【2023/12/30(土)~2024/1/5(金)】 モーニングショー『大人の見る繪本 生れてはみたけれど』// 『夜ごとの夢』+ 『恋の花咲く 伊豆の踊子』/『簪』+『むかしの歌』

ぽっけ

仕事がないゆえに生活がままならない。その貧しさがそのまま身近な人への不義理に働いたり、家庭での悲劇を招いたりした。日本が第二次世界大戦に向かう直前に、押し寄せる世界恐慌の波の中で撮られた映画たちにはそんな姿がたくさん映されています。

今回早稲田松竹で上映する作品では、小津安二郎監督の『生れてはみたけれど』が最も古く1932年の公開作で、清水宏監督の『簪(かんざし)』が太平洋戦争開戦直前の1941年公開です。と言っても世界恐慌から満州事変、日中戦争が起こっている最中ですから戦争はすぐ隣にありました。そんな時期に生まれた映画たちには経済がうまくいかない状況と遁世的な人々の雰囲気に向かい合おうとする作り手たちのまなざしを感じることができます。いや、むしろ開戦直前に撮られた『簪(かんざし)』の場合はそうしたまなざしというよりも、時勢にもかかわらずかねてよりの題材である人里離れた山奥の温泉宿にその舞台を設定し、なるべく「戦争」を映すまいとする清水宏のやさしさにこそ、その意志を見出すことができましょう。

五所平之助監督の『戀の花咲く 伊豆の踊子』の田中絹代演じる踊子の無垢な魅力と川端康成の原作にはないオリジナル脚色で追加された金鉱投資のうさん臭さとの対比。石田民三監督の『むかしの歌』の明治維新後の動乱の中で、西南戦争を画策する薩摩軍側に投資して破産、没落する商屋と売られていくいとはん(お嬢さん)の姿。戦前の映画には、お金のやり取りや経済にまつわる話が多くあります。そこに女性たちがどんな立場で身を置かれていたことか。

小津安二郎監督の『生れてはみたけれど』の、いつも自分たちを叱るくせに上司には頭のあがらない父親の姿を見て、ハンガーストライキを起こすユーモラスでありながら泣かせる子供たちの姿。また成瀬巳喜男監督が描く『夜ごとの夢』にはたった一人の子供の健全な成長だけを思い描きながら水商売で生計を立てようとする母や、仕事が見つからずに希望を失っていく父の姿を見つけることができるでしょう。

ここにある生活と、どこかで起きている戦争(やその予兆)との距離は、現在の私たちがこうして過去の映画を見るときには明確に見つけることができます。それはまるですぐに情報が伝達される現代の戦争のように。いま世界中で起きていること。そしてそれが世界の経済と関係を持つ社会的な出来事であること。こうした現実を検閲の目をかいくぐりながら作り手たちは観客めがけて映してきたのだということに、今ほど震えてしまうことはありません。

節目である年末年始の話題にしてはいささか無粋かもしれませんが、そんなに甘いことではないと知りつつ、せめて不条理なことは映画のなかだけにしてもらいたいと願いを込めて。

【モーニングショー】大人の見る繪本 生れてはみたけれど 4Kデジタル修復版
【Morning Show】I Was Born, But…

小津安二郎監督作品/1932年/日本/91分/DCP/PG12/スタンダード

■監督 小津安二郎
■原作 ジェームス槇
■脚本 伏見晁
■撮影 茂原英雄
■美術 河野鷹思
 
■出演 斎藤達雄/吉川満子/菅原秀雄/突貫小僧/坂本武/早見照代/加藤清一/小藤田正一/西村青兒/飯島善太郎/藤松正太郎

■1932年度キネマ旬報ベストテン1位/第36回 東京国際映画祭 ワールド・プレミア

©1932/2023松竹株式会社

【2023/12/30(土)~2024/1/5(金)】

良一、啓二の父は、重役の岩崎の近くに引っ越して出世のチャンスをうかがっている。だが、息子たちの前では厳格そのもの。引っ越しで転校した良一と啓二は、早速地元の悪ガキグループと喧嘩した揚句、鬱陶しくなって小学校をずる休みするも担任の家庭訪問で知られ、二人は父から大目玉。そのうち悪ガキ仲間と友達になり一緒に遊ぶようになる。その中には岩崎の子供もいる。ある日、みんなで「うちの父ちゃんが一番えらい」と自慢する話が出る。兄弟も自分の父親が一番えらいと信じて疑わなかったが…。

