秘密が告白された時に必ず起こる崩壊と解放。
ニクソンとミルクにおいてはそれがあたかも野望と希望の違いであるように
わたしたちは一つの秘密の箱を前にして、開けようとするのか×それとも開けさせまいとするのか
その箱の中身は時には抱えるものの体を蝕んでいく。
沈黙の巨人の孤独とゲイ活動家の憂慮。
私には想像も及ばないような重力・圧力が箱の蓋を内と外から押さえつけている。
今週の2本立ては秘密の箱の蓋の重さを知るものの苦悩と闘いの記録!
『ミルク』&『フロスト×ニクソン』
映像の世紀―─20世紀のマスメディアと民主政治の嘘とホントの境界線が開かれて
静かに現実と重なっていくスリルと感動をご覧下さい。
開かれた世紀へ!!
フロスト×ニクソン
FROST/NIXON
(2008年 アメリカ 122分 シネスコ・SRD)
2009年9月26日から10月2日まで上映
■監督・製作 ロン・ハワード
■製作総指揮・脚本・原作 ピーター・モーガン
■出演 フランク・ランジェラ/マイケル・シーン/ケビン・ベーコン/レベッカ・ホール/トビー・ジョーンズ/マシュー・マクファディン/オリバー・プラット/サム・ロックウェル
■2009年アカデミー賞5部門ノミネート(作品・主演男優・監督・脚色・編集)ほか
今も全米TV史上最高の視聴率を誇るインタビュー番組。この番組を舞台化・映画化した脚本家ピーター・モーガンの着眼点は奇抜だ。モーガンはまず”言葉と頭だけを武器として使うことが許された剣闘士たちの丁々発止の決闘競技”を目指してリサーチを始めた。
調べてみて気付いたのは”両陣営ともに戦略的に組み立てられたインタビューの会話”はまさにボクシングのようだということ、さらに「それを生かして、山あり谷ありの本当に満足できる競技のような試合を構築できるだろうと思った」と語っている。
TV番組の映画化と言えば、2008年度アカデミー作品賞を獲得した「スラムドッグ・ミリオネア」もそうだが、TVの視聴者は勝者を決定的に勝者へ、敗者を決定的に敗者へ固定してしまう力を持つ。
しかし、それ以前には大統領でも司会者でも一度、平等・等価にしてしまうのが面白い。その力をニクソンもフロストも、この映画を作った製作者も巧みに利用しているのがこの映画の醍醐味だろう。
政治とショウビズの世界の境界が日毎に曖昧になってゆく現代。そのきっかけともなったリチャード・ニクソンとウォーターゲート事件。まさかこのインタビューが舞台・映画になると思ったものがこの当時にいただろうか?映画はこんなことをできるようになったのか、という驚きに満ちた、新鮮な”実録された映像の再現”エンターテイメント。
ミルク
MILK
(2008年 アメリカ 128分 ビスタ・SRD)
2009年9月26日から10月2日まで上映
■監督 ガス・ヴァン・サント
■脚本・製作総指揮 ダスティン・ランス・ブラック
■出演 ショーン・ペン/エミール・ハーシュ/ジョシュ・ブローリン/ディエゴ・ルナ/ジェームズ・フランコ/アリソン・ピル/ヴィクター・ガーバー/デニス・オヘア/ジョセフ・クロス/スティーブン・スピネラ
■2009年アカデミー賞最優秀主演男優賞、最優秀脚本賞受賞、6部門ノミネート(作品・監督・助演男優・編集・作曲・衣装デザイン)/ニューヨーク映画批評家協会賞 最優秀作品賞、最優秀主演男優賞、最優秀助演男優賞三冠/ロサンゼルス映画批評家協会賞 最優秀主演男優賞/全米映画批評家協会賞 最優秀主演男優賞/インディペンデント・スピリット賞 助演男優賞(ジェームズ・フランコ)、新人脚本賞/放送映画批評家協会賞 主演男優賞、アンサンブル映画賞ほか
彼は演説のたびにそう言う。この映画の中の(ショーンペン演じる)ハ―ヴェイ・ミルクの声は言葉以上に私たちを誘っている。ショーン・ペン特有の少し吃るような話し方で観客を魅了して開けた場所へと向わせてしまうのだ。通りに、広場に、我々は自由に飛び出して構わないんだ、と。
カムアウト(同性愛を告白)するんだ。クローゼットの中に閉じこもらなくていい、と部屋に閉じこもる若者に訴え続けたミルク。彼が殺害される前に録音テープに吹き込んだ音声には「もし一発の銃弾が私の脳に達するようなことがあれば、その銃弾はすべてのクローゼットの扉を破壊するだろう」と遺されていた。決して失ってはいけない解放運動の希望としての自覚と確信があったのだろう。
しかし秘密の扉は、開けてしまえばもう二度とは元に戻らない。事実、ミルクの死後に起こった事件「ホワイト・ナイトの暴動」は彼の手を離れたもののように思える。ミルクが本当に望んでいた社会とはどんなものだったのだろうか。
40歳近くになってから始まった彼の活動は、同性愛者のためだけでなく全てのマイノリティのためのものだったとミルクを知る者は言う。さらに、この映画の中では差別者であるダン・ホワイトの心の隙間にさえもミルクの視線は向かう。少し残念そうに顔を覗きこむようにして微笑むミルクの顔が印象的だ。この顔を見ていると思う。この映画は入れ替わり生まれ続けるマイノリティの時間地図。
解放されてはまた生まれる差別の姿とその心の痛みを見事に描ききったガス・ヴァン・サント監督に拍手を贈りたい。ショーン・ペンを始めとする俳優陣も見事。エミール・ハーシュ、ディエゴ・ルナ、ジョシュ・ブローリン。監督の慧眼とやり続けてきたことの結実を心から祝福したい一作。
(ぽっけ)
★缶バッジ販売のお知らせ★ バッジの販売は終了いたしました。
上映期間中(9/26〜10/2)、"NO ON 6"、"NO ON 8"の缶バッジを各200円にて販売いたします。数量限定ですので、ご希望の方はお早めにどうぞ。
★「NO ON 6」とは……1978年にカリフォルニア州に提案された「プロポジション6(提案6号)」への反対を意味し ます。
「プロポジション6」とは、同性愛者の教職員を、同性愛者であるという理由だけで解雇できる法律を作ろうとする提案でした。映画でも描かれますが、 ミルクは大々的に「NO ON 6」という反対運動を展開しています。
また、 「NO ON 8」とは、2008年、カリフォルニア州に提案された「プロポジション8(提案8号)」への反対を意味します。「プロポジション8」は、同性同士の結婚を禁止する内容です。