
おまる
愛する子供の未来のためにドラッグの売人になる母親。闇ビジネスという沼から抜け出そうともがく若者たち。『ナイトフラワー』と『愚か者の身分』は、どん底といえるほどの境遇の中で、必死に生き抜くために犯罪に手を伸ばした人たちを描いています。そんな絵に描いたような悲劇的な物語のはずなのに、見終わった後に浮かんでくるのは、彼らが家族であったり絆みたいなもので結ばれた人たちと一緒に楽しそうに笑いあっている姿です。目を背けたくなるような現実を突きつけられる過酷さがありながら、彼らがこの世界のどこかで生き抜いていてほしいと切に願ってしまうのです。
『ブルーボーイ事件』と『君と私』は、実際に起きた事故や事件をベースに作られた作品。1960年代の日本で「性別適合手術」が違法か合法かを争う裁判があり、そこに手術を受けた患者のひとりとして証人を依頼されるサチ。ただ恋人とささやかに生きていたいと願うサチが、世間の厳しい目にさらされても証言台でする独白は、悲壮感なんかじゃなく全てを包むような温かさがありました。一方、2014年の韓国で約300人以上が犠牲となったセウォル号沈没事故を背景にした『君と私』。この辛く大きな事故に対して、映画で描かれるのは女子高生セミとハウンふたりの小さな世界です。未熟で瑞々しい何でもないふたりの日常の積み重ねひとつひとつが愛おしい。ふたりを見ながらどうか時が進まないでほしい、この時間がどうか続いてほしいと願わずにいられません。
レイトショーで上映する『恋愛裁判』もまた実際にあった裁判をきっかけに作られた作品。アイドルグループのセンターが「恋愛禁止ルール」を破ったことで裁判にかけられます。「アイドルが恋愛することは罪なのか?」という問いを使って単に業界自体を断罪するわけじゃなく、それぞれの立場をフラットに描くことで、人が人らしく生きていくってどういうことなんだろう? という新たな問いが浮かんできます。
今週の作品はジャンルや題材は違えど、今だからこそ作られた映画たちのように感じます。自分だけが良ければいいみたいな空気感が漂う近頃、少し立ち止まってまわりの世界や人のことを考えてみる想像してみるきっかけになるのではないでしょうか。
ナイトフラワー
Night Flower
2025年/日本/124分/DCP/PG12/シネスコ
■原案・脚本・監督 内田英治
■企画・プロデュース 吉條英希
■撮影 山田弘樹
■編集 小美野昌史
■音楽 小林洋平
■エンディングテーマ 角野隼斗「Spring Lullaby」(Sony Classical International)
■出演 北川景⼦/森⽥望智/佐久間⼤介/渋⾕⿓太/渋川清彦/池内博之/⽥中麗奈/光⽯ 研
■第49回日本アカデミー賞最優秀助演女優賞/第50回報知映画賞主演女優賞・助演女優賞受賞/第38回東京国際映画祭ガラ・セクション部門公式出品
©2025「ナイトフラワー」製作委員会
【5/30(土)~6/5(金)上映】
その愛、善か、悪か――
借⾦取りに追われ、⼆⼈の⼦供を抱えて東京へ逃げてきた夏希は、昼夜を問わず必死に働きながらも、明⽇⾷べるものにさえ困る⽣活を送っていた。ある日、夜の街で偶然ドラッグの密売現場に遭遇し、子供たちのために自らもドラッグの売人になることを決意する。そんな夏希の前に現れたのは、孤独を抱える格闘家・多摩恵。夜の街のルールを何も知らない夏希を見かね、「守ってやるよ」とボディーガード役を買って出る。
タッグを組み、夜の街でドラッグを売り捌いていく二人。ところがある女子大生の死をきっかけに、二人の運命は思わぬ方向へ狂い出す――。
大切なものを守るためならあなたは罪を犯しますか? 幸せを求めて暴走するヒューマンサスペンス!
