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ファスビンダー

監督■ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー

1945年5月31日、ドイツ南部バート・ヴェーリスホーフェンに生れる。父ヘルムートは医学博士、母リーゼロッテは翻訳家。1951年に両親が離婚し、以後、母親の手で育てられる。

アウグスブルクとミュンヘンのギムナジウムに通学するが、卒業資格試験前の1964年に退学。その後しばらくケルンの父親のもとに滞在したのち、再びミュンヘンに戻り、俳優学校に学ぶ。1965年から67年にかけて短編映画を製作。1966年、67年にベルリン映画テレビアカデミーに応募するが、入学に失敗する。

1967年、劇団「アクツィオーン・テアーター」に参加。翌年、オリジナル戯曲「出稼ぎ野郎」を上演する。アクツィオーン・テアーター解散後、劇団「アンチテアター」を設立。劇団での活動の傍ら、放送劇の執筆、演出、映画出演など幅広い分野で活躍する。同時に、劇団メンバーと映画製作を始め、長編第二作『出稼ぎ野郎』は大きな反響を呼ぶ。

1971年、映画製作会社「タンゴ・フィルム」を設立。第一作となった『四季を売る男』でドイツ映画大賞を受賞。また、演劇活動も継続し、1974年にはフランクフルトの公立劇場「テアター・アム・トゥルム」の芸術監督に就任。だが、75年に財政や運営をめぐるトラブルから退任した。75年秋に初演を予定していた戯曲「ゴミ、都市そして死」は、反ユダヤ主義的な作品だとして過激な反対運動が起こったため、上演中止となった。

1978年に発表した『マリア・ブラウンの結婚』が商業的に成功を収め、新しいドイツ映画を牽引する存在として認知されるようになる。1979年、念願の企画『アレクサンダー広場』の映画化を実現。そのテレビ放映は国内で激しい論争を生んだ。『リリー・マクレーン』『ケレル』ではジャンカルロ・ジャンニーニ、ジャンヌ・モローなど国際的なスターを起用。『ヴェロニカ・フォスのあこがれ』はベルリン映画祭グランプリを獲得した。ドイツ映画を代表する矢先の1982年6月10日に、37歳で急死する。

劇場映画監督作品およびテレビ映画演出作品は、公式に確認されているものだけで40本を越える。それらは、女性の抑圧、同性愛、ユダヤ人差別、テロリズムなどスキャンダラスなテーマが多く、ドイツ国内では常に激しい論議を巻き起こした。

filmography

・出稼ぎ野郎(1969)
・悪の神々(1969)
・愛は死より冷酷(1969)
・何故R氏は発作的に人を殺したのか?(1970)
・聖なるパン助に注意(1970/71)
・四季を売る男(1971)
・ペトラ・フォン・カントの苦い涙(1971/72)
・獣道(1972)
・操り糸の世界(1973・TV)
・マルタ(1973/74・TV)
・不安と魂(1974)
・エフィー・ブリースト(1974)
・自由の代償(1974)
・キュスタース小母さんの昇天(1975)
・不安が不安(1975・TV)
・少しの愛だけでも(1975/76・TV)
・悪魔のやから(1975/76)
・シナのルーレット(1976)
・孤独なボルヴィーザー(1976/77)
・秋のドイツ (1977/78)
・13回の新月のある年に(1978)
・マリア・ブラウンの結婚(1979)
・デスペア(1978)
・第三世代(1979)
・ベルリン・アレクサンダー広場(1979/80・TV)
・リリー・マルレーン(1980/81)
・ローラ(1981)
・シスター・イン・トランス(1981)
・ベロニカ・フォスのあこがれ(1982)
・ファスビンダーのケレル(1982)

※監督作品(主に映画)のみ掲載


ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー。
彼は映画を撮った。いや、驚異的なまでに撮りまくった。
“眠るのは死んでからでいい”と語った彼は数々の戯曲を書き、
撮影した映画はテレビを含め、13年間で約50本近くにまでなる。
その破滅的なスピードでの疾走は誰もついて行けなかった。

ナチス政権や第二次大戦がドイツに様々な危機的状況をもたらした。
そして映画もまた忘却されようとしていた。ドイツ映画史の未曾有の事態。

終戦直後に生まれたファスビンダーが登場したのはそのような背景に、
ヘルツォークやヴェンダースといった、ドイツ映画の歴史と断絶した
新世代の映画作家たちが次々と出現した≪ニュー・ジャーマン・シネマ≫の時代。

ロードサイドや密林。異邦、ここではないどこかを捉えた他の監督とは違い
ファスビンダーは限られたフレーム、都市空間、強いてはドイツという国家の歴史、
そしてそこに住まう人々に執着した。

ファスビンダーは社会の再生と発展と退廃を見つめ、性・嗜好・出自・貧富といった
あらゆる人々の“異形”をあぶり出した。
それは総天然色のハリウッド映画、ダグラス・サークのメロドラマの手法を
色濃く受け継ぎながら、夢の映画ではなく、
描かれなかった歴史や失われた心を捉え、常に現在へと回帰する作品だ。

今回上映するのはファスビンダーが、戦後の西ドイツ史を描いた作品。
西ドイツの戦後の破滅から最初の復興を描いた『マリア・ブラウンの結婚』。
そして、経済的な復興後の最初の破滅を描いた『ローラ』。

