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今週の早稲田松竹は世界の映画作家の狂宴。
ロシアのアレクサンドル・ソクーロフ。
ハンガリーのタル・ベーラ。
唯一無二の映画体験をぜひとも劇場でご堪能下さい。

ソクーロフ監督の『ファウスト』
天使が舞うような全能・浮遊の感を漲らせた大滑空の映像で幕が上がる。
視界は緩くゆがみ、包まれるような暖色の映像、意識が遠のきそうな囁き声。
まるで夢が吐き出されるような多幸感が作品に纏う。

タル・ベーラ監督の『ニーチェの馬』
手綱を握る老いた農夫と、汚れて醜くなった巨躯の馬が歩み続ける情景で始まる。
強風と砂塵になぶられた、生気のない彼らの姿と、弦楽器の重い響き、
そして明暗を克明に分けたモノクロームの映像は、思わず呻いてしまいそうになる悪夢的な光景だ。

ふたつの全く印象の異なる夢。だが、最上の寓話やお伽噺がそうであるように
その夢たちが真実に触れた時、夢想と現実の往還が始まる。

鮮やかな滑空は、墜落へと変わる。

臓腑を切り刻むが如き、醜悪に満ちた地上。
その中ファウスト博士は、肉体と魂、清廉と貧困の間で奮闘する。
しかし彼の志の高さと、啓蒙的な振る舞いも、公衆洗濯場で出会った
一人の女性、マルガレーテによって、あえなく屑折れてしまう。
理性は神秘の前に屈服した。そしてファウストは妄執に取りつかれ“怪物”となる。

不条理は、その根を引き抜かれている故に、残酷。

永遠のくり返し。
あばら小屋に、父と娘と馬だけの生活。食べて、寝て、働く。
生きることの本質が無情に浮かび上がり、意味の不在に気力さえも奪われた2人と1頭。
そればかりか世界は終わろうとしている。馬が餌を食べなくなり、虫の音も聞こえなくなった、
遂には吹き荒れる風邪すら止んだ。静謐の訪れ。
世界の終わりは、さらなる絶望なのか。

「神は死んだ」
その布告の後も、やはり物語は芽吹くことをやめない。
物語はホムンクルス(人工生命体)。人の欲望や世の実相を映し出す水面。
そして潰えない希望。二人の映画作家の錬金術は神秘と日常を取り結ぶ。
それは地に足を着きながら、空を飛ぶ夢にも似ている。

(ミスター)

ファウスト
FAUST
(2011年 ロシア 140分 ビスタ・SRD) 2013年1月5日から1月11日まで上映 ■監督・脚本 アレクサンドル・ソクーロフ
■原案 ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ「ファウスト」
■脚本 マリーナ・コレノワ
■撮影 ブリュノ・デルボネル
■音楽・製作 アンドレイ・シグレ

■出演 ヨハネス・ツァイラー/アントン・アダシンスキー/イゾルダ・ディシャウク/ゲオルク・フリードリヒ/ハンナ・シグラ

■2011年ヴェネチア国際映画祭金獅子賞(グランプリ)受賞

生きる意味を探していたファウストに舞い降りた、
甘い誘惑と愛をめぐる物語

pic神秘的な森に囲まれた19世紀のドイツの町。あらゆる地上の学問を探求したファウスト博士は、研究をつづけるために悪魔と噂される高利貸ミュラーのもとを訪れる。生きる意味を教えようと囁くミュラーに導かれたファウストは純真無垢なマルガレーテと出会う。一目で心奪われるファウストであったが、ミュラーの策略によって彼女の兄を誤って殺してしまう。それでも彼女の愛を手に入れたいファウストは、自らの魂をミュラーに差し出す契約を結ぶ。悪魔に翻弄されるファウストとマルガレーテの愛の行方は? ファウストが見出した生きる意味とは――?

名作「ファウスト」を巨匠ソクーロフ監督が圧倒的映像美で映画化
心を解き放つ贅沢な映画体験!
この瞬間から、新たな人生がはじまる

pic文豪ゲーテが生涯をかけて残した不朽の名作「ファウスト」。人生のロマンと愛をめぐるミステリアスで壮大な物語を、ロシアの巨匠アレクサンドル・ソクーロフ監督が映画化した。第68回ヴェネチア国際映画祭では、審査員の満場一致でグランプリ〈金獅子賞〉を受賞。『太陽』『エルミタージュ幻想』など世界中で高く評価されてきたソクーロフ監督が、世界3大映画祭で初のグランプリを獲得した記念すべき傑作だ。

pic主人公ファウストにはドイツの人気俳優ヨハネス・ツァイラー、高利貸ミュラーをロシアのダンサー、アントン・アダシンスキーが熱演。人間と悪魔の絶妙な駆け引きが、時に笑いを誘いながら、幻想的な世界へと引き込む。マルガレーテ役の新星イゾルダ・ディシャウクは、フェルメールの絵画を思わせる美しさで無垢な愛を演じ世界中から絶賛された。時と空間を自在に操る斬新な演出、豊かな色彩とファンタジックな映像は躍動感に溢れ、ラストシーンまで片時も目が離せない。私たちに“生きる”ことを見つめさせる壮大な人生ドラマが誕生した。


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ニーチェの馬
The Turin Horse
(2011年 ハンガリー/フランス/スイス/ドイツ 154分 ビスタ・SR) 2013年1月5日から1月11日まで上映 ■監督・脚本 タル・ベーラ
■共同監督 フラニツキー・アーグネシュ
■脚本 クラスナホルカイ・ラースロー
■撮影 フレッド・ケレメン
■音楽 ヴィーグ・ミハーイ

■出演 ボーク・エリカ/デルジ・ヤーノシュ

■2011年ベルリン国際映画祭銀熊賞(審査員グランプリ)・国際批評家連盟受賞/米アカデミー賞外国語映画部門ハンガリー代表

“人間の尊厳”を追求する深遠な黙示録が、いま幕を開ける

pic1889年トリノ。ニーチェは鞭打たれ疲弊した馬車馬を見つけると、駆け寄り卒倒した。そのまま精神は崩壊し、二度と正気に戻ることはなかった…。どこかの田舎、石造りの家と命をつなぐ古井戸がある。そして、疲れ果てた馬と、飼い主の農夫と、その娘がいる。暴風が吹き荒れる6日間の物語。

「ニーチェのトリノでの出来事が、
映画全体を陰のように覆っている」
―――タル・ベーラ
ハンガリーの鬼才タル・ベーラ監督“最後の作品”

pic『ニーチェの馬』を観た者は圧倒され言葉を失うだろう。トリノの広場で泣きながら馬の首をかき抱き、そのまま発狂したとされるニーチェの逸話にインスパイアされて生まれた本作。ベルリン国際映画祭にて、銀熊賞と国際批評家連盟賞を受賞するも、タル・ベーラ監督は“これが最後の作品”と公言している。ジム・ジャームッシュ、ガス・ヴァン・サント、ブラッド・ピットら世界の映画人が熱狂し、名だたる映画祭でゆるぎない地位を築いてきたハンガリーの鬼才の最終章が、幕をあける。

pic徹底的に排除された台詞、極限まで削ぎ落とされた演出、そこには生と死に向き合う静謐な世界が広がる。ダイナミックな長回しと、フィルムが持つ物質としての美しさに陶酔し、芸術の神髄に触れる至上の2時間34分。完璧な技巧と独自の美学で構築された唯一無二のタル・ベーラ哲学を貫き通し、“映画の極点”(The Observer)とまで言わしめた最高傑作。あなたは映画の歴史の目撃者になる。



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