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はずだった、未来。

ありえたかもしれない自分の人生の物語は誰でも持っている。
そして、こうしかなりえなかった自分の物語も。

しかし、時にはその両方の物語を同時に失ったような気持ちになる瞬間もあるものです。
現在と未来が陸続きだという絶望的な事実の前で皆様はどんなことを考えるでしょうか。

今回の2本立ては、揺れ動く時間と魂の彷徨の中
ありえたかもしれない物語と、こうしかなりえなかった物語の狭間を生きる少年の過ちと少女の夢。
『BOY A』『ダイアナの選択』。
ご覧になった後に、是非語り合って頂きたいと思います。

BOY A
BOY A
(2007年 イギリス 107分 ビスタ/SRD)

pic 2009年8月8日から8月14日まで上映 ■監督 ジョン・クローリー
■脚本 マーク・オロウ
■原作 ジョナサン・トリゲル『BOY A』

■出演 アンドリュー・ガーフィールド/ピーター・ミュラン/ケイティ・リオンズ/ショーン・エヴァンス/ジェレミー・スウィフト/アンソニー・ルイス/アルフィー・オウエン/テイラー・ドハーティ

■2008年BAFTA最優秀男優賞(アンドリュー・ガーフィールド)、最優秀監督賞、最優秀編集賞、最優秀撮影賞/2008年ベルリン国際映画祭パノラマ部門エキュメニック審査員賞(ジョン・クローリー)

■オフィシャルサイト http://www.boy-a.jp/

彼は未来のために名前を失った。

pic24年の生涯のほとんどを一般社会から隔離されて過ごした青年は、自分に新しい名前を付けた。名前はジャック――彼の新しい世界はここから始まった。

青年の心には大きな傷跡がある。決して消せない罪を背負っている。いま、愛する人ができた。仲間ができた。それでも彼は問いかける。「僕はここにいても、いいの?」。もう一度生き直すために本当の名前を失った青年の心の傷、希望、孤独。少しずつジャックを知り始めた時に訪れる衝撃の結末。その時あなたは彼になんと答えますか?

匿名という名前の烙印

pic少年Aといえば日本では神戸連続児童殺傷事件の犯人、酒鬼薔薇聖斗が浮かぶだろうと思う。人を殺してはいけない。という共通の倫理感に穴があいてしまったような少年の犯罪。90年代的な不安がこの事件にはあった。

被害者側の人権問題や少年Aの両親の手記の出版、少年法やマスコミの問題などで何度も事件は思い出され、そういえば少年Aはすでに退院している。

この「そういえばすでに退院している」に不安を感じる人は多いのではなかろうか。

pic匿名による少年法の措置は更生と、その後の社会復帰のことを考えてのことだ。しかし、退院したことに不安を感じる我々の心にはクエスチョンマークが宿っている。このクエスチョンマークと「人は更生できる」という期待、それが我々が少年につけた名前。少年Aだ。

もちろん名前とは代理のものに過ぎない。本作の主人公「ジャック」は何か罪を犯し、新しい名前を得た。新しい生活。経験したことのない日々。

しかし私たちは、ジャックの何を知っているというのだろうか。
だからこそ物語は始まるのだ。


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ダイアナの選択
THE LIFE BEFORE HER EYES
(2008年 アメリカ 90分 PG-12 シネスコ/SRD) pic 2009年8月8日から8月14日まで上映 ■監督 ヴァディム・パールマン
■脚本 アミール・スターン
■原作 ローラ・カジシュキー『春に葬られた光』

■出演 ユマ・サーマン/エヴァン・レイチェル・ウッド/エヴァ・アムーリ/ブレッド・カレン/ガブリエル・ブレナン/オスカー・アイザック/ジャック・ギルピン/ジョン・マガロ

「どっちを殺す?」
彼女の答えが引き金になり、新しい人生が始まった、はずだった。

picもがきながらも自分の生き方を模索していた17歳のダイアナ。大人びて反抗的な彼女も自分の未来は輝いていると信じていた。親友のモーリーンとトイレでたわいのないお喋りをしていたあの日、銃を持った同級生に、モーリーンと自分の「どっちを殺す?」と言われるときまでは。殺されるのは親友か自分か、ダイアナは"選択"を迫られる──。

青春と決断、その間断なき運命との争い

監督は、前作『砂と霧の家』(2003)で家を求めて巡る二家族の姿に典型的なアメリカ白人と中東出身の政治難民の対立の縮図を描いたヴァディム・パールマン。そこで描かれたものは宿命とも言える、逃れられない運命のすれ違いだった。

pic最新作である『ダイアナの選択』も前回同様、運命に相対する人々の姿を描いている。前作に比べるとよりパーソナルな内容になっている。少女ダイアナの未来への希望は、彼女自身の夢を癒すことになるのだろうか。

銃乱射事件を題材としている映画として、本作の方法は、当館でお馴染みのガス・ヴァン・サント監督の『エレファント』のように事件の実情に近付こうとするものではありません。むしろ事件に巻き込まれていった魂の行方を捕らえようとする試みだと言えそうな映画です。

pic「結末は秘密にして下さい」という広告も、本作のアイデンティティと密接に関わりのあるもの。思った以上に皆様にとって大切な映画になることだと思います。

さて、一度目しか体感できない困惑の中で皆さまは何を考えるでしょうか?
是非観たあとにじっくりと思い返して下さい。

(ぽっけ)

 


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