【2025/5/3(土)~5/9(金)】『SUPER HAPPY FOREVER』『HAPPYEND』// 特別レイトショー「五十嵐耕平 × 空音央 短編集」『鶏/The Chicken』『アメガラス/Sugar Glass Bottle』『水魚之交』『豆腐の家』『メルヒェン』

もっさ

幸せを感じるとき、この時間がいつまでも続けばいいのに…って、いつも思う。願いのような、祈りのような。その“幸せ”ってやつは、たいそうなものではなくて、おいしいものを食べているときとか、友達と笑い転げているときとか、同じ趣味の話題で盛り上がっているときとか、本当に些細なものだ。だけど、おいしいものは食べたらなくなってしまうし、楽しい時間もあっという間に過ぎてゆく。幸せって、儚い。だから、その時を思うと、なんだかとっても切なくなってしまうのだ。

『SUPER HAPPY FOREVER』は、妻・凪を亡くしたばかりの主人公・佐野が、二人の出会いの地に訪れる現在と、後半はその5年前の凪と佐野の出会いの2つの時間軸で描かれる。5年経てば、世界は変わるんだなって、改めて感じた。特に本作では2018年から2023年のコロナ禍以前・以後を描いており、変わらざるを得なかった人の生活や街並みが映し出される。忘れられない出来事だと渦中では思っていたのに、今となっては「そうそう、こんな感じ」って思うほどに薄れてしまうものなのかと、実感させられた。

特に印象的なシーンがある。旅先で出会ったふたりが、深夜のコンビニ前で座って食べるカップラーメン。このワードだけで、非日常と日常がまぜこぜになった特別感たっぷりだ。そして一言「カップラーメンでこんな幸せになれるんだったら、永遠にずっとめちゃくちゃ幸せでいられる」――この瞬間、二人の距離。あぁ、思い出しただけで泣きそうになる。きっとふたりはこのひと時に幸せを感じたに違いなくて。その先、何度思い出したのだろう。少しは薄れてしまっただろうか。それとも、忘れてしまっただろうか…。二人が歩んだ5年の月日を思わずにいられない。鑑賞後、カップラーメンを爆買いしたのもいい思い出だ。

『HAPPYEND』の舞台は近未来の日本のどこか。人権を守るためのデモが日常的に行われていたり、学校でAIによる監視システムが導入されたり、生徒たちが果敢に権力に立ち向かい抗議をする場面があったり…そういった社会的なメッセージ性を持っていながら、物語の主題は「友情」。主人公のユウタとコウを中心に、進路や将来について考えはじめる繊細な時期の友情の揺らぎを描く青春映画だ。いつまでも隣で笑って生きていけると思っていた親友が、気づけばちょっと遠くを歩いてて、置いてきぼりを食らった…そんな自分が重なってしまい、途中、涙が止まらなかった。

「愛してるよ!」と、ユウタが叫ぶ、歩道橋での二人の掛け合いが、とてつもなく、愛おしい。ふざけ合って、笑いあって。だけど、楽しく過ごしていた彼らにも、徐々に溝が生まれてゆく。今の社会に疑問を持ちこれから先に目を向けるコウは、音楽のことばかり考えているユウタに対して苛立ちをあらわにする。しかし、考えなくては、行動しなくてはと焦る一方で、「一体自分に何ができるのだろう」という迷いも垣間見える。今を楽しく生きたいユウタは、「自分が良ければ良い」という社会に無関心のようにも見えるが、実は誰よりも“大切なものが何か”を分かっているのかもしれない。だから、迷わず行動できるのだ。この二人の関係に、私は終始、胸がヒリヒリしていた。自分もユウタでありコウであったなと、ワカリミの涙が溢れた。

時が過ぎれば、良くも悪くも、変化が訪れる。変わらないものはない。けれど、憂いてはいられない。幸せな時を想い、確かにあった友情を胸に、また新しい日々を送る。きっと佐野もユウタもコウも、そうやってこの先を生きていくのだろう。今週の早稲田松竹は、『SUPER HAPPY FOREVER』と『HAPPYEND』。物語のその先まで、どうか幸せであれ! と願いつつ、自分にも訪れる幸せなひと時を、ぜんぶ、ぜんぶ、大切にしていきたいなと思わせてくれる、そんな二本立てだ。

レイトショーには両作のパイロット版的な作品を含む短編集も上映。さらに、5/6(火)には両監督をお招きしてのトークショーも開催と、物語をより一層楽しめるプログラムとなっておりますので、どうぞお楽しみに!

