私は困難にぶち当たった時、反射的にこの言葉が浮かんできます。
これは『燃えよドラゴン』で、ブルース・リーが少年の頭を執拗に小突きながら、
彼に諭した言葉です。
私個人の話になりますが、『燃えよドラゴン』は人生でいちばん見ているかもしれない映画です。
兄がテレビで録画したビデオを、テープが伸びるくらい繰り返し観ていたので、
私は盗み見していました。それは日本語吹き替え版でした。
戦いの時に発する「アチョー!」という奇声も、
ものすごい違和感と同時に、心に残る異物感がありました。
リーが武道の流派を問われた時、さらりとこう答えました。
「無手勝流だ」
こういった大人のセンス。
実に悪そうなミスター・ハンやその手下、そして娼婦たち、
子供時分の私には大人のいけない世界を覗き見るようで、見るたびにどきどきしたものです。
それが時を経て、堂々と映画館で観られる!
なんてステキなことだろうと思っています。
そして、21世紀のブルース・リーは女の子だ!とばかりに
『チョコレート・ファイター』で映画デビューを飾るのが少女・ジージャー。
“ノンストップの生傷アクション!”を謳い文句に、ノースタント・ノーワイヤーで暴れ回ります。
その父親役で、日本人ヤクザを演じる阿部ちゃん(阿部寛)も、
激しいアクションと濡れ場を交えて熱演しています。
今回上映する作品は、スクリーンの中で躍動する人間のエネルギーが直に伝わってくる力強さを感じます。
観ている時間なんてあっという間です。楽しむのもよし、懐かしむのもよし、ブルース・リーになりきるのもよし。
映画に元気をもらって、ぜひともよい一年をお過ごしいただけたらと思います。
チョコレート・ファイター
CHOCOLATE
(2008年 タイ 93分 ビスタ/SRD)
2010年1月16日から1月22日まで上映
■監督・製作 プラッチャヤー・ピンゲーオ
■アクション監督・製作 パンナー・リットグライ
■脚本 ネパリー/チューキアット・サックヴィーラクン
■出演 “ジージャー”ヤーニン・ウィサミタナン/阿部寛/ポンパット・ワチラバンジョン/アマラー・シリポン/タポン・ポップワンディー/イム・スジョン/ソーミア・アバハイヤ/シリモンコン/デイ・フリーマン/サー・マオー
やっぱり映画は過剰でなくちゃね、ということでかわいい女の子がめちゃくちゃ暴れまわるこの映画、チョコレート・ファイター!過去のピンゲーオ監督作『マッハ!』『トム・ヤン・クン!』はトニー・ジャーを主演に迎えたマッチョなヒーロー物語だった。今作の主人公はなんと自閉症の美少女。そうきたか、ピンゲーオ!
彼女は闘う。最愛の家族のため、そして生きるため…
日本ヤクザとナンバー8率いる現地最大マフィアとの抗争が激化する十数年前のタイ。日本ヤクザの大物マサシ(阿部寛)は、ナンバー8の女ジンと運命的な恋に落ち、マサシはナンバー8の前でジンをさらってしまう。マサシの帰国後、ジンは一人で子供を産み、その子は日本にちなんで”ゼン”と名付けられる。ゼンは脳の発達が遅く自閉症を患っていた。
美しく成長したゼン(ジージャー)は、アクションビデオを見ただけで技を習得できる、並外れた身体能力を持っていた。幼なじみのムンと密かに練習に励んでいたゼンに、突然の不幸が訪れる。最愛の母ジンが末期の白血病に侵されていたのだ。
多額の治療費を工面するために、かつてジンがお金を貸していた人々から、お金を返してもらいにいく。しかし彼らが素直にお金を返すわけもなく、手荒く追い返される。愛する母を助けるため、これまで磨いた武術でゼンは彼らに立ち向かっていく…。とわかりやすい物語なんですが、その後ナンバー8にムンとジンが捕えられたり、阿部ちゃんが救出に現れたりと目が離せない。
とにかくジージャーが凄い!”リアル・アクト、リアル・ペイン”トニー・ジャー流のアクション映画を継承するため、彼女は1460日の過酷な修行を敢行した。”ノースタント・ノーワイヤー”で得た生傷は伊達じゃない。
「ヤー!」
雄叫びもかわいらしいジージャーが、屈強な男女をバッタバッタとなぎ倒す。世界がひれ伏すアクション・ヒロインの誕生だ!
燃えよドラゴン
ENTER THE DRAGON
(1973年 香港/アメリカ 100分 シネスコ/SRD)
2010年1月16日から1月22日まで上映
■監督 ロバート・クローズ
■脚本 マイケル・オーリン
■格闘技 ブルース・リー
■出演 ブルース・リー/ジョン・サクソン/アーナ・カプリ/ジム・ケリー/ボブ・ウォール/シー・キエン/アンジェラ・マオ・イン/ベティ・チュン/ジェフリー・ウィークス/ヤン・スエ/ピーター・アーチャー
私に様々の勇気とトラウマを与えた『燃えよドラゴン』がついにスクリーンに帰ってくる!
ブルース・リーのかっこよすぎる肉体。成金趣味でグロテスクなタイガーバームガーデンの戦場。鉄の拳を付けたミスター・ハンと妖しい娼婦たち。そのすべてが目に焼きついて離れない!
南シナ海に浮かぶ要塞島で開かれる武術トーナメントへの招待状が、陰謀が渦を巻く国際都市香港から世界中の武術の名手にあてて一斉に送り出された。
その頃、香港に近い田舎ではカラテの試合が行われていた。優勝したのは、少林寺で仏の道と武術を勉強中のリー(ブルース・リー)という若者。彼は秘密情報局のブレースウェートから、
武術トーナメントに出場するよう要請されたが、リーはその場で断った。武術で名を上げるよりも無名なままの修道を彼は望んだからだ。
しかし、修道僧長から、要塞島の支配者ハン(シー・キエン)はかつてこの少林寺の修道僧であり、学んだ武術の知識を彼が悪用していることなどを聞かされると、トーナメントへの出場を承諾しないわけにはいかない。数年前に妹がハンの手下・オハラに襲われ、自ら死を選んだこともいっそうリーの闘志を煽り立てた。
まだ見ぬハンやオハラへの復讐心に燃え、リーが悪の要塞島へ出発する日が来た。彼の任務はトーナメントに優勝することではない。真の目的は島内での麻薬製造密売の内情をさぐり出すことである。彼はブレースウェートに詳細な指示を受けたのち、島へ向かった…。
”怒り”
一言でいうならこう集約できるだろう。この映画の持つカタルシスたるや凄まじい。見終えた時、血湧き肉踊る自分に気がつく。映画に飲み込まれる、そんな感じ。
この映画のおもしろいところは、ただの勧善懲悪の物語とは思えないところだ。ブルース・リーの”求道精神”。『燃えよドラゴン』はその一つの象徴として捉えることができる。リーが一途に求道的であればあるほど、その人間としての怖さと狂気が迫真してくる。
この映画の公開時には亡くなっていたという、ブルース・リーという人間に秘められた神秘性。
彼の生き方、そして魂のあり方がこの映画からじわじわと浮かんでくる。そこに私はどうしようもなく惹かれるのだ。
ブルース・リーが命を懸けた最高傑作。この映画を残し32歳で夭逝した若者の勇姿に、
何かを”感じる”ことは間違いない。
(mako)