今回上映する『リオ・ブラボー』と『ワイルドバンチ』は、どちらも映画史上に残る傑作西部劇です。しかし、同じ西部劇でありながらこの二本の印象はあまりにも違います。
『リオ・ブラボー』は西部劇の楽しさを存分に味わわせてくれる作品です。ジョン・ウェイン演じる保安官が、アル中の保安官助手、凄腕の若者らと共に悪に立ち向かう姿が機智にとんだやり取りもまじえ、迫真のガンファイトと共に描かれます。
監督のハワード・ホークスは、ヒッチコックと共にゴダールやトリュフォーらを熱狂させた大監督です。感傷や抒情性を排し、スピーディな展開で映画のおもしろさを追求する姿勢はヒッチコックと共通しています。また、男性活劇の名手としても知られていますが、同時に『教授と美女』や『紳士は金髪がお好き』などのコメディでは女優を輝かせる天才だったことでも知られています。本作でもアンジ―・ディキンソン演じる賭博師のヒロインがとても魅力的です。彼女とジョン・ウェインの、親密ながら不器用なやりとりには思わず顔がほころんでしまいます。小気味いいアクションとユーモアに満ちた本作は、西部劇が最も娯楽として輝いていた時代を象徴する作品です。
一方、『リオ・ブラボー』から10年後につくられた『ワイルドバンチ』には、『リオ・ブラボー』にあるようなハッキリした善悪の境はありません。むさくるしい悪人たちがせめぎ合う混沌とした世界の中でのリアルな暴力が描かれます。冒頭の罪もない市民が大量に巻き込まれる銃撃戦や、伝説的に語り継がれるラストの殺戮シーンなど、いままでのアメリカの西部劇では決して描かれなかったものです。
この作品のつくられた背景には、60年代初めから後半にかけて現実に泥沼化したベトナム戦争や、国内外で巻き起こった激しい政治運動があります。日常的にTVに映される兵士の死体や、権利を求めて警官隊と衝突する人々の映像は確実に一般のアメリカ国民の価値観をも変えてしまいました。勧善懲悪の明るい西部劇は受け入れがたくなっていった時代にあって、従来の西部劇の常識に反旗を翻した『ワイルドバンチ』の登場は半ば必然だったように思えます。
しかしながら、『ワイルドバンチ』は人間の悪の部分を露悪的に見せつけるだけの作品では決してありません。『ワイルドバンチ』の主人公たちは流れ者のアウトローですが、車や鉄道も普及し出した20世紀初頭にあって、馬で放浪する中年の彼らには時代に取り残されたガンマンの哀愁も漂います。従来の西部劇では絶対にヒーローになりえないはずの彼らが、死を覚悟しつつ自分たちの何百倍もの数の敵に立ち向かう姿を、ペキンパー監督はあらん限りの思い入れをこめて鮮烈に描き切ります。彼らの行為は客観的に見れば決して法に乗っ取った正義ではありません。しかし、人としての誇りを懸け、全力で戦って滅んでいく彼らの姿は、条理を越えた美しさで観る者の心を震わせます。
『リオ・ブラボー』が極上のアメリカンポップスだとしたら、『ワイルドバンチ』はそのカウンターとして出てきた、激情的で荒々しいガレージパンクのようなものです。どちらにも違ったおもしろさがあります。製作から時代を経た今スクリーンで見ることで、逆に先入観なくそれぞれの良さを発見できるのではないでしょうか。
リオ・ブラボー
RIO BRAVO
(1959年 アメリカ 141分 ビスタ)
2014年9月20日から9月26日まで上映
■監督・製作 ハワード・ホークス
■脚本 ジュールス・ファースマン/リー・ブラケット
■原作 B・H・マッキャンベル
■撮影 ラッセル・ハーラン
■音楽 ディミトリ・ティオムキン
