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クメール・ルージュとは?

1975から79年までカンボジア(当時の国名は民主カンプチア)を統治した勢力の通称。そのトップはポル・ポトであった。

75年にクメール・ルージュが政権を握ると、毛沢東思想に基づき、知識人は排斥され、様々な伝統文化が禁じられた。極端な重農政策の下、都市部にいた人々は農村部での過酷な労働を強いられ、この強制労働に大飢饉が重なり、大量の死者を出すこととなった。また、各地に政治犯収容所が作られ、反政権の疑いがある者が次々に殺害された。

クメール・ルージュ政権下の犠牲者の数は、当時のカンボジアの人口約700万人の内、約150万人といわれている。

アクト・オブ・キリングの背景

1965年、当時のインドネシア大統領スカルノの親衛隊の一部が国軍幹部を暗殺するクーデター未遂事件が起きる(9月30日事件)。

この事件を機に、黒幕とされた共産党は弾圧され、スカルノも追放される。クーデターの収拾にあたった国軍のスハルト少将が実権を握り、その後1〜2年のうちに100万とも200万ともいわれる人々が“共産党関係者”だとして虐殺された。殺人の実行者たちは国軍ではなく、軍の後ろ盾で武装された反共の民間勢力であった。

しかし、スハルト政権は西側諸国に接近していたため、この空前の虐殺に対しアメリカや日本などが何ら批判の声を上げることはなかった。以来現在にいたるまで、実行者たちは罰せられるどころか地元の権力者として暮らしている。

『消えた画 クメール・ルージュの真実』は、カンボジア人のリティ・パニュ監督が幼少期に自ら経験し、辛くも生きながらえたクメール・ルージュ(当時の権力者ポル・ポト率いる共産主義勢力)による虐殺を描いた作品です。しかし、当時の現状を伝える写真や映像は、この世には存在していません。クメール・ルージュにより全て破棄されたからです。代りに存在しているのは、クメール・ルージュが製作したプロパガンダフィルムのみです。

パニュ監督は、父も母も友人たちもすべて虐殺されるという、あまりにも凄惨な自らの幼少期の物語を、犠牲者の血を吸いこんできたカンボジアの土で作られた人形を通して私たちに語りかけます。ここには、俳優をつかい、お金をかけて過去の悲劇を再現しようとする、いわばハリウッド的な思考と対極の姿勢があります。パニュ監督の体験が表象不可能なほどの地獄だったことももちろんですが、それとともに、どんなに迫真の再現をしたところで、この物語が観客を受動的にさせる見世物に没してしまうことへの強い危機意識があるように思います。

ひとつひとつ手で彫られた土人形たちが語るドラマは、この悲劇の痛ましさを私たちの心に静かに訴えかけてきます。私たちもまた、そのようにしかこの物語を語れないパニュ監督の切実な気持ちや、人形達の背後にある死んでいった人々の無念さ、悲しみへ想像を巡らしていくのです。本作は、語られる真実だけでなく、語り方そのものにこの監督の痕跡がにじみ出ています。

『アクト・オブ・キリング』もまた、過去の忌まわしい虐殺事件を描いた作品ですが、虐殺の加害者を主人公にしたドキュメンタリーという前代未聞の問題作です。インドネシア本国で英雄として扱われている彼らは、悪びれることなく喜んでカメラの前でかつての自分たちの行動の再現をしていきます。

被害者の遺族が声を上げることを許されず、加害者が街の権力者として闊歩する光景は、まるで『猿の惑星』のような悪夢じみたディストピアSFを見ているようです。しかし、自らが被写体となり、虐殺を再現する姿をモニターを通じて観る過程で、1000人近くを殺してきたアンワル・コンゴは、心の奥底に抑圧してきた罪の意識に苦しめられていくことになります。

本作がショッキングなのは、カメラを向けられた被写体が徐々に罪を自覚し、追い込まれていく過程が冷酷に記録されていることです。監督のオッペンハイマーは、取材した際に、悪びれずに虐殺を語るアンワルが実は自分の罪からなんとか目を逸らそうとしている気配を感じ、本作の着想を得たそうです。現実にカメラが介入することで、ある種暴力的に被写体が変容していく様が記録されていく本作は、原一男監督『ゆきゆきて神軍』とも通底する衝撃を観るものに与えます。

本作は、インドネシアで今なお続いている影の歴史を世界に知らしめただけでも歴史的な作品だと思います。しかし、それにとどまらず虐殺者の人間性にまで踏み込んだところが画期的です。ラストシーンのアンワルの姿を見て、あなたは溜飲を下げるでしょうか。それとも、彼のなかに自分にも共通する危うさを垣間見て戦慄するでしょうか。

両作とも、それぞれ独自の手法でフィクションとドキュメンタリーの境界線を往還し、悲劇の本質にスリリングに迫っていきます。題材だけでなく、映画の持つ可能性を再認識させてくれるという点でも、傑出した二作品です。

(ルー)


消えた画 クメール・ルージュの真実
L'IMAGE MANQUANTE
(2013年 カンボジア/フランス 95分 DCP ビスタ) pic 2014年10月18日から10月24日まで上映 ■監督・脚本・編集 リティ・パニュ
■製作 カトリーヌ・デュサール
■撮影 プリュム・メザ
■テキスト クリストフ・バタイユ
■人形制作 サリス・マン
■編集 マリ=クリスティーヌ・ルージュリー
■音楽 マルク・マーデル

