toppic ★週の途中で作品が替わります。スケジュールにご注意ください。
★『暗黒街の弾痕』『死刑執行人もまた死す』『マンハント』は、製作から長い年月が経っているため、本編上映中お見苦しい箇所・お聞き苦しい箇所がございます。ご了承の上ご鑑賞いただきますようお願いいたします。

フリッツ・ラングの映画にはこちらが戸惑う瞬間がある。
例えば「死刑執行人もまた死す」でゲシュタポに対峙する民衆の連携の感動とともに、
ほんの一瞬垣間見える集団の恐怖。
それは「M」で殺人犯を追い詰めるという目的から浮き彫りになった、
集団の圧力の怖さと同じものだ。

物語がテンポ良く進んで行くのとは裏腹に、
その一瞬の異物感がこちらを立ち止まらせる。
しかし映画の展開が、テンポが、省略が、
画面をみている私を興奮とともに次の場所へと連れて行ってしまう。

まるで電車の窓から見えた一瞬の違和感が良からぬ想像を掻き立てるようだ。
そこで思うのは「果たして目的地はこっちだったか?」という、
取り返しのつかない疑問だ。

「マンハント」の冒頭で、ヒトラーに銃口を向ける主人公がそうであったように、
また「暗黒街の弾痕」で神父を信じられなかった登場人物のように、
直面している状態に巻き込まれ、体が勝手に反射してしまう。
止まることのできない状況で、一体どこに到着するのか。

SFを撮り、西部劇を撮り、ノワールを撮ったフリッツ・ラング。
彼の片眼鏡から見えた無惨だが人間味あふれた世界は、
劇場を出た後でさえ、その興奮の余韻を残したままだ。

(ジャック)

暗黒街の弾痕
YOU ONLY LIVE ONCE
(1937年 アメリカ 86分 SD/MONO) 2013年5月18日から5月20日まで上映 ■監督 フリッツ・ラング
■原作・脚本 ジーン・タウン/グレアム・ベイカー
■撮影 レオン・シャムロイ
■音楽 アルフレッド・ニューマン

■出演 ヘンリー・フォンダ/シルヴィア・シドニー/ウィリアム・ガーガン/バートン・マクレーン/ジーン・ディクソン/ジェローム・コーワン/マーガレット・ハミルトン/ウォード・ボンド/グイン・ウィリアムズ/ジャック・カーソン

★3日間上映です。

無実の罪を着せられた男と
彼を献身的に支える妻の
ただ一度の愛――

pic3度も警察にとらわれたエディ・テーラーは、恋人ジョーンの尽力によって仮釈放が許された。自由の身となったエディは弁護士ホイットニーの世話でトラック運転手の仕事を得、ジョーンと晴れて式をあげるのだった。しかし前科者に世間の目は冷たかった。せっかく決まった仕事も少しの遅刻でクビになってしまう。

その頃、銀行襲撃事件が発生し、犯人の乗り捨てた車にエディのイニシャル入りの帽子が残されてあった。ただちにエディ逮捕の網が張られる。エディはジェーンに、帽子は盗まれたもので、自分はやっていないと訴えるが、ジェーンは無実を証明するために自首したほうがよいと必死に説得した。しかし、自首したエディを待っていたのは、あまりにも残酷な判決だった…。

30年代最高のアメリカ映画と称される
エポックメイキングな傑作

『俺たちに明日はない』の原型ともいえる傑作。どしゃ降りの雨の中の銀行襲撃、息づまる脱獄シーン、ラストの森林の逃避行など、数々の名場面に加えて、愛し合うふたりの情熱とささやかな悦びがしっとりと描かれている。人間性の追求、社会構成への疑問などを盛り込んだ、映画史的にも画期的な作品である。主演は『荒野の決闘』などの名優ヘンリー・フォンダと、『激怒』のシルヴィア・シドニー。4度のアカデミー賞受賞歴のある名カメラマン、レオン・シャムロイによる映像も素晴らしい。


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(1931年 ドイツ 99分 キネコ版 SD/MONO) 2013年5月18日から5月20日まで上映 ■監督・脚本 フリッツ・ラング
■原作 エゴン・ヤコブソン
■脚本 テア・フォン・ハルボウ
■撮影 フリッツ・アルノ・ヴァグナー
■音楽 エドワルド・グリーク『ペール・ギュント』より

■出演 ペーター・ローレ/オットー・ヴェルニッケ/グスタフ・グリュンゲンス/テオ・リンゲン/テオドル・ロース/ゲオルグ・ヨン

★3日間上映です。
★キネコ版での上映となります。

頭文字“M”が意味するものは…

「黒い服着た人がやってくる、手に持つ小さなその斧で、男が斬るのは誰でしょう」…子供たちがそう唄っているのを聞いて、おかみさんは不安になる。娘のエルシーがまだ帰ってこないからだ。

町では近ごろ連続して起こった少女誘拐殺人事件で持ちきりだった。未解決であるばかりか犯人は警察に抗議の手紙を送る大胆さ。必至の捜査は日に日に拡大され、連日の狩り込みや不審尋問が続けられた。それに音を上げたのは、アンダーワールドの人々である。一帯を仕切るボスが、警察に先立ち邪魔者を挙げようと、浮浪者たちを雇い子供に注意させ、情報集めに乗り出した。その頃、男は次の犠牲者を求めて町へ出ていた…。