小津安二郎のサイレント期の代表作。移動撮影を多用するなど戦後小津作品の特徴を覆す。子供たちが互いに威張りあう前半のユーモラスな描写から、父親をなじり、大人の世界を皮肉をこめて告発する子供のシリアスなタッチへと変わっていく。1932年度キネマ旬報ベストテン第1位。

夜ごとの夢
Every-Night Dreams

成瀬巳喜男監督作品/1933年/日本/64分/35mm/スタンダード

■監督・原作 成瀬巳喜男
■脚色 池田忠雄
■助監督 渋谷実/厳谷平二/松井稔
■撮影 猪飼助太郎

■出演 栗島すみ子/斎藤達雄/新井淳/吉川満子 /飯田蝶子/坂本武

©1933松竹株式会社

【2023/12/30(土)~2024/1/2(火)上映】

夫に家を出て行かれてしまったおみつは、幼い息子の文坊と二人で貧しい生活を送っている。おみつは港町の酒場で身を売って生計を立てていた。そこへ夫の水原がひょっこり帰ってくる。おみつは水原のことを許せなかったが、文坊のために同居することに。子供もすっかり父親に打ち解け、幸せな家庭生活が訪れたかに見えたが、水原は仕事が見つからずにいた。そんなある日、文坊が交通事故で大けがを負ってしまう。治療費のために体を売ろうとするおみつを引き止め、水原は自分で金を集めると言い出すのだが…。

港の酒場で働きながら子供を育てているおみつと、生活力のない駄目な夫、水原のたどる悲劇をつづった一篇。当時の松竹キネマ蒲田撮影所のトップスター栗島すみ子を主演に迎えており、「新人としてやや認められて来た、というわけですかね」と成瀬は言葉を残している。さすがの風格で熱演を見せた栗島は戦後、映画界から遠ざかるが、成瀬に請われて『流れる』で18年ぶりに銀幕にカムバックした。トラックアップを多用した心理描写や斜めの構図のサスペンス描写の冴えなど、さまざまに工夫を凝らした成瀬の演出が高く評価された。(「成瀬巳喜男を観る」より一部抜粋)

恋の花咲く 伊豆の踊子
The Dancing Girl of Izu

五所平之助監督作品/1933年/日本/124分〔18fps〕/35mm/スタンダード

■監督 五所平之助
■原作 川端康成
■増補・脚色 伏見晁
■撮影 小原譲治

■出演 田中絹代/大日方伝/小林十九二/若水絹子/高松栄子/兵藤静枝/新井淳/竹内良一/河村黎吉/水島亮太郎/武田春郎/坂本武/飯田蝶子/花岡菊子

©1933松竹株式会社

【2023/12/30(土)~2024/1/2(火)上映】

休暇を利用して伊豆を旅していた学生・水原は、天城街道で旅芸人の一行と道連れとなった。その中の、踊子・薫の初々しい魅力に淡い恋心を抱いた水原は旅を一緒にするようになった。一方、宴席で芸を披露する薫を見て、村の温泉宿を経営する善兵衛はやがて息子の嫁にしようと思っていて…。

幾度となく映画化されている川端康成の小説『伊豆の踊子』を、初めて映画化したサイレント作品。田中絹代がヒロインの踊子に扮し、二枚目スター大日方伝と共演。その純情可憐な瑞々しい魅力を発揮している。伏見晁が原作にないエピソードを盛り込み大胆に脚色し、五所平之助監督の抒情的な演出ぶりが作品の格調を一層高めている。


