今週の早稲田松竹は、『勝手にふるえてろ』と『ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目覚め』の二本立て。 笑って泣ける、もしかしたら胸にチクリと刺さる、そんな恋愛白書をお届けいたします。
『勝手にふるえてろ』の主人公ヨシカは24歳にもなって中学の同級生「イチ」への片思いを大事にしているイタイ女子。 って言うと、共感度ゼロって感じがしますよね。 でも、ヨシカは、いわゆる普通の女の子。 カワイイ同僚の女の子とも仲良く、上司を陰でイジりながらそこそこ楽しそうに働いてます。 会社のちょっとズレた暑苦しいタイプの同期「二」に告白だってされちゃいます。 人には言えないけど何かのオタクだったり、妄想で恋愛しちゃったり、他人との距離の測り方が分からなかったり、 興味あることには熱心だけど、それ以外どうでもよかったり。 こういう子って、実はとっても多いと思います。 彼女の妄想が炸裂しているうちは、「うーわ、イタイ女、きっつー」と思いながら笑っていられるのですが、 自分のコンプレックスを隠そうとするあまりボロが出てしまう辺りなんか、 身に覚えのある私には、ぐさぐさっと突き刺さるものがありました。
恋愛において大切なのは、自分と向き合うこと。 どんなに素敵な王子を妄想して良いところばかり見ていても、 あるいは自分とは合わないな〜と思う人の嫌なところばかり見ていても、 どちらも二人の距離が縮まることはないのです。 リアル恋愛未経験のヨシカが、頭の中で繰り広げる世界から、一歩踏み出し、 思いを口にすることで少しずつ、自分と向き合ってゆくことで、ようやく相手に歩み寄るのです。 初めはイタイ女の子にしか見えなかったヨシカが、どんどん自分の見たくないところの集合体に見えてきて、愛おしくなるんです。最後は共感しすぎて、泣けてきます。
『ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目覚め』は、主演のクメイル・ナンジアニ本人が体験した実話であり、 クメイルと実際の彼女・エミリー(現・妻)が共同で脚本を書いています。 クメイルはパキスタン出身。今ではコメディアンとして有名ですが、物語は10年前、彼が売れる前のお話です。 彼とジョークのセンスが合うエミリーはアメリカ人。二人は会うたびに惹かれあい、よい関係を築いていくのですが、 付き合っていながら、クメイルがお見合いをしまくっていたことが発覚し、二人は破局してしまいます。 「なんてひどい男! 信じられない!」と思うかもしれませんが、もちろん、お見合いは仕方なくしていました。 クメイルの一家は厳格なイスラム教徒。親が認めた相手(同郷の花嫁)としか結婚できないというのです。 白人と結婚した彼のいとこは、親戚中から縁を切られている始末。 これが宗教の違い、異文化の大きな壁だったのです。
さらに、クメイルにはもう一つ大きな問題が降りかかります。 喧嘩別れしたエミリーが、原因不明の重病で昏睡状態になってしまうのです。 それを機に彼女の両親とギクシャクしながら一緒に看病していくなかで、 どれだけ自分にとって彼女の存在が大切なのかということに気づいていきます。 ちょっと深刻な状況ではありますが、映画は全編にユーモアが散りばめられているので、 思わず笑っちゃう喜劇に仕上がっています。 でも、この騒動で一つ一つの問題に向き合い、 「自分が信じるものは、自分で決める」と、覚悟を決めたクメイルの姿は感動的。 演じているのが乗り越えてきた本人というのが、説得力を与えています。
今回はタイプの違うラブコメですが、 どっちも底抜けに笑えて、思いっきり感動します。 どうぞお楽しみください!
ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ
THE BIG SICK
(2017年 アメリカ 120分 ビスタ)
2018年7月7日から7月13日まで上映
■監督 マイケル・ショウォルター
■製作総指揮 ジャド・アパトー/クメイル・ナンジアニ/エミリー・V・ゴードン
■製作 バリー・メンデル
■脚本 エミリー・V・ゴードン/クメイル・ナンジアニ
■撮影 ブライアン・バーゴイン
■音楽 マイケル・アンドリュース
■出演 クメイル・ナンジアニ/ゾーイ・カザン/ホリー・ハンター/レイ・ロマノ/アヌパム・カー
■2017年アカデミー賞脚本賞ノミネート/インディペンデント・スピリット賞新人脚本賞受賞・助演女優賞ノミネート/サウス・バイ・サウスウェスト映画祭観客賞受賞 ほか多数受賞・ノミネート
© 2017 WHILE YOU WERE COMATOSE, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
パキスタン生まれのコメディアンのクメイルは、シカゴの大学院に通うエミリーと付き合っている。ある日、同郷の花嫁しか認めない厳格な母親に言われるまま、見合いをしていたことがバレて破局してしまう。ところが数日後、エミリーは原因不明の病で昏睡状態に。駆け付けた病院でクメイルが出会ったのは娘を傷つけたことで腹を立てているエミリーの両親テリーとベスだった。初めは敵意をあらわにしていた彼らだったが意外な出来事をきっかけに3人は心を通わせ、力を合わせてエミリーの看病を行うことになり…。
アメリカでたった5スクリーンから始まった公開が、口コミが広がりなんと2600スクリーンまで拡大して大ヒット! 様々な映画祭で観客賞を受賞し、本年度の賞レースではアカデミー賞脚本賞にノミネートされるなど大きな注目を集めた本作。しかも物語は実話で、その途方もない運命を体験した本人クメイル・ナンジアニが脚本を書き起こし、主役として出演している。
この奇想天外な実話を掘り当てたプロデューサーは、今やアメリカ・コメディ界の第一線に立つヒットメーカー、ジャド・アパトー。自身が製作した映画に端役で出演していたクメイル・ナンジアニに光る才能を見出したアパトーは、彼とのコラボレーションを探る中で直接この体験談を聞き、「映画にしないなんてあり得ない」と説得したことから企画がスタートした。
エミリーに扮するのは、『ルビー・スパークス』のゾーイ・カザン。強がりだけど繊細な誰もが応援したくなるエミリーをチャーミングに演じた。監督は、『ドリスの恋愛妄想適齢期』で、サウスバイサウスウエスト映画祭観客賞を受賞したマイケル・ショウォルター。異文化と難病という“ビッグ・シック”が、“ビッグ・ハッピー”に転じる瞬間、観る者のハートにもずっと消えない幸せがチャージされる笑顔の物語が誕生した。
勝手にふるえてろ
(2017年 日本 117分 ビスタ)
2018年7月7日から7月13日まで上映
■監督・脚本 大九明子
■原作 綿矢りさ「勝手にふるえてろ」(文春文庫刊)
■撮影 中村夏葉
■音楽 高野正樹
■主題歌 黒猫チェルシー「ベイビーユー」
■出演 松岡茉優/渡辺大知/石橋杏奈/北村匠海/趣里/前野朋哉/古舘寛治/片桐はいり
■2017年東京国際映画祭観客賞受賞/日本映画プロフェッショナル大賞ベスト10第1位・作品賞・主演女優賞受賞
© 2017映画「勝手にふるえてろ」製作委員会
24歳のOLヨシカは中学の同級生「イチ」へ10年間片思い中! そんなヨシカの前に、突然、暑苦しい会社の同期「二」が現れ告白される。「人生初告られた!」とテンションがあがるも、二との関係にいまいち乗り切れないヨシカ。ある出来事をきっかけに「一目でいいから今のイチに会って前のめりに死んでいこうと思ったんです」と思い立ち、同級生の名を騙り同窓会を計画。ついに再会の日が訪れるのだが…。
原作は、01年に「インストール」でデビュー、「蹴りたい背中」で第130回芥川賞を受賞した作家・綿矢りさによる同名小説。十八番とも言える毒舌さえわたる切れ味のいいモノローグで女性のリアルな感情を描き高い評価を受けている。『インストール』に続く2作目の映画化となる本作のメガホンを取ったのは、『恋するマドリ』や『でーれーガールズ』などで現代の女性を優しい視線で描いてきた大九明子監督。
主人公ヨシカには、『万引き家族』『ちはやふる』の松岡茉優。映画初主演となる本作でコメディエンヌとしての才能を存分に見せつける。ヨシカの“リアル恋愛”の彼氏「二」には黒猫チェルシーのボーカル・渡辺大知。本作の主題歌「ベイビー・ユー」を手掛け、ストレートな恋心を歌いあげた。“脳内片思い”の彼氏「イチ」を演じるのは『君の膵臓をたべたい』など話題作への出演が続く若手俳優・北村匠海。そのほか石橋杏奈、古舘寛治、片桐はいりなど超個性派なキャストが共演している。
恋愛に臆病で、片思い経験しかない主人公ヨシカが、もがき、苦しみながら本当の自分を解き放つ! ラブコメ史上最もキラキラしていない主人公の暴走する恋の行方を、最後まで応援したくなる痛快エンターテインメント!