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ニック・カサヴェテス

1959年ニューヨーク生まれ。父、ジョン・カサヴェテスの作品に子供の頃から出演し、監督以前は俳優としてもキャリアを持つ。

1996年、母であるジーナ・ローランズを主演に据えた『ミルドレッド』(96)で監督デビュー。ショーン・ペン、ジョン・トラヴォルタ主演の『シーズ・ソー・ラブリー』が97年カンヌ映画祭で唯一2つの賞を受賞し、注目を浴びる。以来、『ジョンQ─最後の決断─』(02)や『きみに読む物語』(05)など、数々の良作を世に送り出し、監督業で高い評価を得ている。

彼が追い求める映画とは、ストーリー性が高く、真実味にあふれ、誰もが共感を覚えるものでありながら、彼自身のインディペンデントなルーツに反しないという特徴を持つものである。

フィルモグラフィ

監督作品

・ミルドレッド(1996)
・シーズ・ソー・ラブリー(1997)
・ジョンQ─最後の決断─(2002)
・きみに読む物語(2004)
・私の中のあなた(2009)

出演作品

・こわれゆく女(1974)
・マスク(1984)
・ブラックライダー(1986)
・バイオレンス・コップ(1986)
・処刑ライダー(1986)
・ブラインド・フューリー(1989)
・デルタフォース3(1991)
・ミセス・パーカー/ジャズエイジの華(1994)
・フェイス/オフ(1997)
・ノイズ(1999)

不条理が思いやりを奇跡に変えるときに、人間は運命を見つけたりして。さらには乗り越えたりして。

今週の早稲田松竹は『きみに読む物語』と『私の中のあなた』。ニック・カサヴェテス監督作品の二本立て。

ニック・カサヴェテスの映画を紹介しようと思うと自然と美しい言葉を並べたくなる。素敵な、ピュアな、真実の、奇跡の…。しかし、そういう言葉では溢れてしまうような不思議な魅力がニック・カサヴェテス監督の映画にはある。picどこかネジが外れているような、埒外な魅力とひとまず言っておきたい。

例えば彼の映画の中によくでてくる感情的でエキセントリックなキャラクター。普通だったら絶対にやらないことようなことを平然と行う度胸(?)のようなものにいつも驚かされる。

そんな人物が大暴れしても、ニックは説明なんてしない。いつもどおりの冷静沈着な撮り方のまま平然とカメラを向け続ける。その人物を中心に巻き込まれていくストーリの興奮とスリルのうちに、観客の気持ちを掴んで離さないのだ。

しかし忘れてはいけない。ニック・カサヴェテスは少し危険な男なのだ。処女作『ミルドレッド』(1996)では、実母であるジーナ・ローランズ演じる孤独な老女に家を売らせ、独りっきりで旅立たせて。2作品目の『シーズ・ソー・ラブリー』(1997)では、ロビン・ライト・ペンに自分の子を間男(ジョン・トラボルタ)に残して 刑務所から出てきた恋人と(ショーン・ペン)二人っきりで旅に立たせて。3作品目の『ジョンQ─最後の決断─』(2002)では、デンゼル・ワシントンに息子の臓器移植のために病院を丸ごと占拠させたのもみんなニック・カサヴェテスの仕業なのだ。

picいくら魅力的だからといっても冷静になったときに愕然とするのは、感情が強いがために社会的なバランスを欠いた人物ばかり描いているということだ。観客の気持ちと登場人物の気持ちを知り尽くしたニック・カサヴェテスだからこその成せるわざとは言えども、前述したような通常の常識的な社会を覆すようなことにも観客の気持ちが鷲づかみにされて「あり」になるのだから少し恐ろしいと思ってしまう。

しかし、ニック・カサヴェテスの映画で重要なのは、その登場人物たちがそんな状態になるほど何かと戦っているということだ。それはあるときは社会的な要因かもしれないし、またあるときは譲れない一線が剥き出しになった人との関係の中かもしれない。それを不条理だと嘆くことは簡単だが、おずおずと引き下がることを彼らはよしとはしない。彼が描く“愛”はそれほど強いものなのだ。

ニック・カサヴェテスは現実のそういう側面を映画に忠実に反映させているから私たちの心を掴んで離さないのだと思う。そしてその強さをキリキリと見せられるからその苦悩も増して、せつなさもつのる。もし映画のなかの人物がエキセントリックに見えたならそれは私たちがまだ見せたことのない、あるいは見たことのない“本気”の姿なのかもしれない。


きみに読む物語
THE NOTEBOOK
(2004年 アメリカ 123分 シネスコ/SRD) 2010年2月13日から2月19日まで上映 ■監督 ニック・カサヴェテス
■原作 ニコラス・スパークス 『きみに読む物語』(新潮社刊)
■脚本 ジャン・サルディ/ジェレミー・レヴェン

