【2022/8/20(土)~8/26(金)】『裁かるゝジャンヌ』『奇跡』『怒りの日』『ゲアトルーズ』

ミ・ナミ

今週の早稲田松竹は、名匠カール・テオドア・ドライヤーの代表的4作品『裁かるゝジャンヌ』『奇跡』『怒りの日』『ゲアトルーズ』を上映いたします。

「私に興味があるのは、―テクニックをうんぬんする以前に―私の映画の登場人物たちの感情をうつしとるということです。ありうるかぎりで最も真摯な感情を、ありうるかぎりで最も真摯なやり方でうつしとるということです。」(*)

ドライヤー監督があるインタビューで語ったこの言葉は、彼の作品のエッセンスを言い表していると言えるのではないでしょうか。彼の映画は、いずれも宗教や異端審問、魔女狩り、魂の渇望といった重厚なテーマを取り扱っています。しかし、登場人物たちはそうした苦痛が表情に彫り刻まれていてもなおどこか敬虔な面持ちにも見えて、観ている我々を厳粛な気持ちにさせるのです。取り扱われているテーマは一見難解なようにも思えますが、そこで描き出されているのは人間の醜悪さや美しさ。ドライヤーの冴えわたる手腕によって、登場人物たちの思考や感情は心を揺さぶり畏敬の念を抱かせるのです。

“奇跡”とも呼ばれた、カール・テオドア・ドライヤー監督の珠玉の作品群。ぜひその胸に焼きつけてください。

(*)「作家主義 映画の父たちに聞く」フィルムアート社

裁かるゝジャンヌ
The Passion of Joan of Arc

カール・テオドア・ドライヤー監督作品/1928年/フランス/97分/DCP/スタンダード

■監督・脚本・編集 カール・テオドア・ドライヤー
■歴史考証 ピエール・シャンピオン
■撮影 ルドルフ・マテ

■出演 ルネ・ファルコネッティ/アントナン・アルトー

©1928 Gaumont

【2022年8月20日から8月26日まで上映】

ジャンヌ・ダルクは百年戦争で祖国の地を解放に導くが、敵国で異端審問を受け司教からひどい尋問を受ける。心身ともに衰弱し一度は屈しそうになるジャンヌだったが、神への信仰を貫き自ら火刑に処される道を選ぶ。

ジャン=リュック・ゴダール、フランソワ・トリュフォーら多くの巨匠に影響を与えたデンマークの映画作家カール・テオドア・ドライヤーが、“人間”としてのジャンヌ・ダルクを実際の裁判記録を基に描いた無声映画の金字塔的作品。本上映は2015年にゴーモン社によってデジタル修復された素材によるもので、伴奏音楽はオルガン奏者カロル・モサコフスキによって作曲・演奏、リヨン国立管弦楽団のコンサートホールのオルガンを用いて録音された。

奇跡
Ordet

カール・テオドア・ドライヤー監督作品/1954年/デンマーク/126分/DCP/スタンダード

■監督・脚本 カール・テオドア・ドライヤー
■原作 カイ・ムンク
■撮影 ヘニング・ベントセン
■舞台美術 エーリック・オース

■出演 ヘンリク・マルベア/ビアギッテ・フェザースピル

■1955年ヴェネチア国際映画祭 金獅子賞受賞/1956年ゴールデングローブ賞 最優秀外国語映画賞受賞

©Danish Film Institute

【2022年8月20日から8月26日まで上映】

ユトランド半島に農場を営むボーオン一家が暮らしていた。長男の妻で妊婦であるインガーはお産が上手くいかず帰らぬ人に。家族が悲嘆に暮れる中、自らをキリストだと信じ精神的に不安定な次男ヨハンネスが失踪、しかし突如正気を取り戻しインガーの葬儀に現れる。

巨匠カール・テオドア・ドライヤー監督の代表作にして、最も劇的な感動を呼ぶ名編。20世紀前半のデンマーク・ユトランド半島にある村を舞台に、室内の厳粛な空間と屋外の風吹く野をめぐる圧倒的な風景の中、家族の葛藤と大いなる愛が格調高い演出で描かれる。カイ・ムンクの戯曲「御言葉」を原作に、演劇的目線で家族の葛藤と信仰の真髄を問う傑作。

怒りの日
Day of Wrath

カール・テオドア・ドライヤー監督作品/1943年/デンマーク/97分/DCP/スタンダード

■監督・脚本 カール・テオドア・ドライヤー
■原作 ハンス・ヴィアス=イェンセン
■撮影 カール・アンダソン
■時代考証 カイ・ウルダル

■出演 リスベト・モーヴィン/トーキル・ローセ

■1974年ヴェネチア国際映画祭 審査員特別表彰

©Danish Film Institute

【2022年8月20日から8月26日まで上映】

中世ノルウェーの村で牧師アプサロンと若き後妻アンネの夫婦は平穏に暮らしていた。しかし、前妻との一人息子マーチンが帰郷するとアンネと親密な関係に。そんな折アプサロンが急死し、アンネが魔女として死に至らしめたと告発を受けてしまう…。

カール・テオドア・ドライヤー監督が、『吸血鬼』から12年を経てナチス・ドイツ支配下の故国で完成させた衝撃作。原作は16世紀に実際にあったと言われる事件に基づいて書かれた戯曲。魔女狩りが蔓延する暗黒時代の中世を背景に、緻密な空間設計と徹底したリアリズムで、禁じられた愛の官能と狂気的な悪しき心の戦慄を写し出す。

ゲアトルーズ
Gertrud

カール・テオドア・ドライヤー監督作品/1964年/デンマーク/118分/DCP/ヨーロピアンビスタ

■監督・脚本 カール・テオドア・ドライヤー
■原作 ヤルマール・セーデルベルイ
■舞台美術 カイ・ラーシュ
■衣装 ベーリット・ニュキェア

■出演 ニーナ・ペンス・ローゼ/ベント・ローテ

■1965年ヴェネチア国際映画祭 国際映画批評家連盟賞受賞

©Danish Film Institute

【2022年8月20日から8月26日まで上映】

弁護士の妻であるゲアトルーズは夫との結婚生活に不満を抱き、若き作曲家エアランとも恋愛関係にある。ある日、彼女の元恋人であり著名な詩人ガブリエルが帰国し祝賀会が催され、ゲアトルーズはエアランの伴奏で歌唱するが卒倒してしまう。

名匠カール・テオドア・ドライヤーの遺作にして集大成となった最高傑作。室内劇のような空間で、陰影深く、人物たちを彫刻のように造形し、視線を合わせない会話で夢の中のようなドラマを展開させてゆく。愛を求めて苦悩する女性の魂の渇望を描いた本作は、異様なまでの美しさ、最高密度の静寂に満ちた極限の映画として映画史に燦然と輝き続けている。