『ミッドナイトスワン』から5年。内田英治監督自ら“真夜中シリーズ”と銘打つ待望の最新作は、国民的人気俳優=北川景子を主演に迎えた衝撃作。北川は、愛する子供たちのため犯罪に手を染める母の“覚悟”を魂を削るように演じ上げ、俳優として新たなフェーズに入ったことを確信させてくれる。そんな夏希と手を組み、体を張って彼女たち家族を守ろうとする格闘家の多摩恵には、注目の実力派俳優・森田望智。本作では半年に及んだトレーニングで7kg増量し、プロも絶賛する格闘シーンを披露。みごと第49回日本アカデミー賞最優秀助演女優賞に輝いた。
共演には、国民的アイドルグループSnow Manの佐久間大介、そして本作で俳優デビューを飾る人気バンドSUPER BEAVERのボーカル・渋谷龍太。さらに、渋川清彦、池内博之、田中麗奈、光石研ら、個性的かつ魅力的な布陣が揃い、夏希と多摩恵を取り巻く物語を加速させていく。
運命的に出会った2人がシスターフッドで結ばれ、欲望と危険に満ちた夜の世界を疾走するスリリングなヒューマンサスペンスが誕生した。
愚か者の身分
Baka's Identity
2025年/日本/130分/DCP/PG12/シネスコ
■監督 永田琴
■プロデューサー 森井輝/木幡久美/下村和也
■原作 西尾潤「愚か者の身分」(徳間文庫)
■脚本 向井康介
■撮影 江﨑朋生
■編集 宮島竜治
■音楽 出羽良彰
■主題歌 tuki.「人生讃歌」
■出演 北村匠海/林裕太/山下美月/矢本悠馬/木南晴夏/田邊和也/嶺豪一/加治将樹/松浦祐也/綾野剛
■第30回釜山国際映画祭コンペティション部門最優秀俳優賞受賞
©2025 映画「愚か者の身分」製作委員会
【5/30(土)~6/5(金)上映】
生まれ変わるんだ。
SNSで女性を装い、言葉巧みに身寄りのない男性たち相手に個人情報を引き出し、戸籍売買を日々行うタクヤとマモル。彼らは劣悪な環境で育ち、気が付けば闇バイトを行う組織の手先になっていた。
闇ビジネスに手を染めているとはいえ、時にはバカ騒ぎもする二人は、ごく普通の若者であり、いつも一緒だった。タクヤは、闇ビジネスの世界に入るきっかけとなった兄貴的存在の梶谷の手を借り、マモルと共にこの世界から抜け出そうとするが──。
逃げ出せ、闇となる前に。3つの人生が交差する、運命の3日間。
北村匠海×林裕太×綾野剛。異なる世代のトップランナーが一堂に会し、魂の競演を繰り広げる世紀の一作が、ここに誕生した。社会問題となっている《闇ビジネス》から抜け出そうとする男たちを描いた映画『愚か者の身分』だ。
第二回大藪春彦新人賞を受賞した西尾潤の同名小説を、Netflixシリーズ「今際の国のアリス」などを手掛けるプロデューサー集団THE SEVENが初の劇場作品として映画化。監督は、岩井俊二監督の助監督を長らく務め、人間ドラマを巧みに描くことに定評のある永田琴。そして、『ある男』で第46回日本アカデミー賞最優秀脚本賞に輝いた名脚本家・向井康介が加わり、トリッキーで予測不能な逃亡サスペンスへと仕上がった。
「裏社会に身を落とした若者たちが、本当に信じたものとはー」今、観る者の心に突き刺さる、ヒューマンドラマの幕が開く。
君と私
The Dream Songs
2022年/韓国/118分/DCP/ビスタ
■監督 チョ・ヒョンチョル
■プロデューサー アン・ボヨン
■脚本 チョ・ヒョンチョル、チョン・ミヨン
■撮影 DQM
■編集 パク・セヨン
■音楽 OHHYUK/オヒョク
■出演 パク・ヘス/キム・シウン/オ・ウリ/キル・へヨン/パク・ジョンミン
■第45 回青龍映画賞 最優秀脚本賞・新人監督賞受賞/第60 回百想芸術大賞 GUCCI IMPACT AWARD 受賞
©2021 Film Young.inc ALL RIGHTS RESERVED
【5/30(土)~6/5(金)上映】
忘れない。きみとの全部。
