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しんでゆくきょうりゅうの
うめきに
みみをすます
かみなりにうたれ
もえあがるきの
さけびに
なりやまぬ
しおざいに
おともなく
ふりつもる
プランクトンに
みみをすます
なにがだれを
よんでいるのか
じぶんの
うぶごえに
みみをすます

谷川俊太郎「みみをすます」より一部抜粋

新しい年の始まり。
一年の中で一番空気が澄んでいて、どことなく厳かな雰囲気を感じます。

そんな季節にお届けするのはドキュメンタリー二本立て。
とはいっても、この二本は通常のドキュメンタリーとは少し様相が違います。

アルプス山脈に建つ修道院グランド・シャルトルーズの中にカメラが入った
『大いなる沈黙へ グランド・シャルトルーズ修道院』と、
マサチューセッツの港町ニューベッドフォード沖の過酷な漁を映した
『リヴァイアサン』

そこには言葉はほとんどありません。
かわりに、雑踏の中で生きる私たちの生活では
見えないものや聞こえないものが充満しています。

一面雪に覆われた真冬の修道院や、小窓から差す太陽の光など、
『大いなる沈黙へ〜』は白が印象的です。
一方『リヴァイアサン』では、
荒々しく波打つ漆黒の海が常に画面を支配しています。

非日常へと誘う光と闇の世界。
考えることをやめ、映像と音に身を任せればいい。
目を凝らし、耳を澄ませ、感じてみてください。
今週は、「観る」のではなく「体験する」映画の二本立てです。

(パズー)


大いなる沈黙へ グランド・シャルトルーズ修道院
DIE GROSSE STILLE
(2005年 フランス/スイス/ドイツ 169分 DCP ビスタ) pic 2015年1月3日から1月9日まで上映 ■監督・製作・脚本・撮影・編集 フィリップ・グレーニング
■製作 ミヒャエル・ウェバー/アンドレス・フェフリ/エルダ・ギディネッティ

■2006年サンダンス映画祭審査員特別賞受賞/ヨーロッパ映画祭ベストドキュメンタリー賞受賞/ドイツ映画批評家協会賞ベストドキュメンタリー賞受賞/ドイツカメラ賞最優秀賞受賞/バーバリアン映画祭ベストドキュメンタリー賞受賞

静けさのなかに聴こえてくる
ふりそそぐ光の音 ふりしきる雪の音――

picフランスアルプス山脈に建つグランド・シャルトルーズ修道院は、カトリック教会の中でも厳しい戒律で知られるカルトジオ会の男子修道院である。修道士たちは毎日を祈りに捧げ、一生を清貧のうちに生きる。自給自足、藁のベッドとストーブのある小さな房で毎日を過ごし、小さなブリキの箱が唯一の持ちものだ。会話は日曜の昼食後、散歩の時間にだけ許され、俗世間から完全に隔絶された孤独のなか、何世紀にもわたって変わらない決められた生活を送る──これまで内部が明かされたことはなかった。

picドイツ人監督、フィリップ・グレーニングは1984年に撮影を申し込み、16年後のある日、突然、扉が開かれた。差し出された条件は音楽なし、ナレーションなし、照明なし。中に入れるのは監督ただ一人。カメラを携えて6カ月間を修道士とともに暮らした。なにも加えずあるがままを映すことにより、自然光だけで撮影された美しい映像がより深く心に染み入り未知なる時間、清澄な空気が心も身体も包みこむ。

音がないからこそ、聴こえてくるものがある。
言葉がないからこそ、見えてくるものがある。

pic本作は構想から21年の歳月を費やして製作され、長らく日本公開が待たれていた異色のドキュメンタリーである。中世からの石造りの聖堂、回廊──。冬から春へ、ゆるやかにめぐる季節、くりかえされる祈りと務め、修道士たちの澄んだまなざし、空のうつろう青の色、雲、ふりしきる雪、火、窓辺の明かり──この世の喧騒からとおく離れ、まったく異なる時間が流れてゆく。

この作品は修道院を撮影したというよりむしろ、映像が修道院そのものとなったと言える。今日の社会のように、かたちや結果に価値をおくのではなく、内なる精神に意味を求める日々、この沈黙にみちた深い瞑想のような映画には、進歩、発展、テクノロジーのもとで、道を見失った現代社会に対する痛烈な批判と、今日の物質文明を原点から見直そうとする思いが根底にある。森羅万象、瞬間がこの上なく尊く、観る者はこの2時間49分をとおして、かけがえのない経験をすることだろう。

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リヴァイアサン
LEVIATHAN
(2012年 アメリカ/フランス/イギリス 87分 DCP ビスタ) pic 2015年1月3日から1月9日まで上映 ■監督・製作・撮影・編集 ルーシァン・キャステーヌ=テイラー/ヴェレナ・パラヴェル

■2012年ロカルノ国際映画祭国際映画批評家連盟賞受賞/LA映画批評家協会賞インディペンデント・実験的作品賞受賞/ニューヨーク映画祭正式出品/トロント国際映画祭正式出品/2013年ベルリン国際映画祭正式出品

これは映画か怪物か?

picニューベッドフォード――かつて世界の捕鯨の中心であり、文豪ハーマン・メルヴィルの「白鯨」をインスパイアしたあの港町から、我々は巨大な底引網漁船アテーナ号とともに絶海へむかう。危険で過酷な漁は数週間にわたり、船は漆黒の海を航く。そこでは昼と夜、美と恐怖、生と死とが不気味に溶けあい、やがて我々の時空の感覚を狂わせていく。

カメラは網の中でもがく魚たちや、上空を飛び交うカモメの目線となり、虚空を舞い、海中へとダイブする。泡立つ波音、クレーンの軋み、波に揉まれた船体があげるうめき。圧倒的な映像と音響の奔流。『リヴァイアサン』は、そのただなかに我々を放りこむ。もはやこれは黙示録の体験である。

自然と人間のかかわりの深淵へ
狂っているのは世界か、人類か
人類がはじめて体感する海洋ドキュメンタリーの極北

pic監督のルーシァン・キャステーヌ=テイラーとヴェレナ・パラヴェルは映像作家であり、ハーバード大学「感覚民族誌学研究所」の人類学者でもある。二人はこれまで誰も試みたことのないやりかたで人間、海、機械装置、海洋生物といった現代商業漁業にかかわるすべてを鮮烈に、生々しく活写していく。

picハーバード大学「感覚民族誌学研究所」とは、美学と民族誌学との革新的な連携を推進する実験的な研究所である。本作のルーシァン・キャステーヌ=テイラーがデイレクターをつとめ、アナログとデジタル両方のメディアを活用した研究の成果として映画、ビデオアート、音声、写真作品などを発表している。数々の刺激的な映像作品を生み出し、世界の名だたる国際映画祭で、驚きと衝撃をもって迎えられている。

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