1956年、イギリス・マンチェスター生まれ。劇団の美術監督、演出助手を経て80年代の終わりからテレビ界へ。95年に『シャロウ・グレイブ』で劇場版映画監督としてのデビューを果たす。
日本でも社会現象となった2作目『トレインスポッティング』(96)では、薬物中毒の若者たちを斬新な映像感覚で生々しく描き、全世界に衝撃を与えて一躍注目される。
以降ハリウッドに招かれて『普通じゃない』『ビーチ』を手がけるが評価は芳しくなく、再びイギリスを拠点とするようになる。
2008年『スラムドッグ$ミリオネア』でアカデミー賞監督賞・作品賞を含む8部門受賞ほか、世界中の数々の賞を受賞。
・シャロウ・グレイブ(1995)
・トレインスポッティング(1996)
・普通じゃない(1997)
・ザ・ビーチ(1999)
・28日後…(2002)
・ミリオンズ(2004)
・28週後…(2007)
・サンシャイン2057(2007)
・スラムドッグ$ミリオネア(2008)
皆様、お待たせしました!
今週ご紹介する映画はイギリス映画史上最も興行成績をあげた作品の一つとなる大ヒットを記録した『トレインスポッティング』と、
ダニー・ボイル監督最新作で、作品賞を含む2008年度アカデミー賞最多8部門を獲得した『スラムドッグ・ミリオネア』。
『トレインスポッティング』が公開された頃、“街”に若者を放ったのはこのダニー・ボイル監督とも言えるでしょう。 本から得た知識ではなく街を駆け回って直に生きた知恵を!という、 彼のエネルギーに触発されて街へ、世界へ飛び出した人も少なくないと思います。
街に集まる人たちは先生や親が教えてくれないことを知っている。 ホームレス、飲んだくれ、遊び人、ギャンブラー、etc・・・ それら全ての人の話が妙に真実めいていて面白い。 そんな一つ一つのエピソードが鈍い光を放って、良い意味でも悪い意味でも退屈しないのがダニー・ボイルの描く街。
さらに彼の映画にはそこに佇む青年の姿がよく似合う。 少し汚れて、荒廃した街の隅に座り込む姿。路地裏に集まっている仲間たちの姿。 じっとしていても、視線は激しく交錯し頭は回転しっぱなしだ。 その鈍い光と、激しい回転の中で生まれてくるのがダニー・ボイル映画の主人公。
スコットランド、エディンバラ―─レントン(『トレインスポッティング』)の賢さから、 インド、ムンバイ─―ジャマール(『スラムドッグ・ミリオネア』)のエネルギー。
この街と人を通してダニー・ボイルが訴えていることとは一体なんでしょうか。 多くの人に届いてしまう不思議な魅力を失わないストリートワイズ=ダニー・ボイルの映画。 観ればじっとしてられません。まだ観てない方、一見の価値ありです。
さぁ、“未来を選べ”!
90年代を謳歌した若者ならば誰もがこの名前・この映画を知っているはず。 ダニー・ボイルの『Trainspotting』。 こんなに速くて、こんなにスタイリッシュで、こんなに気安い映画なんてそれまでなかった。 彼らがスコットランドの街を走る疾走感、あの冒頭!──Iggy Popの"Lust for life”。
楽しくて、気安くて、でもそういう日常の中に徹底的に逃れられない倦怠感が潜んでいる。街角の小さな世界は自分たちのものみたいに思えても、実際には何も手に入らない。そんなの嫌だ。見せかけの幸せなんかいらない。しかし、意気込むだけでは逃れられない。
見せかけの自由と飼いならされた冒険、欺瞞に守られた“ルーティンライフ”を逃れる方法などあるのだろうか。映画の最後にレントンは意外な道を“選ぶ”。さて、じゃあそれは“正しい選択”?。
公開から10年以上経った今、私たちはレントンの選択に迫る自分の応えを用意できているだろうか。
トレインスポッティング
TRAINSPOTTING
(1996年 イギリス 93分 ビスタ/SRD)
2009年10月24日から10月30日まで上映■監督 ダニー・ボイル
■脚本 ジョン・ホッジ
■原作 アーヴィン・ウェルシュ
■出演 ユアン・マクレガー/ロバート・カーライル/ジョニー・リー・ミラー/ケリー・マクドナルド/ユエン・ブレンナー
■1996年度アカデミー賞脚色賞ノミネート/1996年度英国アカデミー賞脚色賞受賞
未来を選べ。90年代最高の“陽気で悲惨”な青春映画!
生まれる場所を選べない運命。 今まさに行われている暴力に逆らうこともできない無力。 貧困のために付き合う人間を選べない不合理。 自分しか信用できない。誰も助けてくれない。 騙されれば野垂れ死ぬ。 この映画の舞台であるムンバイではこれが当然のルール。 貧困が生むこの悪循環の中から一生抜け出すことができないのが、スラムの負け犬=スラムドッグの運命だ。
しかし貧困によって教育が受けられなくても、数少ない経験の中でも見つけられるものはある。 主人公・ジャマールが這って来たスラムの街に転がっていたのは、ただの困難ではなくヒントだったのだ。 と、ここまで言ってみると急に言い切るのを憚られてしまう。
若干18歳にして「クイズ$ミリオネア」の最終問題まで辿りついたジャマールの過去はそれほど過酷なものだった。 激動の時代の中、孤児になって兄と二人でその日その日の生を拾う暮らし。 それでも自分達で生活のアイデアを生み出して不条理なスラムの暮らしに耐え抜いてきた。
TVで、高額の賞金を手にしているジャマールを観てこう思う人もいるだろう。
「運がいいやつだ」
しかし、この映画を最後まで観た人にとってこの挑戦はきっとそういうものではない。 たった一つの人生でしか掴みとれない答えが初めて“運命”を輝かせ始めるその瞬間に立ち会うことになるのだから。
ただ運がいいというのなら、そこで暮らしてみることを想像してみたらいい。スラムドッグの運命を引き受けるのは容易なことではないのだ。 ただの成功でも、ラッキーでもない。 過酷な暮らしの中で躍動的な生の喜びをつぶさに拾い集めてきたジャマールの そのたくましさだけが、奇跡なんか“絶対に”起こらないことを知っている。
(ぽっけ)
スラムドッグ$ミリオネア
SLUMDOG MILLIONAIRE
(2008年 イギリス 120分 シネスコ/SRD)
2009年10月24日から10月30日まで上映
■監督 ダニー・ボイル
■脚本 サイモン・ビューフォイ
■原作 ヴィカス・スワラップ『ぼくと1ルピーの神様』
■出演 デーヴ・パテル/アニル・カプール/イルファーン・カーン/マドゥル・ミッタル/フリーダ・ピント
■2008年度アカデミー賞作品賞・監督賞・脚色賞・撮影賞・編集賞・録音賞・作曲賞・主題歌賞受賞ほか多数受賞
お金のためではなく、ある“目的”のためにクイズ番組に参加した、スラムの少年。彼が、全てを賭けて手に入れたかった、たったひとつの運命とは──?