今週の二本立て、はっきり言って重いです。
落ち込みながら帰ることになるかもしれません。
しかし、それでも観てほしい作品です。
たとえ血の繋がりがなくても、生まれてから最初に所属する「家族」という社会は絶対的で、
そこで経験したことが自分の中での常識となっていく。
やがて本当の社会に出た時、新しい情報の取捨選択を繰り返すことで、徐々に「自分」というものが形成されていく。
そこで重要になってくるのが、育てられた者から受ける"愛"だ。
「愛されている、必要とされている」と感じることは、人間が成長する過程において大きな影響を与える。
愛を知らず、愛に憧れ、臆病な自分を閉じ込めたら、強く生きることしか残っていなかった。
生き方も死に方も教えてもらえなかった彼らは"絶望"と"希望"の狭間で必死に呼吸し続ける。
傷だらけの魂が夢見た“愛”の結末に、あなたは何を思うだろうか。
(ぐり)
息もできない
BREATHLESS
(2008年 韓国 130分 ビスタ/SRD)
2010年11月6日から11月12日まで上映
■監督・製作・脚本・編集 ヤン・イクチュン
■撮影 ユン・チョンホ
■音楽 ジ・インヴィジブル・フィッシュ
■第10回東京フィルメックス最優秀作品賞・観客賞
漢江、その岸辺。引き寄せあう二人の魂に涙が堪えきれない。 偶然の出会い、それは最低最悪の出会い。でも、そこから運命が動きはじめた…。 「家族」という逃れられないしがらみの中で生きてきた二人。父への怒りと憎しみを抱いて社会の底辺で生きる男サンフンと、傷ついた心をかくした勝気な女子高生ヨニ。歳は離れているものの、互いに理由もなく惹かれあった。ある日、漢江の岸辺で、心を傷だらけにした二人の魂は結びつく。それは今まで見えなかった明日へのきっかけになるはずだった。しかし、彼らの思いをよそに運命の歯車が軋みをたてて動きはじめる…。
本作は、俳優として活躍してきたヤン・イクチュン初の長編監督作品。「自分は家族との間に問題を抱えてきた。このもどかしさを抱いたままでは、この先生きていけないと思った。すべてを吐き出したかった」。そんな切実な思いから脚本を書き始め、自分で資金を集め、製作にこぎつけた。自身の感情のありったけを注ぎ込んだ主人公サンフンを演じるのは、もちろん自分だ。途中、製作資金に困って家を売り払いさえした。そこまでの思いでつくりあげた『息もできない』は、まさにヤン・イクチュンの魂そのもの。物語はフィクションでも、映画の中の感情に1%の嘘もない、という。だからこそ、観客の胸を激しく揺さぶる。
ケンタとジュンとカヨちゃんの国
(2010年 日本 131分 ビスタ/SR)
2010年11月6日から11月12日まで上映
■監督・脚本 大森立嗣
■撮影 大塚亮
■音楽 大友良英
■出演 松田翔太/高良健吾/安藤サクラ/宮崎将/柄本佑/洞口依子
ケンタとジュンは同じ施設で兄弟のように育った幼なじみ。工事現場でひたすら壁を壊す“はつり”と呼ばれる作業が二人の仕事だ。低賃金、劣悪な労働環境。そして職場の先輩による理不尽で執拗ないじめ。
ある日二人はナンパに出かけ、ブスな女の子、カヨちゃんに出会う。それ以来ジュンはカヨちゃんの部屋に転がり込んでいた。
そして、ある夜。ケンタとジュンは仕事場へ向かった。ついてくるカヨちゃん。二人は今夜、ある計画を実行する。それは、自分たちをいじめ続けた先輩の愛車を大ハンマーで破壊し逃げることだった。車に飛び乗り力いっぱいハンマーを振り下ろす二人。その様子に歓声をあげて喜ぶカヨちゃん。そうしてケンタとジュンとカヨちゃん、お金も知恵のない3人の、後戻りできない旅が始まる――。
すべてをぶっ壊して向かった北の果て。戻る場所のない三つの魂は、その地で何を見るのか。いじめに耐え続けた日々の鬱憤をはらし、自分で人生を“選ぼう”ともがくケンタ役を務めた松田翔太は、現代社会を生きる若者の等身大の姿を気迫溢れる存在感で演じた。ケンタを兄のように慕うジュンを演じたのは、『ソラニン』『ボックス!』など、主演作が目白押しの高良健吾。ケンタの衝動的な行動に恐れを感じながらも、ついていく決心をする。そして、男と寝ることでしか自分の存在を確かめられないカヨちゃんを演じたのは、『愛のむきだし』での怪演が記憶に残る安藤サクラ。本作でアジア・フィルム・アワード助演女優賞にノミネートされている。