経済復興のヒロイン、マリア・ブラウンと、経済の奇跡のヒロイン、ローラ。
彼女らはともに“トリュンマーフラウ(戦後にガレキを片づける女性)”から
這い上がり、社会に地位を確立させ、自らの足で歩むことの出来る、
瑞々しい輝きを放つ女性たちだ。

高級売春宿で働くローラは「理性は魂よりも利口よ」と呟いた。
マリアは離れた夫のために、他国の男を利用しながらキャリアを重ねていく。
そして、その方程式のように割り切られた理論(経済的な損得勘定)は
彼女たちに力を与えた。

だが一方で、忘れ去られた感情(愛!)があった。
愛のために娼婦をやめ、晴れて結婚することとなったローラが下した選択。
成功を勝ち得たマリアと夫の再会に無情に漂う愛の荒廃。

2人のヒロインが掴んだもの、それがするりと離れていく。
無自覚に歪んでしまったものがスクリーンに映し出された時、
我々は一体どんな表情をしているのだろう。

(ミスター)


ローラ
Lola
pic (1981年 西ドイツ 115分 35mm VV/MONO)
2013年9月21日から9月27日まで上映
■監督 ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー
■脚本 ペーター・メルテスハイマー/ペア・フレーリヒ
■撮影 クサファー・シュヴァルツェンベルガー
■音楽 ペア・ラーベン

■出演 バルバラ・スコヴァ/アーミン・ミューラー・スタール/マリオ・アドルフ/マティアス・フックス

■オフィシャルサイト http://mermaidfilms.co.jp/fassbinder30/

戦後ドイツの“経済の奇跡”を生きるヒロイン・ローラ。
スタンバーグの名作『嘆きの天使』をもとに描いたメロドラマ。

終戦から10年ほど経ち、市場経済が急速に活気づく西ドイツのある都市に、新任の建設局長フォン・ボームがやって来る。実直で道徳的な彼だが、高級売春宿で働くローラに熱烈な恋をしてしまう。しかし彼女は、建設会社の経営者シュッケルトの愛人だった…。

第二次大戦中にアメリカに渡り、ハリウッドで数多くの傑作メロドラマを作り続けた巨匠ダグラス・サークと70年に出会ったファスビンダーは彼から多くの影響を受けている。映画史に幾度となく登場する永遠のヒロイン“ローラ”。ジョセフ・フォン・スタンバーグ監督の名作『嘆きの天使』('30)を1950年代ドイツに置き換え、田舎の歌姫と生真面目な小役人のメロドラマへと大胆に変更した。

室内の場面で赤、青、黄といった人工光を使用したゴージャスで奇抜な撮影に同性愛者でもあった彼の美意識が光る。往年のアメリカ映画へオマージュを捧げつつ、ドイツ成長期の精神的退廃を見事に映像化した『マリア・ブラウンの結婚』に続く「西ドイツ三部作」の二作目。



マリア・ブラウンの結婚
Die Ehe der Maria Braun
pic (1979年 西ドイツ 120分 35mm  VV/MONO)
2013年9月21日から9月27日まで上映
■監督 ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー
■脚本 ペーター・メルテスハイマー/ペア・フレーリヒ
■撮影 ミヒャエル・バルハウス
■音楽 ペア・ラーベン

■出演 ハンナ・シグラ/クラウス・レーヴィチュ /イヴァン・デスニー/ゴットフリート・ヨーン/ギーゼラ・ウーレン/ギュンター・ランプレヒト/ジョージ・バード

■1979年ベルリン国際映画祭銀熊賞・女優賞受賞

■オフィシャルサイト http://mermaidfilms.co.jp/fassbinder30/

愛を求め、愛に裏切られ、それでも愛を信じた女性。
ファスビンダーの名を一躍世界に轟かせた傑作!

マリアとヘルマンは1943年に結婚した。しかし二人が一緒に過ごしたのは半日と夜の半分だけ。夫は東部戦線に戻らねばならなかった。戦争が終わるとマリアは帰還兵の中にヘルマンを捜すが、見つけることはできなかった。同時期、マリアはよりよい人生を求めて闇のマーケットで働くようになる。勤め先は占領軍の米兵相手のクラブであった。

ある帰還兵からヘルマンが戦死したことを聞いたマリアは、クラブで黒人兵のビルと親しくなった。だがある晩、マリアがビルとベッドを共にしていたところ、ヘルマンが戸口に現れた。激昂するヘルマンを見ていたたまれなくなったマリアは、ビルを酒瓶で殴り殺してしまう。そしてヘルマンは、マリアの罪をかぶり入獄するのだった――。

『マリア・ブラウンの結婚』はファスビンダーが国際的な成功を収めた最初の作品である。本国ドイツで大ヒットを記録し、日本でもニュー・ジャーマン・シネマの代表的作品として話題を集めた。ファスビンダーが描こうしたのはドイツの歴史――政治的なものでなく、個人的な歴史――だった。国が経済的に繁栄し始める一方で、マリアの人生はそれとは対照的な方向に進んでいく。

第二次大戦末期から、54年にドイツが復興の兆しを見せ始めるまでの約10年に渡るヒロインの人生を、戦後ドイツの社会的考察と共にドラマティックに映像化した本作。己のすべてを犠牲にして望んだものが手に入った時、自身の自己破壊がまっていたという悲劇の主人公マリアを演じたハンナ・シグラは、見事ベルリン国際映画祭で女優賞を受賞した。



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