ルー
今回は映画の恐怖表現を刷新したジョージ・A・ロメロの代表作『ゾンビ』『死霊のえじき』の二本立てと、ロメロと共にホラー映画の歴史を塗り替えたトビー・フーパー『悪魔のいけにえ』を特別レイトショー上映します。
彼らの作品が並のホラー映画の追随を許さない作品なのは事実とは言え、たまに見かけるように「単なる」ホラー映画ではない、といったような誉め言葉をつかうことは失礼にあたると思います。元々ホラーは「恐怖」という根源的な感情を通して、日常的なドラマでは描き切れない人間のありかたを問うことが出来るジャンルであり、今回上映する名作たちはそのことを証明しているからです。
ロメロとフーパーは時代を超えた「キング・オブ・ホラー」であり、だからこそ私たちの感情を揺さぶりつづける、真に現代的なドラマの語り部なのです。
死霊のえじき デジタル・リマスター完全版
Day of the Dead
■監督・脚本 ジョージ・A・ロメロ
■撮影 マイケル・ゴーニック
■特殊効果 スティーブ・カーショフ/マーク・マン
■特殊メイク トム・サヴィーニ
■プロダクション・デザイン クレタス・アンダーソン
■音楽 ジョン・ハリソン
■出演 ロリー・カーディル/リチャード・リバティー/ジョセフ・ピラトー/テリー・アレクサンダー/ジャーラス・コンロイ/ゲイリー・ハワード・クラー/ラルフ・マレロ/ハワード・シャーマン
©MCMLXXXV-MMII Taurus Entertainment Company All Rights Reserved
【2020年6月20日から2020年7月3日まで上映】
今、死者は甦った・・・ 人は獲物となり餌(えじき)となる。
死者と生者の数が逆転し、地上にゾンビが蔓延する世界と成り果てたアメリカ・フロリダ州郊外の地下施設。そこでは、女科学者のサラ、ローガン博士らゾンビを研究する科学者たち、施設の警備と科学者の支援を行う軍人グループ、両者に組せず契約だけを遂行するヘリコプターパイロットのジョンと無線技師のビリーなど、生き残った少数の人間たちが閉鎖した施設内に立て篭もり、ゾンビの研究と生存者の捜索を行っていた。
上官が死亡し、軍人グループ指揮官の任務を引き継いだローズ大尉は人員と物資を無駄に費やすだけの状況への苛立ちから、科学者たちに対して高圧的に「目に見える成果」を要求する。しかし、ローガン博士の試算による40万対1という圧倒的多数のゾンビに支配された状況では、有効な打開策があるはずもなかった。先の見えない行き詰まる日々の中、ローガン博士が1つの成果を見せる。それは、あるゾンビをしつけ、飼い慣らすことであった…。
“キング”ロメロの衝撃の超恐怖ホラー・スペクタクル!
68年の『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』(「Night of the Living Dead」)、78年の『ゾンビ』(「Dawn of the Dead」)に続く「リビング・デッド」シリーズ三作目(原題は「Day of the Dead」。前二作ともその後の作品とも直接的に内容は関係ありません)。地上にゾンビが蔓延し切った世界で、地下に逃れた人々による、生き詰まるような殺伐としたドラマが語られます。その時々の社会的状況を反映させて風刺するのはロメロ映画の常ですが、本作は図らずも、コロナと今後しばらく付き合って生きなければならない、2020年現在の世界の寓話にも見えます(「withコロナ」ならぬ「withリビング・デッド」!)。
権力が暴走する世界の中で正気を保てるか。憎々しい軍人よりはるかに人間的知性を感じさせるゾンビ「バブ」を通して、観客は問いかけられます。バブの悲壮な雄姿には涙腺を刺激させられずにはいられません。グロテスクで華やかな80年代特殊技術の頂点であるとともに、ロメロ映画史上最高に「泣き」が入った一本。バブは「リビング・デッド」ファンの心の友です。振り返れば、バブがいる!(by ルー)
ゾンビ 日本初公開復元版
Dawn of the Dead
■監督・脚本 ジョージ・A・ロメロ
■監修 ダリオ・アルジェント
■撮影 マイケル・ゴーニック
■特殊メイク トム・サヴィーニ
■音楽 ゴブリン/ダリオ・アルジェント
■出演 デヴィッド・エムゲ/ケン・フォリー/スコット・H・ライニガー/ ゲイラン・ロス/トム・サヴィーニ
©1978 THE MKR GROUP INC. All Rights Reserved.
【2020年6月20日から2020年7月3日まで上映】
地獄の底から這い出して、ゾンビが食う、人間を食う!