HAPPYEND
Happyend

空音央監督作品/2024年/日本・アメリカ/113分/DCP/PG12/ビスタ

■監督・脚本 空音央
■撮影 ビル・キルスタイン
■美術 安宅紀史
■編集 アルバート・トーレン
■音楽 リア・オユヤン・ルスリ

■出演  栗原颯人/日高由起刀/林裕太/シナ・ペン/ARAZI/祷キララ/中島歩/矢作マサル/PUSHIM/渡辺真起子/佐野史郎

© 2024 Music Research Club LLC


★本作品は『UDCast』方式によるバリアフリー音声ガイド・バリアフリー日本語字幕対応作品となります。

世界は変わっていくんだよ

今からXX 年後、日本のとある都市。ユウタとコウは幼馴染で大親友。いつもの仲間たちと音楽や悪ふざけに興じる日々を過ごしている。こんな幸せな日常は終わらないと思っていた。高校卒業間近のある晩、いつものように仲間と共にこっそり学校に忍び込む。そこでユウタはどんでもないいたずらを思いつく。「流石にやばいって!!」と戸惑うコウ。「おもろくない??」とニヤニヤするユウタ。

その翌日、いたずらを発見した校長は大激怒。学校に四六時中生徒を監視する AI システムを導入する騒ぎにまで発展してしまう。この出来事をきっかけに、コウは、それまで蓄積していた、自身のアイデンティティと社会に対する違和感について深く考えるようになる。その一方で、今までと変わらず仲間と楽しいことだけをしていたいユウタ。2人の関係は次第にぎくしゃくしはじめ...。

世界中が求める新鋭・空音央 衝撃の長編劇映画デビュー作

決して遠くないXX年後の日本。多種多様な人々が当たり前に暮らすようになっている一方で、社会には無関心が蔓延し、むやみやたらに権力が振りかざされている。それはまさに今の世の中と地続きであり、あまりにもリアリティのある未来だ。そんな世界で当たり前だった“友達”という存在が揺らいでいくさまを、環境音やテクノなどが織り交った独特なサウンドと、圧倒的にエモーショナルな映像美で見事に表現。脈々と受け継がれる青春映画の系譜でありながらも、これまでに見たことのない切り口で“友情の危うさ”を描いた青春映画の新たなる金字塔が誕生した。

監督を務めたのは東京とニューヨークを拠点に活躍する空音央。ポール・トーマス・アンダーソンや黒沢清も卒業生であるサンダンス映画祭のラボ出身で、コンサートドキュメンタリー映画『Ryuichi Sakamoto | Opus』や短編映画「The Chicken」が世界中の映画祭で上映・絶賛された。そして本作が第81回ヴェネツィア国際映画祭 オリゾンティ・コンペティション部門に正式出品され、今世界中から最も熱い視線が注がれている。主人公のユウタとコウを演じたのは、オーディションで大抜擢された栗原颯人と日高由起刀。初演技ながら高校生の心の機微をリアルに表現した。また生徒役にはあらゆるルーツを持つ若き才能たちが集結。そして校長役の佐野史郎をはじめとする実力派俳優陣が脇を固め、物語に深みを与えている。

SUPER HAPPY FOREVER
Super Happy Forever

五十嵐耕平監督作品/2024年/日本・フランス/94分/DCP/ビスタ

■監督 五十嵐耕平
■脚本 五十嵐耕平/久保寺晃一
■撮影 高橋航
■編集 大川景子/五十嵐耕平/ダミアン・マニヴェル
■音楽 櫻木大悟

■出演 佐野弘樹/宮田佳典/山本奈衣瑠/ホアン・ヌ・クイン

■第81回ヴェネチア国際映画祭ヴェニス・デイズ部門正式出品/第51回ゲント国際映画祭コンペティション部門グランプリ/第21回レイキャビク国際映画祭New Vision部門グランプリ/第46回ナント三大陸映画祭インターナショナル・コンペティション部門準グランプリ 

