が流出したことで一時表舞台から姿を消していたこともある、役とリンクするかのような経歴をもつサイモン・レックス。カンヌ国際映画祭コンペティション部門で上映されるやいなや彼の熱演は大きな話題を呼んだ。ストロベリー役は、LAの映画館のロビーでベイカー監督にスカウトされたスザンナ・サン。彼女は本作をきっかけに大注目を浴び、話題沸騰のドラマ「THE IDOL/ジ・アイドル」にも出演している。

テイクアウト
Take Out

ショーン・ベイカー監督作品/2004年/アメリカ/87分/DCP/ビスタ

■監督・脚本 ショーン・ベイカー/ツォウ・シンチン
■撮影 ショーン・ベイカー

■出演 チャールズ・ジャン/エング・フア・ユー/ジャスティン・ワン

© CreFilm. All Rights Reserved

【2025/10/25(土)~10/31(金)上映】

中華料理屋の配達員として働く、不法移民の青年が過ごす過酷な1日

密入国業者への多額の借金を抱えながら、ニューヨークの中華料理屋で配達員として働く不法移民の青年の1日を捉えた長編第二作目。徹底したソーシャル・リアリズムのスタイルで、マンハッタンに暮らす移民たちの厳しい日々を浮き彫りにする。

プリンス・オブ・ブロードウェイ
Prince of Broadway

ショーン・ベイカー監督作品/2008年/アメリカ/100分/DCP/ビスタ

■監督・撮影 ショーン・ベイカー
■脚本 ショーン・ベイカー/ダレン・ディーン

■出演 プリンス・アドゥ/カレン・カラグリアン/エイデン・ノエシ

© CreFilm. All Rights Reserved

【2025/10/25(土)~10/31(金)上映】

偽ブランド品を売る青年が突然“パパ”に―― NYのストリートを舞台に描かれる人間模様

ニューヨークのストリートで偽ブランド品を売って生計を立てるラッキーの元へ、かつての恋人が存在すら知らない“息子”を連れてきたことで全てが一変する。いきなり“パパ”になった黒人青年と幼い子供、それを取り巻く人間模様をチャーミングに描く。

【レイトショー】フォー・レター・ワーズ
【Late Show】Four Letter Words

開映時間 終了しました
ショーン・ベイカー監督作品/2000年/アメリカ/82分/DCP/ビスタ

■監督・脚本 ショーン・ベイカー
■撮影 サム・セルバ

■出演 ヘンリー・ベイリン/デイビット・アリ/ダルシー・ブレッドソー

■パンフレット販売なし

■ショーン・ベイカー初期傑作選 オフィシャルサイト
https://seanbakermovies.jp/


★本作品は特別レイトショー上映です。
☟入場料金
一律1200円(割引なし)
★チケットは、朝の開場時刻より受付にて販売いたします。

 
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ショーン・ベイカー長編デビュー作!

ある真夏の夜のパーティーで酔っ払い、戯れ、いさかいを起こす若者たちを描いた長編デビュー作。アメリカ郊外に暮らす男子大学生の間で、特有の生々しい会話が飛び交う。リチャード・リンクレイター作品などを彷彿とさせる青春のポートレートに、ベイカーの鋭い観察眼が光る。