■出演 ジョン・ウェイン/ディーン・マーティン/リッキー・ネルソン/ウォルター・ブレナン/ウォード・ボンド/アンジー・ディキンソン/クロード・エイキンス/ジョン・ラッセル/ペドロ・ゴンザレス=ゴンザレス
保安官チャンスは、メキシコ国境近くの町リオ・ブラボーでならず者ジョーを殺人現行犯で逮捕する。しかし、ジョーの兄でこの町を牛耳るネイサンが弟の釈放を要求して町を閉鎖、金で雇ったガンマンたちを町に送り込んできた。住民は怯えて誰もチャンスの味方につこうとはしない。彼の味方は片足の不自由な老人スタンピーとアル中の保安官助手デュード、そして町を通りがかった早打ちの若者コロラドだけだ。彼らはガンマンとしての意地を賭けて果敢に立ち向かう――
『赤い河』『ハタリ!』などでもジョン・ウェインとの名コンビぶりを発揮したハワード・ホークス監督による、歌あり恋ありの痛快ウエスタン。メキシコ国境に近いテキサスの町を舞台に、迫真のガン・ファイトが炸裂する。ジョン・ウェイン、ディーン・マーティン、がんこジジイのウォルター・ブレナンが叩き合う、減らず口の応酬がまた面白さ抜群である。
原作としてクレジットされているB・H・マッキャンベルとは、ハワード・ホークスの娘、バーバラ・ホークス・マッキャンベルのことである。基本的なアイデアはあるが具体的なストーリー展開まではできていなかったホークス監督。娘のバーバラが作った物語が面白かったため、映画化権を買ったのだった。バーバラのアイデアは映画の最後に使ったとホークスは語っている。(新・午前十時の映画祭 作品詳細ページより抜粋)
ワイルドバンチ
THE WILD BUNCH
(1969年 アメリカ 145分 シネスコ/SRD)
2014年9月20日から9月26日まで上映
■監督・脚本 サム・ペキンパー
■製作 フィル・フェルドマン
■脚本・原作 ウォロン・グリーン
■原作 ロイ・N・シックナー
■撮影 ルシアン・バラード
■音楽 ソニー・バーク/ジェリー・フィールディング
■出演 ウィリアム・ホールデン/アーネスト・ボーグナイン/ロバート・ライアン/エドモンド・オブライエン/ウォーレン・オーツ/ジェイミー・サンチェス/ベン・ジョンソン/エミリオ・フェルナンデス/ストローザー・マーティン
■1969年アカデミー賞脚本賞・作曲賞ノミネート/全米批評家協会賞撮影賞受賞
テキサス州の国境の町サン・ラファエル。1913年のある午後、この町に5人の男たちが乗り込んできた。パイク率いる強盗団だ。彼らは突如、鉄道駅舎を襲撃! しかし、賞金稼ぎたちに待ち伏せされ、すさまじい銃撃戦となってしまう。強奪は失敗に終わり、バウンティ・ハンターたちからの激しい追跡から逃れたパイク一味は、新たな仕事を求めてメキシコへ向かうのだが…。
20世紀初頭、動乱のメキシコを舞台に、悪党ぞろいの3組の荒くれどもが、欲にからんで追いつ追われつ、血なまぐさい死闘を大画面に展開する超大型アクションの決定版。監督は『ダンディー少佐』や『昼下がりの決闘』などで大型作品には定評のあるサム・ペキンパー。すさまじい大虐殺も、カメラをスローモーションにして撮影するという凝った手段を大胆に使っており、そのみごとな映像の処理によって、“残酷の美学”とまで高く評価されている。
ベテランのアカデミー賞男優をはじめ、当時の人気スターが多数参加した本作。ハリウッドの代表的スタントマンを大挙動員し、更にロケ地パラスの全住民4万3千人の協力を得て撮影された。戦争アクションのスケールと西部劇の爽快感を組み合わせ既成の型を打ち破った、まさに新しいジャンルの娯楽大作であった。“ワイルドバンチ”とは“野蛮な群れ”の意味で動乱の戦場に血のにおいを求めてむらがる悪党たちの総称である。