© 2024 NOBO/MLD Films/Incline/High Endz


★本作品は『UDCast』方式によるバリアフリー音声ガイド・バリアフリー日本語字幕対応作品となります。

この偶然は、永遠

2023年8月19日、伊豆にある海辺のリゾートホテルを訪れた幼馴染の佐野と宮田。まもなく閉館をするこのホテルでは、アンをはじめとしたベトナム人の従業員たちが、ひと足早く退職日を迎えようとしている。佐野は、5年前にここで出会い恋に落ちた妻・凪を最近亡くしたばかりだった。妻との思い出に固執し自暴自棄になる姿を見かねて、宮田は友人として助言をするものの、あるセミナーに傾倒している宮田の言葉は佐野には届かない。2人は少ない言葉を交わしながら、閉店した思い出のレストランや遊覧船を巡り、かつて失くした赤い帽子を探し始める。

俊英・五十嵐耕平監督が紡ぐ、青春期の終わりを迎えた人々の“奇跡のような幸福なひととき”

第67回ロカルノ国際映画祭新鋭監督コンペティション部門正式出品作『息を殺して』や、第74回ヴェネチア国際映画祭オリゾンティ部門に正式出品されたダミアン・マニヴェルとの共同監督作『泳ぎすぎた夜』など、世界が注目する五十嵐耕平監督による待望の長編最新作『SUPER HAPPY FOREVER』。昨年、第71回サン・セバスチャン国際映画祭でプレミア上映された短編映画『水魚之交』を基に製作した本作にはダミアン・マニヴェルも共同プロデューサーとして参加し、ポストプロダクションをフランスで行うなど、日仏合作での製作が進められた。

【レイトショー】水魚之交 + 豆腐の家 + メルヒェン
【Late Show】Two of Us + House of Tofu + Marchen

五十嵐耕平監督作品:『水魚之交』(2023年/日本・フランス/19分/スタンダード) 『豆腐の家』(2013年/日本/38分/ビスタ) 『メルヒェン』(2012年/日本/30分/ビスタ) DCP

『水魚之交』
■監督・編集 五十嵐耕平
■脚本 五十嵐耕平/久保寺晃一
■出演 佐野弘樹/宮田佳典

『豆腐の家』
■監督 五十嵐 耕平
■脚本 五十嵐耕平/磯脇潤士
■出演 谷口蘭/石田法嗣/足立智充/嶺豪一/鈴木卓爾

『メルヒェン』
■監督 五十嵐 耕平
■脚本 大木真琴
■出演 一瀬小百合/佐藤憲太郎/のぼ

©2023 NOBO LLC
©ふみふみこ/徳間書店
©2013「恋につきもの」製作委員会
©2012 東京藝術大学大学院映像研究科

『水魚之交』

海の見えるホテルに旅行に来た幼馴染の佐野と宮田。宮田の携帯が鳴り続け、しびれを切らした佐野はその電話に出るのだが..。最新作『SUPER HAPPY FOREVER』のパイロットフィルムの位置付けで製作された短編。ストーリーは異なるながらも、佐野や宮田といったキャラクター、ホテルの舞台設定などが共通しており、本作は長編のイメージを発展させていくにあたり、重要な役割を果たしたといえる。第71回サン・セバスチャン国際映画祭のザバルテギ=タバカレラ部門に正式出品された。

『豆腐の家』

結婚と同時に新居に暮らし始めた陽一と絹子。二人は真っ白な壁と絹子の名前にちなんで豆腐の家と名付ける。陽一は就職も 決まり、これからあたたかな結婚生活が始まるはずだった。しかし食事はいつも豆腐しか出さないなど、自由奔放な絹子に振り回され、仕事のストレスも重なり、徐々に陽一は精神を病んでいく。そのうち絹子は「豆腐の家が腐って来ている」と言い始める。ふみふみこによる同名漫画を原作としたオムニバス映画『恋につきもの』の一編。

