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アレクセイ・ゲルマン

1938年レニングラード生まれ。父は高名な作家のユ−リー・ゲルマン。レニングラードの芸術大学を卒業後、舞台監督になるが映画に転じ、レンフィルム撮影所に入る。67年にグリゴーリー・アローノフとの共同監督で「七番目の道づれ」を手がける。71年『道中の点検』を監督(この作品は86年に一般公開されるまで15年間上映禁止となった)。

76年『戦争のない20日間』を完成させる。フランスではジョルジュ・サドゥール賞を受賞する。84年『わが友イワン・ラプシン』を監督。ゴルバチョフ体制下のペレストロイカにより作品の公開が進み、世界からの注目を集めるようになる。若手映画作家などの指導にあたりつつ、98年『フルスタリョフ、車を!』を発表。カンヌ映画祭に正式出品された。

2000年、ストルガツキー兄弟の小説「神様はつらい」にインスパイアされたSF映画『神々のたそがれ』に取り組み始め、13年間にわたって同作の製作に従事したが、完成を目前に控えた2013年2月21日にサンクトペテルブルクにて心不全により死去。享年74。

filmography

・七番目の道づれ<未>('68)※グリゴーリ・アノロフとの共同監督
・道中の点検('71)
・戦争のない20日間('76)
・わが友イワン・ラプシン('84)
・フルスタリョフ、車を!('98)
・神々のたそがれ('13)

撮影開始から15年の歳月をかけていた『神々のたそがれ』の完成間際の2013年に急死した、ロシアの映画作家アレクセイ・ゲルマン。彼はその妥協ない創作姿勢ゆえ、真に怪物的と呼ぶにふさわしい世界的巨匠です。

ゲルマンは、毎回準備段階で膨大なリサーチと時代考証を行い(長篇第3作目『戦争のない20日間』の際には、戦争時代に聞こえていたリアルな音を再現するため、当時を経験していた盲人たちに取材したといいます)、政治的タブーを恐れない姿勢ゆえ、当局に殺される覚悟もしながら映画を製作していたといいます。

今回お送りする全4作品全てにおいて、ゲルマンのまなざしはロシアの経た過酷な歴史に向けられています。そこでは、まるでドキュメンタリーのように迫真的でありながら、現実を見つめるまなざしの峻烈さゆえにシュールリアリズムに限りなく近づいた光景が広がっています。

『道中の点検』の、ロシア人捕虜を大量に積んだドイツ軍の船が通る場面にうつる、もはや人間である以前の「物」に還元されたかのような捕虜たちの表情。

あるいは、『わが友イワン・ラプシン』のまるでタイムスリップしたカメラの目線から断片的に眺められているような、1935年のロシアの市井の人々の虚無的生活。

そして『フルスタリョフ、車を!』のスターリンの独裁下、粛清が日常茶飯事だった時代を生きる人々の悲惨さや恐怖を通り越したような異常なハイテンション・・・。

それらは、あまりの異様さゆえにこの時代のロシアの人々が置かれていた精神状態を私たちに強烈に体感させることになります。

また、『戦争のない20日間』では、戦場から離れた内地の人々の営みの中から、戦場とは別の形で存在する過酷な「戦争」の実態が静かに炙り出されていきます。一般的な戦争映画では取捨されてしまう、日常生活を支配する見えない「戦争」のありかたを見つめようとするその姿勢は、国家や時代の垣根を越えて現代のわたしたちを揺り動かす力を持っています。

生涯に残した作品はわずか6本(単独監督作品は5本)。多くがモノクロなこともあり、その独特な映像世界をとっつきにくく感じるかも知れません。しかし、良く見れば徹底的に構築された妥協のない映像からあふれる哀切な詩情と、厳しいタッチの隙間から放たれる豪胆なユーモアセンスが感じ取れると思います。

全作が映画史上最重要作と呼んでも言い過ぎではない4本。スクリーンの暗闇でこそ体感できるこの映像世界を是非体験して下さい!

