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ジャン・ルノワール、ロベール・ブレッソン。
その名前を見たときに、尊敬と親愛の印のようなものを見つけた気がして、
誰にも見つからないように、どこかにそっとその名前を刻みたい誘惑に駆られてしまう。

彼らの表現に秘められたスリリングな誘惑。
人生や世界を描いてしまうという禁じられた遊び。
彼らの作品が映画狂(シネフィル)と呼ばれる人たちにとりわけ愛されるのは、
完璧さを讃えてもなお余りあるほどに豊かな映画体験、
そこに神秘的な光を見出してしまったからではないだろうか。

フランスのヌーヴェルヴァーグの作家たちに敬愛され、
その父と称されることもあるジャン・ルノワール。
同じくヌーヴェル・ヴァーグと交流を持ちつつも、
確固とした自身の映画作りを貫いた孤高の作家、ロベール・ブレッソン。
フランス映画だけに留まらず、世界中の作家たちに
いまも影響を与え続けている彼らの恩寵に満ちた作品、『ピクニック』『やさしい女』

印象派の画家、ピエール=オーギュスト・ルノワールの次男として生まれたルノワールの映画はしばしば絵画的とも言われ、
『ピクニック』にも父の絵画(「ブランコ」「田舎のダンス」)との協奏するようなイメージが見られる。
しかしそれ以上に、題材となるロケーション(実際に幼い頃から通っていたルノワール家の別荘の近く)や、
人物へのオマージュと愛情に溢れた演出は、自然や登場人物がカメラと調和し、
まるで光が踊りだしそうだとさえ言われる。

音楽的と言っていいほどに厳密に抑揚の計算されたショット、
俳優を「モデル」と呼び、素人俳優を起用することの多いブレッソン。
その中でも『やさしい女』のドミニク・サンダほど気高く知性的な女性が描かれたことはないだろう。
質屋を訪れた若く美しいが、ひどく貧しい少女。
「あなたの望みは愛ではなく結婚だわ」と結婚の無意味を投げかける少女の、
その美しさゆえに、恐ろしくさえある鋭い視線は見るものの心の影を照らし出してしまう。

彼らの映画に現れる俳優たちの危ういほどにありのままの姿や、
開放的でおおらかな感情のそれぞれに、私がかつて抱いたことのある感情さえ思い起こされつつも、
わたしは、これは現実には起こらなかったことだと自分に言い聞かせずにはいられない。

なぜなら、こんなにも美しく残酷な光景は現実では一度も見たことがないからだ。
そして、今後もきっと見るはずもない。映画をみるまでは、遭遇するはずがない世界だったからだ。

だからこそ、この映画たちは私をその世界に住みたいとさえ思わせてしまった。
木々と川の流れに包まれて、自然が精神と調和するルノワールの恩寵に満ちた世界。
純白に包まれ、人のわずかな心の動きが浮き彫りになってしまうブレッソンの峻厳で官能的な世界。
そんな世界に触れるたびに生き返る気がするのだ。

芸術と出会い、人は想像力を命の糧にして生きている。
そのことが、あの窓辺に、あの川のほとりに何度でも私たちを立ち帰らせる。
その乾いた風に頬を撫でられ、足元に返す波を永遠に眺めていたい。

(ぽっけ)

ピクニック デジタルリマスター版
Une Partie de Campagne
(1936年 フランス 40分 DCP スタンダード) pic 2015年9月19日から9月25日まで上映 ■監督・脚本・台詞 ジャン・ルノワール
■原作 ギィ・ド・モーパッサン「野あそび」
■製作 ピエール・ブロンベルジェ
■助監督 ジャック・ベッケル/アンリ・カルティエ=ブレッソン/ルキーノ・ヴィスコンティ/イヴ・アレグレ/ジャック・B・ブリュニウス/クロード・エマン
■撮影 クロード・ルノワール
■編集 マルグリット・ルノワール/マリネット・カディス
■音楽 ジョゼフ・コスマ

■出演 シルヴィア・バタイユ/ジャーヌ・マルカン/アンドレ・ガブリエロ/ジョルジュ・サン=サーンス/ジャック・B・ブリュニウス/ポール・タン/ガブリエル・フォンタン

