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ジャン・ルノワール

1894年、パリのモンマルトルに、印象派絵画の巨匠オーギュスト・ルノワールの次男として生まれる。

第一次世界大戦で負傷し療養生活を送るうちに映画に興味を抱く。1924年に妻のカトリーヌ・エスランを主役に据えた映画『水の娘』でデビュー。映画がトーキー時代に入ると妻と離婚し、「どん底」、「大いなる幻影」、「獣人」、「ゲームの規則」など傑作を次々と発表した。第二次世界大戦中はアメリカへ亡命、「南部の人」な映画製作を続ける。フランス復帰第一作として『フレンチ・カンカン』を発表。興行的に成功を収めるが、その後は失敗が続く。失意のうちに再びアメリカに移住し、その後フランスへ戻ることはなかった。79年にその生涯を終える。

filmography

・水の娘(1924)監督
・女優ナナ(1926)監督
・チャールストン(1927)監督/出演
・マッチ売りの少女(1928)監督
・素晴らしき放浪者(1932)監督/脚本
・ボヴァリィ夫人(1933)監督/脚本
・どん底(1936)監督/脚本
・大いなる幻影(1937)監督/脚本
・獣人(1938)監督/脚本/出演
・ラ・マルセイエーズ(1938)監督/脚本
・ゲームの規則(1939)監督/脚本/出演
・スワンプ・ウォーター(1940)監督
・南部の人(1945)監督
・ピクニック(1946)監督/脚本
・浜辺の女(1946) 監督/脚本
・河(1951)監督/脚本
・黄金の馬車(1953)監督/脚本
・フレンチ・カンカン(1954)監督/脚本
・恋多き女(1956)監督/脚本
・草の上の昼食(1959)監督/脚本
・捕えられた伍長(1961)監督/脚本
・ジャン・ルノワールの小劇場 (1970)<TVM>監督/脚本

※日本未公開作品をのぞく

ルノワールの映画を観ている時、幸福な気持ちで満たされる瞬間が度々訪れる。
会ったこともなく、もちろん会うことは決してできないのに、
“ルノワールさんはきっと心優しい人だったんだろうなぁ”なんて、思ってしまう。

ヌーヴェル・ヴァーグの父と呼ばれるジャン・ルノワール。
トリュフォー、ゴダール、ロッセリーニ、ヴィスコンティ、アルトマン…
挙げればきりがない、錚々たる監督たちがルノワールの映画を愛した。

ルノワールの映画に出てくる人物は、みんな自分勝手だ。
勝手というと聞こえが悪いけれど、自由奔放でとにかく生き生きと動き回り、
映画的な展開といった予定調和をあっさりと崩す。
でも、その一見とっちらかった行動は、なぜだかとても心地よい。
それは理屈だけでは動かない、人間のありのままの姿を映しているからだ。
ルノワールは誰よりも早く、そのことを鋭く見抜いていた。

ルノワールの映画が数々の映画人に賞賛され、
今日でも世界中の人々に新鮮に映り、魅了する理由はそこにある。
善も悪も包み込むおおらかな、人を愛する心。
その精神が、のちのヌーヴェル・ヴァーグへ、
ネオ・レアリズモの流れへと引き継がれたのだ。

1951年にアメリカで製作した『河』は、彼の映画のファンだった花屋が、
“花のようにきれいな、美しい映画をあなたに撮って欲しい”と資金を調達し、
それに感動したルノワールが作り上げた初のカラー作品だという話がある。

今回上映する『ゲームの規則』『フレンチ・カンカン』
『ゲームの規則』は今でこそ映画史上最高の群像劇とも言われているが、
公開当時の評判は散々で、ルノワールは心底傷ついたという。
『フレンチ・カンカン』こそ大ヒットしたが、
それ以降の作品で興行的に当たることはなく、彼は生涯を終えた。

悲しくておもしろい。切なくて楽しい。
ルノワールが目指した映画はまさに、
ルノワールの、そして私たちの人生模様そのものだ。

『フレンチ・カンカン』のあのラスト・シーンを観て、
幸せな涙を流すのは私だけではないだろう。
画面いっぱいに乱舞する踊り子たちと、満面の笑顔でそれを楽しむお客たち。
これ以上の幸せな光景が、ほかにどこにあるというのだろう。
人間への、そして映画への惜しみない愛情。
私は確かにそこに、ルノワールの温かな眼差しを感じる。

映画を作る事によって、私は多くの幻滅や失望を味わった。
しかし、映画を作る事の歓びに比べたら、どんな悲惨も、物の数に入らない。
―――ジャン・ルノワール

(パズー)


