沢山の人に読まれ、そして映画になった二つの物語。
辞書編集部という超地味な世界を、現実的かつドラマティックに描いた>『舟を編む』と
正化31年、本を読む自由と思想を守るというファンタジックな世界を描いた>『図書館戦争』。
今週お届けする二本立ては"本を作るお話"と"本を守るお話"だ。
一冊の本には沢山の想いが詰まっている。
作者はもちろん、その想いを形にするべく葛藤する編集者たちの、
美しい装丁に仕上げる工場の、世の中に広めるために必死な営業マンたちの…様々な気持ちで出来あがる。
そして本は、読者に出会いを与える本屋、想いを残すための図書館へと旅立つ。
寝ても覚めても辞書の事ばかり。
『舟を編む』の主人公、馬締光也(松田龍平)は、言葉に溺れてしまいそうなマジメ編集者。
彼は「今を生きる辞書」を大海原へ渡らせるために必死に奔走する。
一生懸命、マジメな彼の姿は、笑えて泣ける。
本づくりの現場はかなりハードである。
いつも閉め切りに追われている編集者たち。
だけど、ギリギリまで妥協という言葉は一切無い。
馬締が紙に拘るシーンがあるが、大げさではない。ものすごく現実的なシーンだ。
コレじゃないと思えば、コレだと言えるものを追いかけ続ける。それが編集者の仕事なのだ。
勤務時間なのか、睡眠時間なのか分からないほど、彼らは本を仕上げることに夢中だ。
そんな風にして作られた本をお守りのように大事に抱える『図書館戦争』の主人公、笠原郁(榮倉奈々)。
メディアが厳しく取り締められ、読みたい本を自由に読むことができない世界で彼女は運命の出会いを果たす。
王子様に守られた"本(=想い)"を今度は自分が守ると決めた彼女はとても強く頼もしい。
本を作る人たちが、彼女のような本を愛する気持ちを知ったら、嬉しいに違いない。
現実の話ではないが、物語と同じように"本(=想い)"が侵される時代が来るかもしれない。
世の中には紙の本が一切無い、電子書籍専門の図書館が存在するらしい。
そこでは沢山の名作を読むことができるだろう。
しかし、果たして本に込められた沢山の想いまで残っているのだろうか。
どんなにデジタル化が進んでも、本を愛する気持ちまで無くなって欲しくない。
いや、決して無くなることはない。私はそう信じている。
舞台は違えど、"本"が主役の"想い"溢れるこの二本。
読書をしているような感覚で、笑いあり、涙あり、胸キュンありの
「ブック・エンターテインメント」にどっぷり浸っていただきたい。
(モッサ)
図書館戦争
(2013年 日本 128分 シネスコ/SRD)
2013年9月28日から10月4日まで上映
■監督 佐藤信介
■原作 有川浩『図書館戦争』シリーズ(角川書店刊)
■脚本 野木亜紀子
■撮影 河津太郎
■音楽 高見優
■出演 岡田准一/榮倉奈々/田中圭/福士蒼汰/西田尚美/橋本じゅん/鈴木一真/相島一之/嶋田久作/児玉清/栗山千明/石坂浩二
正化(せいか)31年。あらゆるメディアを取り締まる「メディア良化法」が施行された日本では、銃器を手にした検問組織「メディア良化隊」による検問が正当化されていた。そんな時代に読書の自由を守るため生まれた自衛組織「図書隊」に、笠原郁が入隊する。高校時代に読みたい本と自分を助けてくれた図書隊員を“王子様”と憧れてのことだった。
ところが、彼女を待っていたのは鬼教官の堂上篤。事あるごとに厳しく指導する堂上は、郁の憧れの王子様図書隊員のことも「浅はかで愚か」とバッサリ。反発する郁だが、堂上は厳しく突き放しながらも、絶妙のタイミングでフォローを入れて郁を育てる。次第に堂上のことが気になる存在になっていく郁だったが、堂上には絶対に言えない秘密があった。果たして、彼らは好きな本や自分の想いを守れるのか? 愛と自由を守るための戦いが今始まる!
「フリーター、家を買う。」「阪急電車」「県庁おもてなし課」「空飛ぶ広報室」など数々のベストセラーを生み出している人気作家・有川浩。代表作「図書館戦争」は2006年の刊行以来、シリーズ累計発行部数が400万部を超えている超人気作品だ。既にコミック化、テレビアニメ化、劇場アニメ化され、今回が満を持しての初実写化となった。
舞台は昭和から平成ではなく「正化」という時代に移った日本。そこでは国家によるメディアの検問が正当化され、こういう日本になり得たかもしれないというある種のパラレルワールドの設定だ。鬼教官の堂上と新米熱血女性隊員の郁を演じるのは岡田准一と榮倉奈々。実はこの2人はファンによる仮想キャスティングの第1位コンビ。また、陸上自衛隊と航空自衛隊の協力を得て撮影された本格バトルシーンや過酷な訓練シーン、山形県立図書館を初めとする数々の図書館を使用したロケなど、細部まで見所が盛りだくさん。公開初日の満足度が脅威の98.2%を記録した、今年絶対見逃せない本と恋と自由のツンデレ・エンターテインメント!
舟を編む
(2013年 日本 133分 ビスタ/SRD)
2013年9月28日から10月4日まで上映
■監督 石井裕也
■原作 三浦しをん『舟を編む』(光文社刊)
■脚本 渡辺謙作
■撮影 藤澤順一
■音楽 渡邊崇
■メイキング 横浜聡子
■出演 松田龍平/宮アあおい/オダギリジョー/黒木華/渡辺美佐子/池脇千鶴/鶴見辰吾/宇野祥平/又吉直樹/波岡一喜/森岡龍/斎藤嘉樹/麻生久美子/伊佐山ひろ子/八千草薫/小林薫/加藤剛
1995年、玄武書房辞書編集部。定年を迎えるベテラン編集者・荒木は自分の後継者を探すべく社内を探し回っていた。そこで出会ったのが、営業部内で変人扱いされる男性社員・馬締光也。大学院では言語学を専攻。早速、馬締に問いかける。「“右”という言葉を説明できるかい?」「西を向いた時、北にあたる方、が右」――見つかった。新しい辞書編集部員が!
こうして辞書編集部に異動になった馬締。作るのは、新しい辞書「大渡海」――見出し語は24万語、完成まで15年、編集方針は「今を生きる辞書」。個性派ぞろいの辞書編集部の中で、馬締は辞書編纂の世界に没頭する。そんなある日、出会った運命の女性。しかし言葉のプロでありながら、馬締は彼女に気持ちを伝えるにふさわしい言葉が見つからない。問題が山積みの辞書編集部、果たして「大渡海」は完成するのか? 馬締の思いは伝わるのだろうか?
2012年本屋大賞第1位に輝いた三浦しをんの傑作小説「舟を編む」。地道で根気のいる辞書編纂。ともすると地味に見える世界を描きながら、「情熱的で素晴らしい仕事!」「目の離せないスポーツ競技のよう!」「登場人物のキャラクターが面白い!」と読者を虜にし、2012年最も読まれた文芸書となった。
その愛すべき小説を、若き俊英・石井裕也監督が松田龍平、宮アあおいを迎え、感動の映画化。人と人との思いをつなぐ“言葉”というものを整理し、意味を示し、もっともふさわしい形で使えるようにするもの…本作は、その辞書という【舟】を編集する=【編む】人たちの、言葉と人への愛を謳う感動エンターテインメントである。