光が踊っている
祝福を受けたかけがえのない一日

pic夏のある晴れた日。輝く太陽、匂い立つ草、穏やかな水面、幸せなピクニックの一日はきらきらと輝いていた。結婚を控えた娘アンリエットは自然に導かれるように、現地で出会った青年アンリと結ばれる。永遠に消えることのない一瞬の輝き。そして待ち受ける別れと再会――。

印象派の画家、父ルノワールから受け継がれた美の真髄。
数奇な運命をたどった奇跡の映画が、デジタルリマスターで甦る!

pic画家ピエール=オーギュスト・ルノワールの息子であるジャン・ルノワール監督の『ピクニック』は印象派絵画を越える美しさにあふれた奇跡の映画だ。トリュフォー、ゴダールをはじめヌーヴェル・ヴァーグの作家たちから映画の父として敬愛されたルノワール。本作でも助監督には、アンリ・カルティエ=ブレッソン(スチール写真も担当)やジャック・ベッケル、ルキーノ・ヴィスコンティらそうそうたる名前が並ぶ。ヒロインを演じたのは、当時ジョルジュ・バタイユ夫人であったシルヴィア・バタイユがつとめた。

1936年に撮影された本作のプリントは完成を待つ前に大戦が勃発しドイツ軍によって破棄。ところがオリジナルネガはシネマテーク・フランセーズの創設者アンリ・ラングロワによって救出されていた。そしてプロデューサーのピエール・ブロンベルジェの執念により、当時アメリカへ亡命していたルノワール監督の了承を得て編集作業が進められついに完成、1946年にパリで公開となった。

出会いと別れ。喜びと悲しみ。調和と崩壊。人生に起こるドラマのすべてが凝縮された40分。一瞬の愛のきらめきを得ながらも結ばれることのない男女のドラマから、人生の歓びや切なさが浮き彫りになっていく。

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やさしい女 デジタル・リマスター版
Une femme douce
(1969年 フランス 89分 DCP ヨーロピアン・ビスタ) pic 2015年9月19日から9月25日まで上映 ■監督・脚色・脚本・台詞 ロベール・ブレッソン
■原作 フョードル・ドストエフスキー「やさしい女 幻想的な物語」
■撮影 ギスラン・クロケ
■音楽 ジャン・ウィエネル

■出演 ドミニク・サンダ/ギイ・フライジャン/ジャン・ロブレ

一組の夫婦に起きた悲劇――
人を愛するとは、どういうことか。

pic「彼女は16歳ぐらいに見えた」。質屋を営む中年男は妻との初めての出会いをそう回想する。安物のカメラやキリスト像を質に出す、若く美しいがひどく貧しい女と出会った男は、「あなたの望みは愛ではなく結婚だわ」と指摘する彼女を説き伏せ結婚する。質素ながらも順調そうに見えた結婚生活だったが、妻のまなざしの変化に気づいたとき、夫の胸に嫉妬と不安がよぎる・・・。

原作ドストエフスキー×監督ロベール・ブレッソン
ドミニク・サンダ、17歳のデビュー作!

pic 衝撃的なオープニングから始まる本作は、一組の夫婦に起こる感情の変化と微妙なすれ違いを丹念に描き、夫婦とは、愛とは何かという根源的な問いを投げかける。原作は、ドストエフスキーの短篇のなかでも最高傑作と呼ばれる「やさしい女 幻想的な物語」。ブレッソンは原作のプロットを守りながらも、物語の舞台をロシアから現代(60年代後半)のパリへと移し、大胆な翻案を施した。

孤独な女を演じるのは、ベルナルド・ベルトルッチ監督『暗殺の森』『1900年』で知られるフランスの女優ドミニク・サンダ。ファッション雑誌VOGUEでモデルをしていたところをブレッソン監督に見出され、本作で映画デビュー。自らも15歳で年上の男と結婚するも数カ月で離婚という経歴を持つサンダは、映画初出演ながら、年上の夫を翻弄しながらも苦悩する女を見事に演じてみせた。

1986年の日本公開以来ほとんど上映機会がなく、ソフト化もされていない貴重な映像が、このたびデジタル・リマスター版でよみがえる!

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