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早稲田松竹ではこの2017年の終わりと2018年のはじまりに『この世界の片隅に』『この空の花 長岡花火物語』を上映します。

社会の動きをみていると、多様な現実を前にして、映画のようにたくさんの観客に提示される物語が受け入れられていることを不思議に思うことがあります。『シン・ゴジラ』や『君の名は。』といった作品は、国家的な危機や災害を描くことによって、震災以降の日本社会のムードの変化に応えて日本中で大ヒットしたとも言われていますが、はたして実際のところはわかりません。

30代のわたしは今まで、現実で起きる出来事で多くの人と共通の記憶や感情があるという状況を今まで知らずに生きてきたような気がしています。そしてこの共通の体験や記憶というものの大きさに震災以降もずっと驚き続けています。もし映画に自分のそんな感情や記憶が編み込まれているのだとしたら、それは一体どんなことなのでしょう。

「みんなが爆弾なんかつくらないできれいな花火ばかりをつくっていたらきっと戦争なんか起きなかったんだな」―山下清

『この空の花 長岡花火物語』はそんな共通の記憶や体験を数珠つなぎにするような映画です。花火と原子爆弾の構造が類似していることや、新潟市が原子爆弾投下の第一候補地であったことや、その“予行演習”として全国に49もの「模擬原爆」が落とされていたこと。 広島、長崎の原爆や空襲、中越地震、東日本大震災、原発事故。そのひとつひとつの証言や事実をつぶさに拾いあげて、長岡で打ち上げられる花火に平和や復興への願いを託す人々の祈りへと昇華させていきます。

―すずさんを通じて、ここで描かれている世界も自分たちが今いる世界の一部なんだと認識し直してほしい。
71年前の世界を、自分たちのいる世界の一部として描かなければいけないと思ったわけです。

『この世界の片隅に』について片渕監督は「この映画の空間を、想像力で埋めてはいけないと思った」と語っています。原作漫画同様のアプローチで当時の生活や風景を綿密に調べ上げて細部を書き込んだこの作品は、アニメーションだからこそこの現在とは違う、異質な空間をそのまま描かなければいけないという強い思いに貫かれています。

情報過多で多様になった社会、どんどん本当のことが見えづらくなっているこの時代に、すべての関連の糸を紡いでいった先にある「戦争と関係ない人はいない」「戦争にはまだ間に合いますか」という『この空の花』の台詞に、自分たちの世界の一部として71年前の世界を描くという『この世界の片隅に』の考えのもとに描かれた細部に、観客としての自分を新たに発見されるような映画体験をしました。これは同時に作家たちがわたしたちを発見し、そして恐れずに向かい合って表現をしてくれたということなのだと思います。あたかもすずさんの「この世界にうちを見つけてくれてありがとう」という台詞のように。

(ぽっけ)

この空の花 長岡花火物語
(2012年 日本 160分 DCP ビスタ) pic 2017年12月30日から2018年1月5日まで上映 ■監督・脚本・編集・撮影台本 大林宣彦
■製作プロデューサー 大林恭子・渡辺千雅
■脚本 長谷川孝治
■撮影 加藤雄大・三本木久城・星貴
■主題曲 久石譲
■主題歌 伊勢正三

■出演 松雪泰子/高嶋政宏/原田夏希/猪股南/寺島咲/筧利夫/ 森田直幸/池内万作/笹野高史/石川浩司/犬塚弘/ 油井昌由樹/片岡鶴太郎/藤村志保/尾美としのり/ 草刈正雄/柄本明/富司純子

©「長岡映画」製作委員会 PSC 2011
配給 TME PSC

世界中の爆弾が花火に変わったら、
きっとこの世から戦争はなくなる。
大林宣彦監督の祈りが込められた
戦争三部作第一作目!

pic 天草の地方紙記者・遠藤玲子が長岡を訪れたことには幾つかの理由があった。ひとつは中越地震の体験を経て、2011年3月11日に起きた東日本大震災に於いていち早く被災者を受け入れた長岡市を新聞記者として見詰めること。そしてもうひとつは、何年も音信が途絶えていたかつての恋人・片山健一からふいに届いた手紙に心惹かれたこと。

山古志から届いた片山の手紙には、自分が教師を勤める高校で女子学生・元木花が書いた『まだ戦争には間に合う』という舞台を上演するので玲子に観て欲しいと書いてあり、更にはなによりも「長岡の花火を見て欲しい、長岡の花火はお祭りじゃない、空襲や地震で亡くなった人たちへの追悼の花火、復興への祈りの花火なんだ」という結びの言葉が強く胸に染み、導かれるように訪れたのだ…。

pic市井の人々の“勇気と祈り”で平和を作り、何度でも蘇り復興を遂げてきた町、長岡。ほとんどの登場人物は歴史の中の実在の人物たちであり、歴史的事実が革新的なセミドキュメンタリィ・タッチの劇映画として綴られていく。そして物語は過去、現在、未来へと時をまたぎ、誰も体験したことのない世界へ――。巨匠・大林宣彦が渾身の想いを込めて紡ぎ出す反戦映画。いま、ひとつの、とてつもなく壮大な物語世界(ワンダーランド)の花が夜空に咲く!

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この世界の片隅に
(2016年 日本 129分 DCP ビスタ)
pic 2017年12月30日から2018年1月5日まで上映 ■監督・脚本 片渕須直
■原作 こうの史代「この世界の片隅に」(双葉社刊)
■キャラクターデザイン・作画監督 松原秀典
■美術監督 林孝輔
■音楽 コトリンゴ

■声の出演 のん/細谷佳正/尾身美詞/稲葉菜月/小野大輔/潘めぐみ/岩井七世/牛山茂/新谷真弓/澁谷天外

■第40回日本アカデミー賞最優秀アニメーション作品賞受賞/2016年キネマ旬報ベスト・テン日本映画ベスト・テン第1位/第41回アヌシー国際アニメーション映画祭長編部門審査員賞受賞 ほか多数受賞・ノミネート

★細かな作画や彩色などを一部修正したブラッシュアップ版での上映です。

©こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会

昭和20年、広島・呉。
わたしは ここで 生きている。
100年先も伝えたい、珠玉のアニメーション

pic1944(昭和19)年2月。18歳のすずは、突然の縁談で軍港の街・呉へとお嫁に行くことになる。夫・周作のほか、周作の両親と義姉・径子、姪・晴美も新しい家族となった。配給物資がだんだん減っていく中でも、すずは工夫を凝らして食卓をにぎわせ、衣服を作り直し、時には好きな絵を描き、毎日のくらしを積み重ねていく。

1945(昭和20)年3月。呉は、空を埋め尽くすほどの艦載機による空襲にさらされ、すずが大切にしていたものが失われていく。それでも毎日は続く。そして、昭和20年の夏がやってくる――。

クラウドファンディングで3000人を超えるサポーターから約3900万円もの制作資金を集めた『この世界の片隅に』。日本全国からの「この映画が見たい」という声に支えられ完成した本作は、第13回メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞したこうの史代の同名漫画を『マイマイ新子と千年の魔法』の片渕須直監督が映像化した。

主人公すずさんを演じるのは女優・のん。片渕監督が「ほかには考えられない」と絶賛したその声でやさしく、柔らかく、すずさんに息を吹き込む。

2016年11月に初公開後、口コミが広がり異例の大ヒットを記録。公開館は65館から390館を超え、1年以上上映が続く歴史に残るロングランとなった。2016年キネマ旬報ベスト・テン第1位、日本アカデミー賞最優秀アニメーション作品賞受賞ほか、国内外の映画祭で多くの賞に輝いている。

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