立ち上る倒錯の匂いと犯罪への衝動
異様な迫力で見るものの胸を突く
ラング最初のトーキー映画

ラング最初のトーキー映画だが、色褪せることなくヌーヴェル・ヴァーグをはじめとする映画作家たちにインスピレーションを与え続けてきた「M」。デュッセルドルフの吸血鬼と呼ばれたペーター・キュルテンをモデルにしているといわれてきたが、ラングは「物語はキュルテンが逮捕される前に仕上がっていた」として否定している。とはいえ、犯人が警察に匿名の手紙を出したり、厳しい操作にアンダーワールドが迷惑を被った様子は、キュルテン事件で実際に起こったことでもあり、ラングや脚本のテア・フォン・ハルボウらの創造力が時代を正確に捉えたと言えるだろう。

結果は特定の一事件についての映画ではなく、この時代のドイツを丸ごと捉えたドキュメンタリーとまで言われるほど生々しい作品となった。もともとは「われわれの中の殺人者」というタイトルだったが、「M」に代えられたのはナチスの過剰反応を避ける意味もあったようである。



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マンハント
MAN HUNT
(1941年 アメリカ 105分 SD/MONO) 2013年5月21日から5月24日まで上映 ■監督 フリッツ・ラング
■原作 ジェフリー・ハウスホールド『ローグ・メイル』
■脚本 ダドリー・ニコルズ
■撮影 アーサー・C・ミラー
■音楽 アルフレッド・ニューマン

■出演 ウォルター・ピジョン/ジョーン・ベネット/ジョージ・サンダース/ジョン・キャラダイン/ロディ・マクダウォル/ルドウィク・ステッセル

★4日間上映です。

「これはほんものの狩りだ」

pic天才ハンターとして鳴らすソーンダイク大尉は、ある男に照準を定めた。照準器が捉えたのは誰であろうヒットラー。だが、弾は込められていない。大尉にとって、照準器に獲物を捉えれば、それは獲物をものにしたということ。暗殺ではなく、ゲームのような冒険心に過ぎなかった。だが、ドイツ側には暗殺にしか見えない。

pic警備兵に見つかった大尉は連行・拷問された。ゲシュタポの担当官キーヴ=スミスは、大尉にイギリスの命令によって暗殺を敢行したという供述書にサインするよう迫った。時は1939年、ドイツは大尉の名声を利用し宣戦布告の材料にしようとしたのだが、大尉は頑として拒否した。大尉は事故に見せかけた処刑を言い渡され、崖から突き落とされてしまうが…。

後のプロパガンダ映画に多大な影響を与えた
ラング最初の反ナチ映画

エンターテインメントとしても、反ナチ映画としても、内容の濃い緊張感に溢れた傑作であり、この後『死刑執行人もまた死す』『恐怖省』、そして戦後の『外套と短剣』と続くナチスものの最初の作品である。

pic原作はジェフリー・ハウスホールドの「ローグ・メイル」であるが、太平洋戦争のはじまる半年前という時期に作られたこともあり、原作が小説とは思えない切迫した感じのする映画に仕上がった。ラングの手にかかると、ゲシュタポの描写や地下鉄構内の追っかけなどの細部が生々しさを帯び、世界的ハンターが一転して狩られる者となる物語そのものが完全にフリッツ・ラング・ワールドと化す。1941年6月にアメリカで公開されると、それまでのアメリカ映画に出てきたことのないナチのリアルなイメージを大衆に与え、以後のプロパガンダ映画のあり方に大きな影響を与えた。


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死刑執行人もまた死す
HANGMEN ALSO DIE
(1943年 アメリカ 120分 SD/MONO) 2013年5月21日から5月24日まで上映 ■監督・原案・脚本 フリッツ・ラング
■原案・脚本 ベルトルト・ブレヒト
■脚本 ジョン・ウェクスリー
■撮影 ジェームズ・ウォン・ホウ
■音楽 ハンス・アイスラー

■出演 ブライアン・ドンレヴィ/ウォルター・ブレナン/アンナ・リー/ジーン・ロックハート/デニス・オキーフ/アレクサンダー・グラナッハ/ビリー・ロイ

★4日間上映です。

実際に起こったナチス高官の暗殺事件
ゲシュタポと市民の攻防が始まる――。

第二次大戦中、ドイツ占領下のプラハ。<死刑執行人>の異名をとるナチス総督ハイドリッヒが爆弾テロにあった。ゲシュタポは、犯人が判明するまで市民を連行し無差別に殺す非道な措置をとる。

総督を暗殺した犯人である医師のスヴォボダは、自分をゲシュタポの目から救ってくれた娘マーシャの家に一晩匿ってもらった。しかし、大学教授の座を追われたマーシャの父までが、ゲシュタポに連行されてしまう。スヴォボダが犯人であると感づいたマーシャは、彼に父を救うため自首を懇願するが、スヴォボダはレジスタンス活動の意義を説き伏せ取り合わないのだった…。

ラングと同じくアメリカに亡命した
伝説的劇作家ブレヒトと共作した
反ナチ映画の傑作

戦争中のチェコで起こった実際の事件に基づく物語。死刑執行人の異名で恐れられたボヘミアとメーレン総督ラインハルト・ハイドリッヒの暗殺と、それに対するナチスの執拗な無差別報復で多くの市民が犠牲になった事件である。作品の原案と最初の脚本を担当したのは、20世紀最大の劇作家ベルトルト・ブレヒト。ナチスを嫌ってアメリカに滞在していたブレヒトは、ナチスが破滅することを信じ英語を学ぼうとしなかった。そのため、英語の脚本を作るためジョン・ウィクスリーが後を引き継ぎ、その後ブレヒトとラングの関係は途絶えた。

作品の恐ろしく明解に語る語り口や、生き物のように作動しはじめるメカニズム―物語といわず、出来事といわず―の凄味など、ラングの実力が十二分に発揮された傑作。



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