修学旅行の前日。セミは教室で不思議な夢を見た。胸騒ぎを覚えたセミは学校を抜け出し、想いを寄せるハウンの病室へと走る。自転車との衝突で脚をけがしたハウンは、修学旅行を諦めて入院中なのだ。ところが、ふいに見てしまったハウンの手帳の一言に、セミの視線が止まる。
”フンババにキスしたい”。
夢のせいで不吉な予感から逃れられないセミは、一緒に修学旅行に行こうとハウンを必死で説得し、ビデオカメラを片手に何とか旅費を工面しようとする。しかしどこか煮え切らないハウンの態度に、セミの抑えていた感情がついに溢れ出す。心に秘めてきた想いを、今日こそ伝えたい。焦るセミと、ある事情を抱えるハウン。お互い言葉にならない気持ちを抱えたまま、2人だけの夜が訪れた―。
セウォル号沈没事故を背景に紡がれる 女子高生たちの愛の物語
『君と私』は、2014年4月16日に発生した、安山市檀園高校の生徒250人を含む、約300人以上が犠牲となったセウォル号沈没事故の前日が背景となっている。7年の歳月をかけて繊細に織り上げた脚本と、間接的に事故を想起させる丁寧な演出が高い評価を受け、長編監督デビュー作ながら、第45 回青龍映画賞にて最優秀脚本賞&新人監督賞W受賞の快挙を果たした。監督・脚本を手掛けたのは、ドラマ『D.P.-脱走兵追跡官-』シーズン1など、名バイプレーヤーとして活躍する俳優チョ・ヒョンチョル。チョ監督の個人的な経験を、セウォル号沈没事故を背景に、女子高生2人のラブストーリーへと昇華させた。
胸に想いを秘める主人公・セミ役には、映画『スウィング・キッズ』での好演が光ったパク・ヘス。セミが想いを寄せるハウン役に、世界中で社会的ブームを巻き起こしたドラマ『イカゲーム』シーズン2で迫真の演技を見せた新星キム・シウン。撮影には、広告やMVを中心に手掛ける気鋭の映像監督DQM。音楽を、今年フジロックフェスティバルにも出演し話題を呼んだ、4ピースバンド・ヒョゴのボーカルを務めるオヒョクが担当。「夢と現実の境界を曖昧にしたかった」というチョ監督のイメージを膨らませた、幻想的な映像美と浮遊感のある寂しげなサウンドが紡ぎ出す、忘れがたい一編が誕生した。
ブルーボーイ事件
Blue Boy Trial
2025年/日本/106分/DCP
■監督 飯塚花笑
■プロデューサー 遠藤日登思
■脚本 三浦毎生/加藤結子/飯塚花笑
■撮影 芦澤明子
■編集 普嶋信一
■音楽 池永正二
■出演 中川未悠/前原滉/中村中/イズミ・セクシー/真田怜臣/六川裕史/泰平/渋川清彦/井上 肇/安藤聖/岩谷健司/梅沢昌代/山中崇/安井順平/錦戸亮
©2025 『ブルーボーイ事件』 製作委員会
【5/30(土)~6/5(金)上映】
私たちは、ずっとここにいた。
1965年、オリンピック景気に沸く東京で、街の浄化を目指す警察は、街に立つセックスワーカーたちを厳しく取り締まっていた。ただし、ブルーボーイと呼ばれる、性別適合手術[*当時の呼称は性転換手術]を受け、身体の特徴を女性的に変えた者たちの存在が警察の頭を悩ませていた。戸籍は男性のまま、女性として売春をする彼女たちは、現行の売春防止法では摘発対象にはならない。そこで彼らが目をつけたのが性別適合手術だった。警察は、生殖を不能にする手術は「優生保護法」[*現在は母体保護法に改正]に違反するとして、ブルーボーイたちに手術を行っていた医師の赤城を逮捕し、裁判にかける。
同じ頃、東京の喫茶店で働く女性サチは、恋人の若村からプロポーズを受け、幸せを噛み締めていた。そんなある日、弁護士の狩野がサチのもとを訪れる。実はサチは、赤城のもとで性別適合手術を行った患者のひとり。赤城の弁護を引き受けた狩野は、証人としてサチに出廷してほしいと依頼する―。
1960年代の日本で「性別適合手術」が違法か合法かを争った事件があった。差別や偏見がはびこる今の時代にこそ必要な物語。