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フレンチ・カンカン(復元長尺版)
FRENCH CANCAN
(1954年 フランス 105分 スタンダード/MONO) 2012年8月11日から8月17日まで上映 ■製作・監督・脚本 ジャン・ルノワール
■撮影 ミシェル・ケルベ/クロード・ルノワール
■美術 マックス・ドゥーイ
■音楽 ジョルジュ・ヴァン・パリス

■出演 ジャン・ギャバン/フランソワーズ・アルヌール/マリア・フェリックス/フィリップ・クレイ/ミシェル・ピッコリ/ジャンニ・エスポジート/エディット・ピアフ

花のパリのフレンチ・カンカン!
圧巻のフィナーレ! 観衆への奉仕? そんな事はどうでもよい。
ただもう踊ればよいのだ、それでよいのだ――

pic1888年のパリ。興行師のダングラールは自身の経営する「支那屏風」という寄席の負債に頭を抱えていた。そんなある日、彼はモンマルトルの場末のキャバレー「白女王」で、旧式なカンカンを踊る洗濯娘ニニに出会う。失意のどん底にあったダングラールに、一つのアイディアが閃いた。このカンカン踊りこそ新しいショウだ! さっそくダングラールは「白女王」を買い取り、ニニを説得して踊り子として雇う。かくして改築された「白女王」は「赤い風車(ムーラン・ルージュ)」として生まれ変わり、着々と開店の準備は進められるのだが…。

ルノワールの傑作オペレッタがスクリーンに甦る!

pic『フレンチ・カンカン』は巨匠ジャン・ルノワールが15年ぶりに故郷パリに帰って自ら製作、監督した、『河』『黄金の馬車』に次ぐ三本目のカラー映画である。“ベル・エポック”と呼ばれる古き良き時代のパリを舞台に、パリの象徴でもある「ムーラン・ルージュ」の創始者シャルル・ジードレルを中心とした、芸に生きる者たちの群像を描いた人生の大絵巻。父オーギュスト・ルノワールの血を受けて、祖国フランスへのひたむきな愛情が注がれている。

主人公ダングラールを演じるのは、ルノワール作品の常連でもある名優、ジャン・ギャバン、踊り子ニニにはフランソワーズ・アルヌールが扮している。また、当時のシャンソン界の大物が多数出演しているのも見所。エディット・ピアフを始め、パタシュー、アンドレ・クラヴォ、ジャン・レーモンの4大歌手が特別出演している。ラスト20分に及ぶ圧巻のカンカン踊りに心踊らされ、コラ・ヴォーケールが歌う主題曲“モンマルトルの丘”に涙する、フレンチ・ミュージカル永遠の傑作!


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ゲームの規則
LA REGLE DU JEU
(1939年 フランス 106分 スタンダード/MONO) 2012年8月11日から8月17日まで上映 ■監督・脚本 ジャン・ルノワール
■製作 クロード・ルノワール
■撮影 ジャン・バシュレ
■音楽 ロジェ・デゾルミエール

■出演 マルセル・ダリオ/ノラ・グレゴール/ローラン・トゥータン/ジャン・ルノワール/ガストン・モド/ポーレット・デュボスト/カレット

心変わりは罪ですか?
恋には翼(はね)があるものを

美しい妻クリスチーヌを愛しながら、愛人ジュヌヴィエーヴと別れられないでいるラ・シュネイ侯爵。クリスチーヌのために大西洋横断飛行を果たして凱旋する冒険家アンドレと、その友人オクターヴ。侯爵がソローニュの別邸で催す狩猟に全員が集い、密猟監視人シュマシェールと小間使のリゼット夫婦、密猟人マルソーも加わって、狩猟の野、仮装パーティーの夜を経て、物語は思わぬ悲劇に辿り着く…。

いまなお世界中の人々から愛される
天真爛漫な傑作悲喜劇!

大筋をミュッセの戯曲<マリアンヌの気まぐれ>に借り、冒頭にボーマルシェの戯曲<フィガロの結婚>の有名な一節“心変わりは罪ですか…”を掲げて、古典回帰志向を打ち出してはいるが、『ゲームの規則』はルノワール念願の“楽しい悲劇”への大胆な挑戦への意図が読み取れる。題名の由来はルノワールによると、“ひとが社会生活のなかで、おしつぶされまいとするかぎり、守らなければならない規則”と言い、フランソワ・トリュフォーは“愛の誠実さに関する規則”だと言う。

中編『ピクニック』と並んで、最もルノワールらしい映画とも言われる本作だが、完成直前にブルジョワ批判の噂が流されて、完成時から短縮される映画史上に稀な悲運に見舞われた。106分の完成版が復元されたのは、なんと20年後のこと。しかし、それ以来再公開されるごとにますます新鮮さを増す不思議な傑作だ。英映画雑誌「サイト&サウンド」が10年毎に発表する史上ベストテンにおいて、92年度は第2位、02年度は第3位にランクインしている。



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