■出演 ライアン・ゴズリング/レイチェル・マクアダムス/ジーナ・ローランズ/ジェームズ・ガーナー/ジョーン・アレン/ジェームズ・マースデン/サム・シェパード

若さに駆られるように生きたあの夏、ぼくらは苦しいほどにお互いを求めた──。そして迎えた人生の豊穣の秋。ぼくはこうしてここに座って、もう一度奇跡が舞い降りるのを待っている。365通の手紙。白鳥の棲む湖。あの雨の朝の匂い。想い出が少しずつ、きみからこぼれてゆく。だから、きみが思い出すまで、ぼくは読む──。

ラブ・ストーリーの始まりへと戻る旅路

物語の世界は情緒に溢れている。牧歌的な風景に突然降りだす雨。美しいイメージが物語の中に匂い立つ。pic

しかし目の前に見える世界が急に鮮やかに色づいて幻想的な風景を見せる時は物語の中だけだったろうか。どこかで見たようで、夢の中でしか見たことがないような…

時間がゆっくりと流れ白鳥がゆっくりと羽ばたき始めると、そっと夢と現実と過去がつながり始める。

『ウォーク・トゥ・リメンバー』『メッセージ・イン・ア・ボトル』の映画化でも知られる ニコラス・スパークスの処女作にして450万部以上の大ベストセラー『THE NOTEBOOK』の映画化。

原作者本人が「誰でも初恋を体験する。何かを愛することなく世の中を生きていける人間などいない。 そして人は振り返り“もし”と考える。この物語はそれを書いている」と語るように ノアとアリーの関係は幾度も窮地に立たされる。picその度に別れては惹かれあい、また離れては近づいていく2人。

しかしノアが「きみは、僕がこれまでしてきたすべての祈りの答えだ」というように、彼はアリーを求め続けたのだ。

しかし、ただの過去の情熱のかけらが一体何になるというのだろう。たった一夏の思い出に縛られているだけではどうにもならない。ただ、求め続け養い続けた時の果てから押し寄せる奇跡的な一瞬だけが二人を出会った頃の夏へと引き戻すのだ。


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私の中のあなた
MY SISTER'S KEEPER
(2009年 アメリカ 110分 シネスコ/SRD) 2010年2月13日から2月19日まで上映 ■監督・脚本 ニック・カサヴェテス
■原作 ジョディ・ピコー(『わたしのなかのあなた』(早川書房刊)
■脚本 ジェレミー・レヴェン

■出演 キャメロン・ディアス/アビゲイル・ブレスリン/アレック・ボールドウィン/ジェイソン・パトリック/ソフィア・ヴァジリーヴァ/ジョーン・キューザック/トーマス・デッカー

病気の姉を救うために、私は“創られた”。でも、今、私はその運命に逆らって、大好きな姉の命を奪おうとしている──。白血病の姉・ケイトを救うため、臓器を提供するドナーとして生まれてきた11歳のアナは、ある日両親に対して訴訟を起こす。何故、アナは突然姉を救うことをやめる決意をしたのか?その決断にはある理由が隠されていた──。

「実はあの母親がかなり好きだ。それは彼女が間違っているからで、僕はそのまちがいを完全に理解することができる」―ニック・カサヴェテス

たった一人家族の中の誰かが病気になるだけで、家族には大きな影響がある。今までその人が請け負っていた家族の中での役割が一気に欠けてしまうからだ。ましてやこの映画のように、家族が病気のケイト(ソフィア・ヴァジリーヴァ)中心に動いていたとしたらなおさらだ。

picこの映画は家族の絆の物語であると同時に“存在”を問う物語でもある。

ケイトは2歳から病気で、家族の中で迷惑ばかりかける自分の存在を。妹のアナ(アビゲイル・ブレスリン)はドナーとして生まれた自分を。弟のジェシー(エヴァン・エリングソン)はケイト中心に回る家族の中で疎外感を感じる自分の存在を。父親のブライアン(ジェイソン・パトリック)は家族の悩みとケイトの命をどうしてやることもできない自分を。

その中で母親のサラ(キャメロン・ディアス)は一人その家族の先頭を切って、ケイトの命を救うことに全力をかけている。いかなる手段でも使って家族一丸となってケイトを助けたいのだ。そう。サラの存在とはケイトのために…ただ一つなのだ。

picどうバランスを取ればいいのだろうか。大事な家族の命が失われようとするときにそれを見殺しにすることなどできない。もちろん皆分かっている。自分の存在への不安を抱えながら、不満を口に出すわけではない。家族全員が姉のケイトを心底愛しているのだ。

なのに、何故アナは母親を訴えたのか。その真実を皆が知る時、家族全員の存在が共有してきた時間と共に輝き始める。はじめから愛情に間違いなどないことは皆知っているのだ。しかし病気は誰のせいでもない。運命に対抗する方法をあなたはこの映画から見つけることができるだろうか?

(ぽっけ)


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