『メルヒェン』

マキとナオは別れたばかり。気持ちは既に離れているものの、ずっと同棲していた二人の距離感はすぐには変わらない。風邪をひいたナオの家で、マキはついつい犬の世話や家事を引き受けてしまう。ナオの部屋で二人と一匹のおかしな掛け合いがあり、夜が更けていく。東京藝術大学大学院の1年次実習作品として製作された短編。

【レイトショー】鶏/The Chicken + アメガラス/Sugar Glass Bottle
【Late Show】The Chicken + Sugar Glass Bottle

空音央監督作品:『鶏/The Chicken』(2020年/アメリカ/14分) 『アメガラス/Sugar Glass Bottle』(2022年/日本/20分) DCP/ビスタ

『鶏/The Chicken』
■監督・脚色 空音央
■プロデューサー アルバート・トーレン/増渕愛子/ジャクソン・シーガーズ/JP・ペレイラ=ウェバー/ジェーン・ジー/古賀健太
■撮影 ビル・キルスタイン
■原案 志賀直哉
■出演 曽我潤心/中根大樹/サンドラ・マーレン=シュナイダー
■ロカルノ国際映画祭2020/ニューヨーク映画祭2020/AFI Fest2020/サンディエゴ・アジアン・フィルム・フェスティバル2020/クレルモン=フェラン国際短編映画祭2021/香港国際映画祭2021

『アメガラス/Sugar Glass Bottle』
■監督・脚本 空音央
■プロデューサー 増渕愛子/アルバート・トーレン/森玲子
■撮影 丸池納
■出演 木村文/古賀裕太/渡辺真起子/朝香賢徹/中村シユン
■ハンプトン国際映画祭2022正式出品/サンディエゴ・アジアン・フィルム・フェスティバル2022/
インディ・メンフィス映画祭2022最優秀短編映画賞受賞/香港国際映画祭2023正式出品

© 2020 Zakkubalan
© 2022 Stink Films Japan

『鶏/The Chicken』

11月の季節外れの暑い日、日本からニューヨークに移住したヒロは、生きた鶏をさばいて、夕食を作ろうとしていた。しかし、日本から遊びに来た従兄弟のケイと道で倒れていた人を助けた善意が報われず、鶏を殺すことができなくなる。

日本近代文学を代表する作家・志賀直哉の短編小説『十一月三日の午後』を現代的に翻案した14分の作品。軍事演習を目撃した際の内面の動揺を描いた原作のエッセンスを引き継ぎながら、本作はニューヨークを舞台に、構造的暴力が日常生活にいかに浸透しているかを映し出す。警察の存在、医療へのアクセス、ジェントリフィケーションといった問題を、日本からの移民という視点で捉えなおし、百年前の物語に現代的な問いを重ねている。本作は、ロカルノ国際映画祭やニューヨーク映画祭など、世界各地の名だたる映画祭で正式出品され、高い評価を受けた。 

『アメガラス/Sugar Glass Bottle』

近い将来の日本。演劇部から盗んだ飴ガラス細工のビール瓶で互いを殴り合い、学校でみんなを脅かしてやろうと企むイタズラ高校生のユウタとコウ。そこにコウの知り合いでもあるデコちゃんが現れ、おでこで本物のガラス瓶を割って見せる。二人はデコちゃんにドッキリの演出を手伝ってもらい、意気投合する。その晩、ユウタとコウは、コウの母親の福子が切り盛りしている韓国家庭料理屋で晩飯を食べに行くと、そこには不動産屋がいた…。

本作は空音央監督の初長編映画「HAPPYEND」のパイロット版的作品として製作された20分の短編。監督自身の高校時代の経験からインスパイアされ、近未来の東京を舞台に、商業化による地域社会の崩壊、監視社会、ジェントリフィケーションの問題を若者の視点から描く。温かい友情と冷たい現実が交錯する物語は、インディ・メンフィス映画祭(最優秀短編映画賞受賞)、香港国際映画祭など世界各地の映画祭で上映された。