かつて実際に起きた“ブルーボーイ事件”に衝撃を受け、映画化を決意したのは、『僕らの未来』(11)、『フタリノセカイ』(22)、『世界は僕らに気づかない』(23)など、独創的な作品作りで国内外から大きな注目を集める期待の若手、飯塚花笑監督。当時の社会状況と事件について徹底的に調査し、裁判での証言を決意したトランスジェンダー女性サチを主人公に物語を構想した。
「この物語を描くには当事者によるキャスティングが絶対に必要」という監督の強い意志のもと、主人公サチ役の起用にあたっては、様々な経歴を持つトランスジェンダー女性たちを集めたオーディションが行われ、多くの候補者の中から主演に選ばれたのは、ドキュメンタリー映画『女になる』(17)への出演経験を持つ中川未悠。演技経験はないものの、自らの経験をもとにサチ役に見事に同化していく姿に感銘を受けた監督たちによる大抜擢となった。裁判の証人となるサチのかつての同僚たちを演じるのは、映画初出演となるドラァグクイーンのイズミ・セクシーと、連続テレビ小説『虎に翼』での演技が反響を呼んだ中村中。サチに証言を依頼する弁護士の狩野役を錦戸亮が、彼と敵対する検事役を安井順平が演じる他、前原滉や山中崇ら、メインキャストを支えるため実力派俳優たちが勢揃い。
今以上に性的マイノリティの人々に対する激しい差別が横行していた1960年代の日本で、自らの尊厳と誇りをかけて司法と、そして世間と闘った女性たち。彼女たちの声と真摯に向き合いながら、見事な演出力で社会派エンターテインメントとして纏め上げた『ブルーボーイ事件』は、いまだ差別や偏見がはびこる現代社会にこそ見るべき映画であり、私たちに熱い感動を届けてくれる。
【レイトショー】恋愛裁判
【Late Show】Love on Trial
2025年/日本/124分/DCP
■企画・監督 深田晃司
■プロデューサー 阿部瑶子/山野晃
■脚本 深田晃司/三谷伸太朗
■撮影 四宮秀俊
■編集 シルヴィー・ラジェ
■音楽 agehasprings
■主題歌 yama「Dawn」 (Sony Music Labels Inc.)
■出演 齊藤京子/倉悠貴/仲村悠菜/小川未祐/今村美月/桜ひなの/唐田えりか/津田健次郎
■第78回カンヌ国際映画祭カンヌ・プレミア部門正式出品/第3回ビアリッツ国際映画祭ヌーヴェル・ヴァーグコンペティション部門正式出品/第38回東京国際映画祭ガラ・セレクション部門正式出品 ほか多数出品
©2025「恋愛裁判」製作委員会
【5/30(土)~6/5(金)上映】
アイドルが恋をすることは罪なのか?
人気急上昇中のアイドルグループ「ハッピー☆ファンファーレ」でセンターを務める山岡真衣は、中学時代の同級生・間山敬と偶然再会し、恋に落ちる。アイドルとして背負う「恋愛禁止ルール」と、抑えきれない自身の感情との間で葛藤する真衣。しかし、ある事件をきっかけに、彼女は衝動的に敬のもとへと駆け寄る。
その8カ月後、事態は一変。所属事務所から「恋愛禁止条項違反」で訴えられた真衣は、事務所社長の吉田光一、チーフマネージャーの矢吹早耶らによって、法廷で厳しく追及されることとなる。
実際の裁判から生まれた「心」を縛るルールに迫る問題作
日本の現代社会においてアイドルは、時に大きな熱狂を生み出す存在でありながら、その裏側で人間らしい感情をルールで縛られる矛盾を抱えている。本作は、アイドルグループのセンターを務める女性が「恋愛禁止ルール」を破ったことで裁判にかけられる物語を通じて、華やかな世界の裏側に潜む孤独や犠牲、そして自己を取り戻すための闘いを痛切なリアリティで描く。
監督は、国際的に評価される深田晃司。実際の裁判に着想を得て約10年を費やし、企画・脚本も手掛けた。主演は元・日向坂46の齊藤京子が映画初主演で、アイドルの内面的な葛藤をリアルに体現。深田監督は「齊藤さんとの出会いがなければこの映画は完成しなかった。絵空事でしかなかった脚本に全身全霊で血肉を与えてくれた齊藤さんに心から敬服しています」と絶賛。共演には倉悠貴、唐田えりか、津田健次郎ら実力派俳優陣が集結し、作品に深みを与える。
































