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モーリス・ピアラ

1925年フランス・オーヴェルニュ生まれ。画家を志し、パリに出て工芸学校で学ぶ。絵を描き続けるいっぽう映画にも興味を持ち、1950年にはカメラを購入してアマチュアの短篇映画を撮り始める。短篇ドキュメンタリー『L'Amour existe』('60)で監督としてデビュー。

68年、長篇劇映画『裸の幼年時代』がヴェネツィア映画祭に正式出品される。その後、ジェラール・ドパルデュー、イザベル・ユペール共演の『ルル』('80)、天才的新人サンドリーヌ・ボネールを見出した『愛の記念に』('83)などを発表。『悪魔の陽の下に』('87)ではカンヌ国際映画祭パルムドールを受賞。その際、授賞式での客席からのブーイングを受け、「あなた方が私を嫌うなら、私もあなた方が嫌いだ」と言い放ち、トロフィーを高々と掲げたというエピソードは、今もフランス映画界で語り草となっている。

2003年1月、腎臓疾患によりその生涯を閉じる。享年77歳。没後10年の2013年には、パリのシネマテーク・フランセーズにて大規模な回顧展が開催されるなど、その偉大さを再評価する気運が高まっている。

Filmography

※長編監督作のみ

・L'enfance nue(裸の幼年時代)('68)
・Villages d'enfants<中篇>('69)
・La maison des bois('71)
・Nous ne vieillirons pas ensemble('72)
・La geule ouverte (開いた口)('74)
・Passe ton bac d'abord…('79)
・Loulou(ルル)('80)
・愛の記念に('83)
・Les essais de Sandrine('84)
・ポリス('85)
・悪魔の陽の下に('87)
・ヴァン・ゴッホ('91)
・Le Garcu(パパと呼ばないで)('95)

フランスの巨匠モーリス・ピアラ。彼の映画の登場人物たちは他人の目を気にすることなくやりたいことをやり、言いたいことを言う。突如相手に殴りかかり怒号をあげながら争いあっている次のシーンでは、何ごともなかったかのように単純な日常会話が始まる。反発していたはずの女が脈絡もなく男に愛を告げ、楽しく踊っていたはずの画家は理由もなく不機嫌になる。

彼らは物語の中で築いてきたそれぞれの関係性や人物像に縛られることなく、そのつど新たに行動し、さまざまな感情を露わにする。まるで少し前までの彼らの佇まいが忘れ去られ、新しい印象を与え直そうとするようだ。キャラクターというパターンにとらわれることなく、人間の持つ多面性を、予期せぬ天気の変化のようにとらえている。その様子がとても新鮮であり、観客を困惑へと誘うと同時に魅了するのではないだろうか。

『愛の記念に』のシュザンヌの奔放さから生じる家族との諍いも、『ポリス』の刑事マンジャンと被疑者ノリアのお互いの立場を乗り越え深まる関係性も、『悪魔の陽の下に』のドニサンの人を寄せつけないほどの強烈な観念、そして『ヴァン・ゴッホ』において流れる時間、空間、人々のすべてが活き活きとしている。人間の孤独や諦念を取り上げているにもかかわらず、必ずしもネガティブではなく、むしろバイタリティにあふれた彼の映画は力強い。人間の営みの陽気な側面、暗い側面を飛び越え、その先にある純粋な衝動だけが画面に映し出される。だからこそモーリス・ピアラの映画は瑞々しい。

(ジャック)

ポリス
Police
pic (1985年 フランス 114分 ブルーレイ ビスタ)
2016年2月13日-2月15日上映
■監督・脚本・脚色・台詞 モーリス・ピアラ
■原案・脚本・脚色・台詞 カトリーヌ・ブレイヤ
■脚本・脚色・台詞 シルヴィー・ダントン/ジャック・フィエスキ
■撮影 ルチャーノ・トヴォリ
■編集 ヤン・デデ/エレーヌ・ヴィアール

■出演 ジェラール・ドパルデュー/ソフィー・マルソー/リシャール・アンコニナ/パスカル・ロカール/サンドリーヌ・ボネール/ジャック・マトゥ/ヤン・デデ

■1985年ヴェネツィア国際映画祭最優秀男優賞

★3日間上映です。

決して引き返せない愛の渦――
抑えられない感情が刑事と女を運命的に結びつける!