(ルー)


わが友イワン・ラプシン
МОЙ ДРУГ ИВАН ЛАПШИН
(1984年 ソ連 98分 35mm SD/MONO)
pic 2015年8月8日から8月10日まで上映 ■監督 アレクセイ・ゲルマン
■原作 ユーリー・ゲルマン
■脚本 エドゥアルド・ヴォロダルスキー
■撮影 ワレーリー・フェドーソフ
■美術 ユーリー・プガチ
■音楽 アルカジー・ガグラシヴィリ

■出演 アンドレイ・ボルトネフ/二ーナ・ルスラーノワ/アンドレイ・ミローノフ/アレクセイ・ジヤルコフ/アレクサンドル・フィリッペンコ/ジナイーダ・アダモーヴィチ

■1986年ロカルノ国際映画祭銅豹賞・FIPRESS1賞

★3日間上映

パラダイスを夢見た男たちが町に殺人鬼を追う――
歴史の空白を埋める問題作。

1930年代半ば頃のロシアの貧しい地方都市ウンチャンスク。物語は当時、まだ小学生だった作家の回想で綴られてゆく。

picこの田舎町の官舎のぼろアパートに、作家は刑事の父と一緒に住んでいる。その同じアパートに、作家の父と同じ刑事捜査局の、穏やかで控えめな性格だが、精桿で悪には容赦しない刑事イワン・ラプシン、そして、ちょっとネクラの刑事オコーシキンが住んでいた。町ではその頃、ソロビヨフという殺人鬼が出没し、たびたび殺人事件を引き起こして人々を震え上がらせていた。ラプシンとその仲間は何とかして彼を捕らえようと必死だった。

そんな折、ラプシンは、この町の劇団の女優ナターシャと知り合った。彼女は、役作りのために本物の売春婦の話が聞きたいと言って署にラプシンを訪ねて来た。やがて、ラプシンはナターシャに魅かれるようになるが・・・。

picゲルマン監督の長編第三作で、監督の父で有名な作家ユーリー・ゲルマンの小説「ラプシン」他をモチーフに、舞台をレニングラードから架空の小さな地方都市に移して映画化。ある港町で殺人鬼を追う刑事とその仲間たちの愛と友情を描くと同時に、これまで光の当てられることのなかった、スターリンによる粛清が始まる直前の1930年代の実相をリアルに物語っている。

それまでソビエト映画は、1930年代といえば全てバラ色の時代、人々は皆、自信に溢れ、胸を張って社会主義建設にいそしんでいたかの様に描いてきたが、この映画はそうした偏見をくつがえすことになり、大きな反響を呼んだ。

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フルスタリョフ、車を!
ХРУСТАЛЕВ,МАШИНУ!
(1998年 フランス/ロシア 142分 35mm SD/MONO) pic 2015年8月8日から8月10日まで上映 ■監督・脚本 アレクセイ・ゲルマン
■脚本 スヴェトラーナ・カルマリータ
■撮影 ウラジーミル・イリネ
■編集 イリーナ・ゴロホフスカヤ
■音楽 アンドレイ・ペトロフ

■出演 ユーリー・アレクセーヴィチ・ツリロ/N・ルスラノヴァ/M・デメンティエフ/Y・ヤルヴェット

■1998年カンヌ国際映画祭コンペティション部門正式出品

★3日間上映

前作『わが友イワン・ラプシン』から14年
アレクセイ・ゲルマンがみなぎるパワーで描く
ロシア近代史の暗闇

pic主人公はモスクワの病院の脳外科医にして赤軍の将軍、ユーリー・クレンスキー。大富豪の長でもある彼は、病院と、家庭と、愛人のところを行き来する日々を送っている。決してアルコールを手放すことはない。

時は1935年、反ユダヤ主義の色濃い時代、将軍はスターリンの指示のもとKGB(秘密警察)が企てたユダヤ人医師を迫害する計画に巻き込まれてしまうことになる。気配を察して彼は逃げようとするが、すぐに捕らえられ、強制収容所で拷問を受ける。ところが突然解放されて、スターリンの側近ベリヤに、ある要人を診ろと言われる・・・。

タイトルの「フルスタリョフ、車を!」というのは、ソビエトの独裁者スターリンが息を引き取る直前、側近を通して命じたという言葉。映画は、そのスターリンの死の1953年に始まり、約10年後で終わる。

実に多くの人物が登場し、交わされる台詞も膨大な量で、それらには一見、脈絡がない。説明を廃して、ひたすら画面に映し出される「出来事」だけが描かれ、次々と転換していく。そのスピードは常人にはついてゆくのがやっとで、マーティン・スコセッ シ監督が「何が何だかわからないが、すごいパワーだ」と評したというほど。

