【2021/2/20(土)~2/26(金)】『82年生まれ、キム・ジヨン』+『はちどり』

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2016年、韓国の繁華街近くのトイレで女性が殺害された事件が起こりました。このとき、現場付近にはメッセージボードが設置され、「女性という理由で殺害されるなら、この街の私も偶然生きているだけ」という、悲しみと怒りを表明するメッセージがいくつも書き込まれました。

2018年には、女性を性的に虐待する動画を撮影・ネット上で共有するという事件が発覚し、韓国社会に激震を走らせました。一般的に「n番部屋事件」と呼ばれたこの一件が重く衝撃的だったのは、未成年を含めあまりに多くの一般女性が犠牲になっていたことです。n番部屋へ独自潜入し、警察へ通報したのは 、“追跡団花火”と称するたった二人の女性チームでした。

たくさんの傷と悔しさで満ちた時代に、『はちどり』と『82年生まれ、キム・ジヨン』は生まれました。

いない人たち。聞かなかった声。そうやって消えてきた多くのものがありました。しかしそれは、“いないことにされた”“聞かなかったことにされた”ということが、たしかにあったのではないでしょうか。

憂鬱と失望を抱え、それでもかすかな光へ歩みつつ生きる“私たち”をきちんと探し出してくれたこの二本に、私は心から感謝と連帯を伝えたいです。

(84年生まれ、ミ・ナミ)

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はちどり
House of Hummingbird

キム・ボラ監督作品/2018年/韓国・アメリカ/138分/DCP/PG12/ビスタ

■監督・製作・脚本 キム・ボラ
■撮影 カン・グクヒョン

■出演 パク・ジフ/キム・セビョク/チョン・インギ/イ・スンヨン/パク・スヨン/キル・ヘヨン

■2018年インディペンデント・スピリット賞編集賞ノミネート/放送映画批評家協会賞若手俳優賞ノミネート ほか多数受賞・ノミネート

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この世界が、気になった

1994 年、ソウル。家族と集合団地で暮らす14歳のウニは、学校に馴染めず、 別の学校に通う親友と遊んだり、男子学生や後輩女子とデートをしたりして過ごしていた。 両親は小さな店を必死に切り盛りし、 子供達の心の動きと向き合う余裕がない。ウニは、自分に無関心な大人に囲まれ、孤独な思いを抱えていた。

ある日、通っていた漢文塾に女性教師のヨンジがやってくる。ウニは、 自分の話に耳を傾けてくれるヨンジに次第に心を開いていく。ヨンジは、 ウニにとって初めて自分の人生を気にかけてくれる大人だった。 ある朝、ソンス大橋崩落の知らせが入る。それは、いつも姉が乗るバスが橋を通過する時間帯だった。 ほどなくして、ウニのもとにヨンジから一通の手紙と小包が届く…。

世界各国の映画祭で50冠を超える受賞! キム・ボラ監督 鮮烈の長編デビュー作

2018年の釜山国際映画祭で上映されたときから、観客の心をつかんで離さないこの映画は、ささやかで個人的な作劇でありながら、2010年代で最も時代の痛みに呼応した偉大な一本と呼ばれるような傑作です。本作の主人公ウニの小学生時代を描いた短編『リコーダーのテスト』がそうだったように、キム・ボラ監督は人間だれしもが持つ弱さに眼差しているため、時に残酷さと悲しみがにじみます。しかし『はちどり』は、そんな暗がりも世界の愛おしい一部であると感じさせてくれます。そして、この世界は生きる価値があるとそっと教えてくれるのです。(ミ・ナミ)

82年生まれ、キム・ジヨン
Kim Ji-young: Born 1982

キム・ドヨン監督作品/2019年/韓国/118分/DCP/ビスタ

■監督 キム・ドヨン
■原作 チョ・ナムジュ 「82年生まれ、キム・ジヨン」(筑摩書房刊)
■脚本 ユ・ヨンア
■撮影 イ・ソンジェ
■音楽 キム・テソン

■出演 チョン・ユミ/コン・ユ/キム・ミギョン/コン・ミンジョン/キム・ソンチョル/イ・オル/イ・ボンリョン

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彼女の心はなぜ壊れてしまったのか――

結婚・出産を機に仕事を辞め、育児と家事に追われるジヨン。常に誰かの母であり妻である彼女は、時に閉じ込められているような感覚に陥ることがあった。そんな彼女を夫のデヒョンは心配するが、本人は「ちょっと疲れているだけ」と深刻には受け止めない。しかしデヒョンの悩みは深刻だった。妻は、最近まるで他人が乗り移ったような言動をとるのだ。ある日は夫の実家で自身の母親になり文句を言い、ある日はすでに亡くなっている夫と共通の友人になって夫にアドバイスをする。またある日は祖母になり母親に語りかける。「ジヨンは大丈夫。お前が強い娘に育てただろう」――その時の記憶はすっぽりと抜け落ちている妻に、デヒョンは傷つけるのが怖くて真実を告げられず、ひとり精神科医に相談に行くが…。

日本でも社会現象を巻き起こした大ベストセラー小説を映画化!

主人公キム・ジヨンに起きた現在と過去の出来事をクロスさせることで、ワンシーンごとに女性としての人生の中で突きつけられる理不尽と苦痛が表現されています。この映画は対立をあおることはせず、ごく普通の女性である彼女の傷は観る者の心を強く共振させるのです。キム・ジヨンは、まるで他人が乗り移ったような言動で夫や周囲を戸惑わせます。それは彼女の心が壊れてしまった証である一方で、これまで可視化されなかった多くの声をすくい上げて抑圧の在りかを問うているようです。黙って感情を飲み込むことをもう終わらせなければならないという、作り手の意志の表明であるのかもしれません。
(ミ・ナミ)