先日、宮崎駿監督が長編アニメからの引退を表明しました。
これまでも作品を作るたび、「これが最後」と言葉にしては
作ることを止めなかった監督が「今回は本気」だそうです…。
決して年齢だけが引退の理由ではないと思いますが、
これまでずっと走り続けてきた監督だから
直面している自らの「老い」があるのでしょう。
今週の作品『しわ』は、「老い」という
生きていれば全ての人間に訪れる現実と
真っ向から向き合ったスパニッシュアニメーションです。
この作品は、決して大袈裟ではない
また容赦のない事実を、わたしたちに突きつけます。
頭では分かっていながら、言語化できない焦りやもどかしさ、
それによって起きる誤解や問題、
それらを抱えた老人たちの内面で何が起こっているのか。
登場する老人たちを見つめながら、同時に自分の両親や、
さらには未来の自分のことを考え、恐怖を感じるかもしれません。
しかし、アニメーションという手法は
老人たちの複雑な内面描写をより具体的に
そして温かくコミカルに映し出してくれます。
前述した宮崎監督の戦友ともいうべき
高畑勲監督は、今作品に対しこんなメッセージを送っています。
“わたしはひとりの老人として、人間として、
そして一アニメーション従事者として、映画「しわ」に心から敬意を表します。”
もう一作品『パリ猫ディノの夜』は、
アニメーション界から飛び出したフレンチ・ノワール。
2012年アカデミー賞アニメーション部門にもノミネートされました!
その名の通り、ギャング、女警視、カリスマ怪盗と、
ミステリアスなパリを舞台にストーリーが展開していくのですが、
そこはさすがフレンチアニメーションであります。
まるでオイル・パステルで描かれた絵画が動いているかのような
お洒落でレトロモダンなムードがたっぷりです。
さらにはディノと怪盗ニコが駆け巡るパリの夜は、
遠近や高低が軽やかにデフォルメされ、
躍動した街並みがスクリーンいっぱいに広がり、
気づけばアナタもパリの街の中〜♪
今週の二本立て、
『しわ』は、今は懐かしいセルアニメーションであり、
『パリ猫ディノの夜』は35mmフィルムでの上映です。
時代とは逆行しながらも、それぞれの作品らしさとは何かを
とことん追求した珠玉のアニメーション作品をご堪能あれ。
しわ
ARRUGAS
(2011年 スペイン 89分 ビスタ)
2013年11月9日から11月15日まで上映
■監督・脚本 イグナシオ・フェレーラス
■原作 パコ・ロカ『皺』(小学館集英社プロダクション刊)
■脚本 アンヘル・デ・ラ・クルス/パコ・ロカ/ロザンナ・チェッキーニ
■撮影 ダビ・クベロ
■音楽 ナニ・ガルシア
■声の出演 タチョ・ゴンサレス/マベル・リベラ
■第26回ゴヤ賞最優秀アニメーション賞・最優秀脚本賞受賞/2012年日本賞グランプリ受賞/2012年ヨーロッパ映画賞編アニメ賞ノミネート
かつて銀行に勤めていたエミリオは、息子夫婦によって養護老人施設へと預けられる。同室のミゲルは、お金にうるさく抜け目がない。一緒に食事を取るメンバーには、面会に来る孫のためにバターや紅茶を貯めている女性アントニアや、アルツハイマーの男性モデスト、そして彼の世話を焼く妻ドローレスらがいる。施設では、様々な行動をとり、様々な思い出を持つ老人達が、日々の暮らしを送っているのだった。
施設での生活に慣れ始めたエミリオはある日、モデストと薬を間違えられたことで、自分もアルツハイマーであることに気づいてしまう。ショックで症状が進行したエミリオを思い、ついにミゲルはある行動に出るのだった…。
原作は、スペインの漫画家パコ・ロカが描いた『皺』(第15回文化庁メディア芸術祭マンガ部門「優秀賞」受賞)。スペイン人の若き実力派アニメーターで、日本のアニメーションから多くを学んだと語るイグナシオ・フェレーラス監督により長編アニメーション化され、世界で高い評価を受けた。本格化する高齢化時代、誰もが必ず経験する「老い」、そして社会問題としてもクローズアップされている「認知症」。その時、私たちはどうなるのか。どうやって向き合えばよいのか。本当に必要なのは「家族」か「友達」か…? 重いテーマと正面から向き合いながら、温かな手描きアニメーションが心にじんわりと染み込んでくる…そんな不思議な魅力に溢れた秀作である。
“「しわ」という作品で、アニメーション映画の持つ可能性がまたひとつ広がった、とわたしは思っています。元になっているコミックスがまずそうなのですが、この映画は、誰もが無関心ではいられないが、そのくせ、できれば目をそらせていたい老後の重いテーマを、勇気をもって扱っています。 わたしはひとりの老人として、人間として、そして一アニメーション従事者として、映画「しわ」に心から敬意を表します。 ” ――アニメーション映画監督 高畑勲
パリ猫ディノの夜
UNE VIE DE CHAT
(2010年 フランス 70分 ビスタ/SRD)
2013年11月9日から11月15日まで上映■監督・脚本 アラン・ガニョル
■監督・美術監督/グラフィックデザイン ジャン=ルー・フェリシオリ
■音楽 セルジュ・ベセ
■演奏指揮 ステファン・コルティアル
■声の出演 ベルナデット・ラフォン/ドミニク・ブラン/ブルーノ・サロモネ/ジャン・ペンギーギ
■2012年アカデミー賞アニメーション部門ノミネート/2011年ベルリン国際映画祭ジェネレーション部門ノミネート/2011年セザール賞最優秀アニメーション賞ノミネート/2011年アヌシー国際映画祭ノミネート/2011年ニューヨーク国際チルドレンズ映画祭ノミネート/2011年サンフランシスコ国際映画祭ノミネート/2011年フランス映画祭ノミネート ほか多数
パリのオス猫ディノが飼われているのは、女警視ジャンヌと、その娘ゾエが暮らす家。ジャンヌの夫でゾエの父親は、ギャングのボス、コスタに殺されてしまい、そのトラウマからゾエは失語症になってしまった。夫の仇を討つ思いと、コスタが狙う「ナイロビの巨像」の監視のため、コスタを追いかけるジャンヌは多忙だった。
家にひとり残されたゾエは一日中淋しい思いをしている。ディノは、いつもトカゲを狩ってきてはゾエにプレゼントしてくれる忠実な友である。ある朝、ゾエはディノが戦利品として持ってきたブレスレットを見て、疑問を感じる。これをどこで手に入れたのか――? その晩おでかけするディノを追跡することにした彼女は、驚きの発見をすることになる。ディノには、もうひとりの飼い主がいたのだ…。
香り高い往年のフレンチ・ノワールが、アニメという形で登場。屋根から眺める夜のパリの街並み、エッフェル塔はもちろん、ノートルダム寺院やガーゴイルなどのシーンが圧巻! それらを見渡し夜毎パリを駆け巡る、オス猫ディノの活躍とは? 昼と夜の二つの顔を持ち、いつも冒険を待ち構えている、そんなパリ猫ディノが図らずももたらす驚きの幸せとは? 本作は、大人も子供も楽しめるドキドキと幸せが詰まったファンタジック・ミステリー。たくさんの謎の真相が、観るもののハートをとらえて離さない。昼は愛らしく、夜はしたたかな○○の、二つの顔を持つパリ猫ディノの自由な生き方とは? さああなたも、ディノと一緒に夜のパリの大冒険へ出かけよう!(○○の答えは、劇場で!)