「知性でロシアを理解することはできない。メジャーで測ることもできない」とゲルマン監督は語っている。

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道中の点検
ПРОВЕРКА НА ДОРОГАХ
(1971年 ソ連 97分 35mm シネスコ/MONO)
pic 2015年8月11日から8月14日まで上映 ■監督 アレクセイ・ゲルマン
■原作 ユーリー・ゲルマン
■脚本 エドゥァルド・ヴォロダルスキー
■撮影 L・コルガノフ/B・アレクサンドロフスキー/V・ミローノフ
■美術 ワレーリー・ユルケーヴィチ
■音楽 イサーク・シワルツ

■出演 ロラン・ブイコフ/ウラジーミル・ザマンスキー/アナトーリー・ソロニーツイン/アンダ・ザイツェ/ゲンナジー・ジュジャエフ/ニコライ・ブルリャーエフ

■1987年ベオグラード国際映画祭優秀男優賞

★4日間上映

彼は“生”の証しを立てられるか?
白銀の焦土に展開する息づまるサスペンス!

pic1942年冬。ロコトコフ隊長が率いるパルチザンの小部隊は、ドイツ軍占領下のロシア北西部でナチスの討伐隊に包囲されて、困難な活動を続けていた。そこへ突然、ソビエト軍のもと伍長でラザレフと名乗る男が投降してくる。彼は、敵側に一度寝返って彼らに協力したのだが、今は後悔していて、自分の罪を償いたいという。

裏切り者はただちに処罰すべしというペトゥシコフ少佐、身の証を立てる機会を与えようとするロコトコフ隊長。背後には刻々と討伐隊の戦火がせまるのだった・・・。

pic原作は、監督の父である作家ユーリー・ゲルマンの小説「“祝新年”作戦」。独ソ戦をテーマにした作品ながら、ドイツ軍との激しい戦闘や将兵の勲功よりも、むしろ銃後で苦闘したさまざまな人物像に光をあて、かれらの困難な生活や内面的な悩みを描いて、友情と反目、信頼と裏切りといった人間的で普遍的なテーマを追及している。

画面の細部にまでこだわるその透徹したリアリズムは、長くロシア文学に脈打つ伝統を思わせ、この作品の製作当時、33才の若き監督の大きな才能をうかがわせる作品であるが、主題と内容から15年間にわたって上映が禁止されていた。

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戦争のない20日間
ДВАДЦАТЬ ДНЕЙ БЕЗ ВОЙНЫ
(1976年 ソ連 102分 35mm シネスコ/MONO) pic 2015年8月11日から8月14日まで上映 ■監督 アレクセイ・ゲルマン
■原作・脚本 コンスタンチン・シーモノフ
■撮影 ワレーリー・フェドーソフ
■美術 エフゲニー・グコフ
■音楽 V・ラヴロフ

■出演 ユーリー・ニクーリン/リュドミーラ・グルチェンコ/アレクセイ・ペトレンコ/ミハイル・コノノフ/エカテリーナ・ワシリエワ

■1977年フランス<ジョルジュ・サドゥール>賞受賞

★4日間上映

シーモノフの自伝的小説を映画化した、
寡黙で不器用な中年男の孤独な物語

pic1942年より43年にかけての数日間、従軍記者のロパーチンは休暇を兼ねて戦線から遠く離れた中央アジアの都市タシケントを訪れた。タシケント行きの目的には妻との離婚という気の進まぬ用事があった。女優である彼の妻は、既にこの地で同じ劇団の男と同棲を始めていたのである。

彼にはまた、地元の映画スタジオを訪問するという仕事があった。自分の書いたスターリングラード戦従軍記の一つが映画化されるので、撮影現場に立ち会うことになっていたのだ。だが戦争のなまなましさを正確に再現しようと熱意を燃やすロパーチンは、虚飾に満ちたシーンの運続にうんざりし、監督らスタッフと衝突する。

原作はコンスタンチン・シーモノフの「ロパーチンの手記より」。従軍記者ロパーチンの20日間の休暇の様々な人々との出会いの中で、大人の愛が描かれる。古びた列車や寂しげなタシケントの街など、叙情味あふれる美しい映像で絶賛を受けた撮影監督ワレーリー・フェドーソフは、引き続き『わが友イワン・ラプシン』でもゲルマン監督とコンビを組んだ。

『道中の点検』が1971年に公開禁止となったため、その後長く不遇におかれたが、幸いにも本作は1977年に小規模ながら公開され、同年フランスでジョルジュ・サドゥール賞を受賞。さらに9年後、パリで公開されるや、「ミハルコフ、タルコフスキーにも匹敵する優れた名匠」と評価されるなど、ゲルマン監督の真価を初めて国外に伝えることになった。

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