Ornamental Hairpin

清水宏監督作品/1941年/日本/70分/35mm/スタンダード/MONO

■監督 清水宏
■原作 井伏鱒二
■脚色 長瀬喜伴
■撮影 猪飼助太郎
■編集 浜村義康
■音楽 浅井挙曄
 
■出演 田中絹代/笠智衆/川崎弘子/斎藤達雄/日守新一/三村秀子

©1941松竹株式会社

【2024/1/3(火)~1/5(金)上映】

恵美とお菊は身延山へ初詣を済ませて、その夜下部温泉へ泊った。この宿には、学者の片田江や足の不自由な帰還兵の納村たちが初夏の頃から逗留していた。ある朝、納村が風呂の中に落ちていた簪(かんざし)が足に刺さり負傷してしまう。翌日、その簪の落とし主から「簪を探してほしい」と手紙が届き、宿の主人は納村に詫びに来るよう返事を出した。その簪の落とし主は恵美であった。納村はわざわざ東京から詫びに来た恵美に恐縮していたが、彼女は今までの生活から何とか抜け出そうと考えていた…。

原作は井伏鱒二の小説集「おこまさん」の中の「四つの湯槽」。この原作を清水はまさにおなじみの清水的世界に移し変えた。清水は「按摩と女」でもひなびた温泉場をモチーフにしており、井伏とともに似た題材を、心のふるさとのように作っていたことは興味深い。温泉宿を舞台に、さまざまな人が出没する中で、主人公の恵美はお妾稼業という設定だ。当時の映画法による厳しい脚本検閲を通過したのは、恵美の生活の反省と更生、それに傷痍軍人のリハビリに努力する姿によるものだろうか。「按摩と女」でもそうであったように、彼女たちが都会でどのようなトラブルにあったのかは具体的には描かれていないが、そこが清水の万事気楽に、人生を風景のように楽しむ主義であることが反映されている。(「映画読本 清水宏」、「フィルムセンター23 監督研究ー清水宏と石田民三」より一部抜粋)

むかしの歌
Old Sweet Song

石田民三監督作品/1939年/日本/77分/35mm/スタンダード/MONO

■監督 石田民三
■原作・脚色 森本薫
■撮影  山崎一雄
■助監督 市川崑
■編集 江原義夫

■出演 花井蘭子/藤尾純/高堂黒天/進藤英太郎/沢井三郎/森野鍛治哉/冬木京三/深見泰三/菊池双三郎/大崎時一郎/石川冷/山田好良/伊藤智子

画像提供:国立映画アーカイブ所蔵 

【2024/1/3(火)~1/5(金)上映】

頃は明治10年。大阪は船場の船問屋「兵庫屋」のいとはんとして生まれたお澪(みお)は、何不自由なく美しく育った。だが年と共に彼女の性格は尖鋭的な陰を深めていった。義母のお辻ともしっくりいかず、父の治兵は店のことばかりで彼女のことなど目にはなく、その孤独を慰めてくれるのは三味線だけであった。油問屋「和泉屋」の息子珊次への好意を素直に口には出せずにいたある日、2人が散歩に出かけた折、災難にみまわれている1人の少女に出会う。彼女は父や金のために身を売らなければならない境遇であった。澪はこの少女を自分の元に引き取り、少女も澪を姉のように慕っていく。

前作の『花ちりぬ』(1938年)に続いてコンビを組んだシナリオの森本薫と監督の石田民三。素直になれない勝気な澪のいらだたしさを、当時20代の若さでありながら驚くほどデリケートな感覚を持っていた森本のシナリオと、関西の女性描写を得意とした石田の演出、そして『花ちりぬ』以来、上昇気流に乗って、みずみずしさを増した花井蘭子の好演が三位一体となって、情緒ゆたかな佳作に仕上げられた。
(「フィルムセンター23 監督研究ー清水宏と石田民三」より一部抜粋)