picマンジャンは麻薬捜査担当の警察だ。アラブ人の麻薬取引捜査のなかで、若い女性ノリアと出会う。マンジャンはしつこく尋問するが、ノリアは罪を認めない。その後、仮釈放されたノリアとマンジャンは偶然にも再会する。マンジャンは妻に先立たれた寡夫だ。「恋愛など馬鹿げている」と言いながらも、彼は次第にノリアに惹かれていく…。

フランス本国で183万人を超える動員を記録したピアラ最大のヒット作。暴力的な尋問、犯罪者との人間関係といった警察の日常が描写される。その生活の裏側で、寂しさ、弱さを抱えている男をジェラール・ドパルデューが熱演。原案・共同脚本は『ロマンスX』の監督で知られるカトリーヌ・ブレイヤ。

81年に公開された『ラ・ブーム』が驚異の大ヒットとなり一躍国民的アイドルとなったソフィー・マルソーは、ドパルデューの希望により本作への出演が決定、本作を機にアイドルを完全脱皮した。弁護士ランベール役のリシャール・アンコニナは、ピアラの親友であるクロード・ベリ監督の『チャオ・パンタン』で評価され、セザール賞助演男優賞と有望若手男優賞をW受賞している。

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ヴァン・ゴッホ
Van Gogh
pic (1991年 フランス 160分 ブルーレイ ビスタ)
2016年2月13日-2月15日上映
■監督・脚本・台詞 モーリス・ピアラ
■撮影 エマニュエル・マシュエル/ジル・アンリ
■衣装 エディット・ヴェスペリーニ/ティエリー・デレットル
■美術 フィリップ・パリュ/カティア・ヴィシュコフ
■編集 ヤン・デデ/ナタリー・ユベール

■出演 ジャック・デュトロン/アレクサンドラ・ロンドン/ベルナール・ル・コク/ジェラール・セティ/コリーヌ・ブルドン/エルザ・ジルベルシュタイン/レズリー・アズライ

■1991年カンヌ国際映画祭正式出品/1992年セザール賞主演男優賞受賞、作品賞・監督賞ほか6部門ノミネート

★3日間上映です。

美しく穏やかな風景のなかで過ごした
画家ゴッホ、最期の日々――
ピアラの後期代表作

1890年5月、37歳のヴィンセント・ヴァン・ゴッホはオーヴェルの村を訪れた。医師ガシェの診察を受けたゴッホは、そこで娘のマルグリットと出会う。美術コレクターでもあるガシェと親しくなった彼は、マルグリットをモデルにした絵を描くために家に通うようになる。マルグリットはゴッホに恋をした。

ゴッホの絵は全く売れない。批評家に対しては無礼に振る舞ってしまう。もはや自分の絵にも自信を持てない。画商である弟テオとの関係も悪くなる一方だ。マルグリットは、ゴッホを日々愛するようになっていた。「愛が欲しい。でも、私を愛していないのね」彼女はいつしか気づいていたのだ。彼の心をとらえるものは、彼自身の絵画だけであることを。

pic 映画監督になる前、画家でもあったピアラが最も敬愛するゴッホを描いた傑作。美しく穏やかな風景のなかで過ごした、画家に訪れる死までの日々。ゴッホを演じたジャック・デュトロンは、本作でセザール賞を受賞した。現代フランス映画の作家たちに多大なる影響を与えた作品であり、公開当時、ジャン=リュック・ゴダール監督はピアラ本人に次のような賛辞を記した手紙を送った。

「親愛なるモーリスへ、
今回のあなたの作品は驚嘆に値する。ほんとうに驚嘆に値する作品だ。いまにいたるまで我々の哀れな眼差しに覆われていた、映画の地平の遥か彼方を行っている。あなたの眼差しは、カメラに、女の子や男の子たちを、そして空間と時間と色彩を、血気盛んな子供のように追いかけまわしに行かせる偉大な心だ。」ジャン=リュック・ゴダール
※1991年映画公開時にピアラ本人に書き送った手紙より抜粋

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悪魔の陽の下に
Sous le soleil de Satan
pic (1987年 フランス 97分 ブルーレイ ビスタ)
2016年2月16日-2月19日上映
■監督・出演 モーリス・ピアラ
■原作 ジョルジュ・ベルナノス
■脚本 シルヴィー・ダントン
■撮影 ウィリー・クラント
■美術 カティア・ヴィシュコフ
■編集 ヤン・デデ