■ナレーション ランダル・ドゥー

■第66回カンヌ国際映画祭ある視点部門グランプリ受賞/第86回アカデミー賞外国映画賞ノミネート/ヨーロッパ映画賞ドキュメンタリー賞ノミネート/トロント国際映画祭正式出品/ニューヨーク映画祭正式出品

■オフィシャルサイト http://www.u-picc.com/kietae/

僕だけが生き残った――
本当の物語を語り継ぐために

pic映画監督リティ・パニュは、幼少期にポル・ポト率いるクメール・ルージュによる粛清で最愛の父母や友人たちを失った。クメール・ルージュ支配下に数百万人の市民が虐殺され、カンボジア文化華やかし時代の写真や映像はすべて破棄された。その失われた映画や写真は果たして甦るのだろうか? 奇跡的に収容所を脱出し映画監督になったリティ・パニュは「記憶は再生されるのか」というテーマを追求し、あの体験をいまに伝えることを自らに課してきた。そして本作でひとつの答えに辿りつく――。犠牲者の葬られた土から作られた人形たちが、35年前の虐殺の成り行きを語り始め、発掘された映像によってその悲劇が紐解かれていくのだった。

世界がディスコや『スターウォーズ』に夢中になっていたとき、
カンボジアで起きていた20世紀最大の悲劇
忘れてはならない――いま、この時代を生き抜くために

picフィクションとドキュメンタリー両ジャンルにおいて国際的な評価の高いカンボジア人監督のリティ・パニュは、これまで数多くの作品でカンボジアの悲劇を描いてきた。カンボジアの幸せな家庭に育ちながら、クメール・ルージュの支配により、たったひとり13歳でカンボジアを脱出したリティ・パニュ監督。本作は、初めてこの自らの過酷な人生を土人形に託して描いた作品として絶賛され、2013年のカンヌ国際映画祭<ある視点部門>でグランプリを受賞。繰り返される人間の愚かさと醜さを、それとは正反対の繊細さと表情豊かな人形で表現し、本年度のアカデミー賞外国映画賞にカンボジア映画として初めてノミネートされた。

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アクト・オブ・キリング
THE ACT OF KILLING
(2012年 デンマーク/ノルウェー/イギリス 121分 DCP ビスタ) pic 2014年10月18日から10月24日まで上映 ■監督 ジョシュア・オッペンハイマー
■共同監督 クリスティーヌ・シン/匿名希望
■製作 シーネ・ビュレ・ソーレンセン
■製作総指揮 エロール・モリス/ヴェルナー・ヘルツォーク/アンドレ・シンガー/ヨラム・テン・ブリング/トシュタイン・グルーデ/ビャッテ・モルネル・トゥヴァイト
■撮影 カルロス・マリアノ・アランゴ=デ・モンティス/ラース・スクリー
■音楽 エーリン・オイエン・ヴィステル

■出演 アンワル・コンゴ/ヘルマン・コト/アディ・ズルカドリ/イブラヒム・シニク/ソアドゥオン・シレガル/スルヨノ/ヤプト・スルヨスマルノ/ユスフ・カラ/シャムスル・アリフィン/サフィト・パルデデ/サヒヤン・アスマラ

■第86回アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞ノミネート/2013年ベルリン国際映画祭エキュメニカル審査委員賞・観客賞受賞/全米批評家協会賞ドキュメンタリー賞受賞/英国アカデミー賞ドキュメンタリー賞受賞・外国語映画賞ノミネート ほか多数受賞・ノミネート

■オフィシャルサイト http://aok-movie.com/

「あなたが行った虐殺を、もう一度演じてみませんか?」

60年代のインドネシアで密かに行われた100万人規模の大虐殺。その実行者たちは、驚くべきことに、いまも“国民的英雄”として楽しげに暮らしている。映画作家ジョシュア・オッペンハイマーは人権団体の依頼で虐殺の被害者を取材していたが、当局から被害者への接触を妨害され、対象を加害者に変更。彼らが嬉々として過去の行為を再現して見せたのをきっかけに、「では、あなたたち自身で、カメラの前で演じてみませんか?」と持ちかけてみた。まるで映画スター気取りで、身振り手振りを交えながら殺人の様子を詳細に演じてみせる男たち。しかし、その再演は、彼らにある変化をもたらしていく…。

私たちが観ているもの、これが悪の正体なのか――
全世界50以上の映画賞を受賞した、映画史に残る大傑作
人間のモラルを揺さぶる、衝撃のドキュメンタリー

pic実際の大量虐殺者に、カメラの前で自らの殺人を演じさせるという前代未聞の手法は、出演者と観客の両方に、大きな衝撃を与えることとなった。長く恐怖に支配されてきたインドネシアの歴史に大きなインパクトを与えたのはもちろん、「“悪の正体”とは、“悪”とは何なのか」、「人間の本当の恐ろしさとは」、という全人類にとって普遍の問題を、我々の眼前に突きつけた。

本作は、2013年のベルリン映画祭で2部門を制覇するなど、世界中の映画祭や批評家から熱烈な支持を集め、すでに50以上の映画賞を受賞。数々の著名メディアの年間ベスト1にも輝き、第86回アカデミー賞長編ドキュメンタリー部門にもノミネートを果たした。

私は少なくともこの10年間、これほどにパワフルで、
超現実的で、恐ろしい映画を観たことがない。
映画史上に類を見ない作品である。―――ヴェルナー・ヘルツォーク

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