【2022/12/31(土)~1/6(金)】『風の中の子供』『有りがたうさん』『按摩と女』『泣き濡れた春の女よ』

パズー

さようなら2022年、こんにちは2023年。
今年の年末年始は、清水宏監督特集をお届けします。

1924年に松竹で21歳の若さで監督に昇進し、以来35年間で164本もの映画作品を撮った清水宏。“小津や溝口が「天才」と呼んだ”というフレーズが枕詞のように使われる彼ですが、私が清水の作品に持つイメージは、巨匠二人の映画とは全く違います。

ひとことで言うなら、自由! 映画=撮影所の時代に、ロケ中心、しかも都会でなく田舎の自然を好んで撮ったり、俳優たちには「熱演」というのとはほど遠い、(ある意味リアルな)気取らない演技をさせたり、その割に演出には凝っていてすごく洗練されたカットが急に現れたり…日本の監督でこんな映画を撮る人がいたのか、しかも戦前に! と驚きます。80~90年前の作品なのに、まったく古さを感じないのです。

“私は、映画には「空気を吸っている」人間が出てこなければならぬと思っているのだ” 
——「映畫読本 清水宏」より抜粋

清水宏の映画を思い出すとき、頭の中でなんとなく山や丘から気持ちよい風がふ~っと降りてきた情景が思い浮かび、深呼吸したような気分になります。ロケが山が多いからというだけではなく、風通しの良い映画というのでしょうか。朗らかで詩情あふれる映画。ジャン・ルノワールやアッバス・キアロスタミのいくつかの作品を観た時と似ているなぁと思います。

プロの俳優よりも、ただ自然に「空気を吸っている」子供を撮ることが好きだった清水。戦後は松竹を離れ、戦争孤児を引き取って山で共同生活を送り、驚くことにその子供たちが主役の作品を独立プロで作ったりもしました。やることすべて先取りというか、他にそんなことしている人見たことありません。

型にはまらない異才・清水宏のみずみずしい作品たち。多くのフィルモグラフィの中から、今回は4本上映いたします。観たならきっと、新年から気分良く過ごせるはずです。

有りがたうさん
Mr. Thank You

清水宏監督作品/1936年/日本/78分/35mm/スタンダード/MONO

■監督・脚色 清水宏
■原作 川端康成
■撮影 青木勇
■音楽 堀内敬三

■出演 上原謙/桑野通子/築地まゆみ/二葉かほる/忍節子/堺一三/石山竜嗣

©1936 松竹株式会社

【2022/12/31(土)~2023/1/3(火)上映】

南伊豆のとある港町。一台の乗り合いバスが待合室の前に止まっている。美しい娘を連れた老母が乗り込み、淋しそうに運転手に言う。「有りがとうさんに乗せて行って貰うなら、この娘も幸せです…」。貧しい老母は遠くの町に娘を売りに行くのだ。そして、いわくありげな黒襟の娼婦、娘を鄙猥な目つきで見る保険の勧誘員らを乗せてバスが走り出す。時折、娘の視線が運転手の背中に止まる。娘は以前から運転手に好意を寄せていた。

バスが馬車に追いつくと、道端に寄った馬車の横を「有難う」と運転手が窓から顔を出しながらすり抜ける。また、荷車が横に寄る。「有難う」。だから人々はこの丁寧な運転手を“有りがたうさん”と呼ぶ。バスは様々な人生を乗せ、様々な人生とすれ違って走っていく・・・。

川端康成の原作を清水宏監督が独特な演出力で映画化。“有りがたうさん”と呼ばれ愛されるバス運転手と乗客たちとの触れ合いと、その道中で繰り広げられる人間模様を、伊豆の自然美を背景に描く。当時の日本映画界では画期的であった全編ロケーションでの撮影を敢行、日本の原風景をそのままに映し出した。名優・上原謙(加山雄三の父)の主演デビュー作。