■出演 ジェラール・ドパルデュー/サンドリーヌ・ボネール/アラン・アルチュール/ヤン・デデ/ブリジット・ルジャンドル/ジャン=クロード・ボルラ/ジャン=クロード・ブヴェ

■1987年カンヌ国際映画祭パルムドール受賞

★4日間上映です。

子を生きかえらせよ――
ささやきが聞こえる 内なる声が
神父ドニサンよ、禁断に立ち向かえ

pic敬虔な聖職者であるドニサンは、ときに過剰な苦行を自らに課し、自分が真に聖職者に値する才能があるのかと苦悩している。16歳のムシェットは父親の友人であるカディニャン公爵と密かに情事を重ねていた。ある晩、彼に妊娠したことを告げたが、公爵は卑劣な逃げ腰の態度を見せるだけ。逆上したムシェットは部屋にあった銃を手にしていた…。

真夜中、ドニサンが田舎道を歩いていると、隣を歩く馬商人に話しかけられる。実は彼は試みを与える悪魔であり、自分の分身を意味していた。「おれが見えたら、他人の心も見える。お前が見るのは、おれの憎しみだけだ」。その言葉を残し、目覚めると馬商人は消えていた。その明け方、ドニサンはムシェットと出会う。ドニサンは、ムシェットがこれまでついた嘘も犯した罪も、これから訪れる試練をもすべて理解できるようになっていたのだ。

ロベール・ブレッソン監督による『少女ムシェット』、『田舎司祭の日記』の原作でも知られる作家ジョルジュ・ベルナノスの同名小説を映画化。敬遠な聖職者・ドニサンの行動を通し、胸の内に潜む聖なるものと魔性なるもののせめぎ合いを抱えながら生きていく人間の姿を描く。カンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞した際に、授賞式で客席からのブーイングを受け、「あなた方が私を嫌うなら、私もあなた方が嫌いだ」と言い放ち、トロフィーを高々と掲げたピアラのエピソードは有名である。

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愛の記念に
A nos amours
pic (1983年 フランス 100分 ブルーレイ ビスタ)
2016年2月16日-2月19日上映
■監督・脚本・台詞・出演 モーリス・ピアラ
■脚本・台詞・美術 アルレット・ラングマン
■撮影 ジャック・ロワズルー/ピエール・ノヴィオン
■美術 ジャン=ポール・カマイユ
■編集 ヤン・デデ/ソフィー・クサン
■歌 クラウス・ノミ(ヘンリー・パーセル「コールド・ソング」)

■出演 サンドリーヌ・ボネール/エヴリーヌ・ケール/ドミニク・ベズネアール/アンヌ=ソフィー・マイエ/マイテ・マイエ/クリストフ・オダン

■1983年ルイ・デリュック賞受賞/1984年セザール賞作品賞・有望若手女優賞受賞

★4日間上映です。

愛を求めて奔放な恋に生きる15歳の少女――
傷つきながら成長してゆく思春期を繊細に描く珠玉作

シュザンヌは15歳。リュックという恋人がいるものの、他の男たちとも奔放に付き合っている。毎晩のように男友達と出かけるシュザンヌは、家族にとっては疎ましい存在だった。ある夜、遅い時間に帰ってきたシュザンヌは父親から叱られる。しかしそこで初めてちゃんと向き合い話をしたことで、二人はいつになく親しみを感じ合った。父親はこの家を出て、家族と離れようと思っていることを告げた。

pic父親が不在となり、家のなかは混乱している。母親と兄は以前にも増してシュザンヌに干渉し、夜遊びを責め立てるようになった。シュザンヌはといえば、男と会うたびに父のことを思い出してしまうのだった。やがて、シュザンヌは結婚した。しかし平穏な結婚生活は長く続かず、彼女は兄の友人であるミシェルとともに新しい場所へ旅立つ決心をする。空港には見送りに来た父の姿があった。

日本で公開された初めてのピアラ作品。キャスティングを担当していた名スカウト、ドミニク・ベズネアール(本作で兄役も演じている)によって見出された新人女優サンドリーヌ・ボネールは、他の候補者を押しのけヒロイン役に抜擢され、その天才少女ぶりを発揮。本作を機に一躍脚光を浴び、ピアラはその後の『ポリス』、『悪魔の陽の下に』で立て続けに起用した。ピアラ自身が監督・脚本のみならず、厳しくも愛情深い父親役を演じている。

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