惑星から降り注いだ光線によって地球上の死者が“ゾンビ”として復活。その群れは生者に襲いかかり、噛みつかれた者もまたゾンビへと変貌する。生ける屍たちは瞬く間に世界を覆いつくした。
テレビ局員のフランと彼女の恋人でヘリコプター・パイロットのスティーヴン、そしてSWAT隊員のロジャーとピーターはヘリで脱出し、郊外の巨大ショッピングモールにたどり着く。彼らはモール内のゾンビを排除し、何不自由の無い楽園を手に入れた。だが彼らの前に物資を狙う暴走族の一団が現れ、扉をこじ開け乱入してきた。ゾンビ、暴走族、フランたちの三つ巴の殺戮戦がはじまり、血しぶきが壁を染め、肉塊が床を埋めつくす。夜明けとともに生き残るのは果たして…。
伝説の発火点。ホラー映画の金字塔には“幻のバージョン”があった!
68年『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』で野に放たれたゾンビというキャラクターイメージを決定づけた、歴史的な一本。死者が地獄からあふれ出す終末的な世界の中での「人間らしさ」とは何か。ロメロ特有の哲学性、大量消費社会への皮肉たっぷりなブラックユーモア、大人の風格漂う人間ドラマなど、壮絶なスプラッターアクションであるにとどまらない重層的な要素が見事に融合しています。無個性な群衆として扱われがちなゾンビひとりひとりに見事な「顔」があることも重要だと思います。どことなくもののあわはれを感じさせるその佇まいを見ていると、生前の人生に思わず想いをはせられてしまいます。
今なおホラー映画史上の、いや世界映画史上のオンリーワン。ホラー映画が苦手な方も是非これだけは!という感じの不朽の名作です。また今回上映するのは79年に日本で初公開された際に作られた、世界で日本だけの特別バージョン完全復元版。このバージョンは今後ソフト化なしの希少な上映なので、ビギナーも重度の『ゾンビ』マニアも、『死霊のえじき』と二本立てで観られるこの機会に早稲田松竹に終結!(by ルー)
【特別レイトショー】悪魔のいけにえ 公開40周年記念版
【Late Show】The Texas Chain Saw Massacre
■監督・製作 トビー・フーパー
■脚本・原案 キム・ヘンケル/トビー・フーパー
■撮影 ダニエル・パール
■美術 ロバート・バーンズ
■音楽 トビー・フーパー/ウェイン・ベル
■出演 マリリン・バーンズ/アレン・ダンジガー/ポール・A・パーテイン/ガンナー・ハンセン/ウィリアム・ヴェイル/テリー・マクミン/エドウィン・ニール/ジム・シードウ
© MCMLXXIV BY VORTEX, INC.
【2020年6月20日から2020年7月3日まで上映】
真夏のテキサス、血生臭い惨劇が幕を開ける――
1973年8月18日。真夏のテキサスを5人の若者を乗せて走るワゴン車。周辺では墓荒らしが多発していて、遺体が盗まれるという怪事件が続いていた。フランクリンとサリーは、自分達の祖父の墓が無事かを確認する為、サリーの恋人ジェリー、友人のカークとその恋人パムと一緒にドライブ旅行をしていた。途中、乗せたヒッチハイカーの男に襲われるハプニングが発生。車を停めて男を降ろすが、これはこの後彼らに降りかかる悲劇の始まりに過ぎなかった…。
日本公開から40年…ホラー映画史に刻まれた最高峰作品が デジタル修復で鮮やかに甦る!
一般的に残虐で荒々しいホラー映画の代表格に見られがちな『悪魔のいけにえ』ですが、実際には緻密なカメラワークや音響設計に裏付けられた完成された作品であり、決して無知な若者がカメラを振り回して撮れた偶然の産物などではありません(扉が閉まる時の「ドゥーン!」を超える絶望的な音を、他の映画で聴いたことがありません…)。
さらに言えば、本作の「殺人鬼」レザーフェイスは人知を超えた「鬼」などではなく、実は私たちと同じ人間として繊細に描かれているところも、本作の特別な魅力だと思います。窓辺に佇む時の仮面の下にのぞける表情を見ていると、彼もまた悩める若者(!)であることが見えてきます。血祭りに上げられる若者たちの「青春」と、育った環境が異常過ぎる故にゆがんでしまったレザーフェイスの「青春」がぶつかり合ってしまった悲劇の行く末は?最高の恐怖とは条理を超えた感動でもあることを実証した神話的な大傑作。(by ルー)