風の中の子供
Children in the Wind

清水宏監督作品/1937年/日本/86分/35mm/スタンダード/MONO

■監督 清水宏
■原作 坪田譲治 
■脚色 斎藤良輔/清水宏
■撮影 斎藤正夫
■音楽 伊藤宣二

■出演 河村黎吉/吉川満子/坂本武/岡村文子/笠智衆/葉山正雄/爆弾小僧/突貫小僧/アメリカ小僧 

©1937 松竹株式会社

【2022/12/31(土)~2023/1/3(火)上映】

善太と三平の兄弟は、自然の中で楽しい夏休みを過ごしていたが、父親が私文書偽造の嫌疑で警察に連れて行かれ、家族は苦境に陥る。家計を支える為、母親は働きに出る事になり、まだ幼く手のかかる三平は遠くの叔父の家に預けるられる。家族と離れ田舎での冒険に満ちた一週間を送る三平。手を焼いた叔母は母親の許へ帰すことにした。家財まで差し押さえられるという悲嘆のどん底にも関わらず、兄弟が明るく仲良く母親を励まし合う中で、父親の嫌疑がはれ、一家に明るい日々が甦る。

坪田譲治の児童文学を原作に、童心を豊かに描いた名作。葉山正雄と爆弾小僧が善太と三平兄弟を好演、ロケーション撮影による昭和初期の農村の田園牧歌的な風景がよくのこされている。1938年ヴェネチア映画祭に出品。キネマ旬報第4位。

泣き濡れた春の女よ
A Woman Crying in Spring

清水宏監督作品/1933年/日本/96分/35mm/スタンダード/MONO

■監督 清水宏
■原作 本間俊
■脚本 陶山密
■撮影 佐々木太郎
■編集 水谷至宏/星野斎/秋野栄久

■出演 岡田嘉子/千早晶子/村瀬幸子/市村美津子/大日方伝/小倉繁/石山龍児/大山健二

©1933 松竹株式会社

【2023/1/4(水)~1/6(金)上映】

渡り者の抗夫ぐず安、健次、忠公らと、流れ女のお浜、お藤、お秋達を乗せた連絡船は海峡を渡った。彼らは北海道の炭鉱に向かうところだった。来る日も来る日も暗い炭鉱で作業する抗夫達は白粉の匂いが恋しくなり、三人はお浜のいる店に繰り出した。健次は、お浜、お藤の二人に思いを寄せられる。お浜に思いを寄せるぐず安はそれが面白くなかった。そんなある日、坑内で落盤事故が起きてしまい…。

清水宏監督のトーキー映画第一作。北海道の炭鉱の町を舞台に、そこに生きる男と女の愛の葛藤を描く傑作メロドラマ。

"初のトーキーらしく、歌(炭坑の歌、流れものの女の歌)が何度も変奏されて使われている。また、清水には珍しく、舟・酒場といった室内場面が多く、影を強調した照明も珍しく使用している。"(映画読本「清水宏」より一部抜粋)

按摩と女
The Masseurs and a Woman

清水宏監督作品/1938年/日本/66分/35mm/スタンダード/MONO

■監督・脚本 清水宏
■撮影 斉藤正夫
■音楽 伊藤宣二

■出演 高峰三枝子/徳大寺伸/日守新一/爆弾小僧/佐分利信

©1938 松竹株式会社

【2023/1/4(水)~1/6(金)上映】

名物按摩の徳市・福市のふたりが新緑を連れて山の温泉場にやって来た。ふたりは盲人でありながらも驚くべきカンの持ち主。先を行く子供の人数や、男か女か、果ては職業までも言い当ててしまうというのだ。

ある日、徳市は温泉場で東京から来た女に呼ばれる。どこか陰があるこの女から、徳市は何かを怖れている気持ちを感じる。そんな彼女に徳市は次第に惹かれていった。しかし、恋をしたことから徳市はその鋭いカンを鈍らせてしまう。一方、女は別の宿に泊まっている少年と出会い、そしてその少年のおじさんという男と交流をもつようになる。そんな様子が徳市はおもしろくなく…。その頃、周辺の旅館で次々と盗難事件が起こる。徳市は女が犯人だと思い込み、かくまおうとするが…。

美しい山の温泉場を訪れた徳市と福市の名物按摩コンビ。そこで徳市が出会ったいわくあり気な美女との触れ合い、人々の交流をユーモアたっぷりに描いた、清水宏監督自らのシナリオによるコメディドラマ。永遠のマドンナ・高峰三枝子と、当時の大人気俳優・徳大寺伸の共演。