【2022/5/7(土)~5/13(金)】『竜とそばかすの姫』『アイの歌声を聴かせて』『サイダーのように言葉が湧き上がる』

ぽっけ

今週の早稲田松竹のプログラムは直前の高畑勲監督特集に引き続き日本のアニメーション映画の特集です。オリジナルアニメーションとは映画発の原作・脚本で製作された作品のことを言います。その多くは監督が脚本を務めており、今回上映するのはすべて監督が脚本から作り上げた作品ばかりです。それぞれの作品が持つ独自の世界観から生み出される物語と、現代作家ならではのモチーフやテーマをいっぱい楽しんで頂ければと思い「新選! オリジナルアニメWEEK! ~ジャパンアニメーション作家の現在地~」と題してお届けします。

今回の上映では、海外でも非常に評価の高い日本を代表するアニメーション作家の一人、細田守監督の『竜とそばかすの姫』。新海誠監督と同様に、個人作家としての活動から評価を高め、劇場デビュー以降は一作ごとに話題を集める吉浦康裕監督の『アイの歌声を聴かせて』。オリジナル劇場アニメとしては初監督となるイシグロキョウヘイ監督の『サイダーのように言葉が湧き上がる』の3本を上映します。

カラフルな色彩で描かれた『サイダーのように言葉が湧き上がる』は、70年代、80年代のシティ・ポップ調の絵が動く新鮮な見た目とは裏腹に、俳句やレコードなどのレトロな題材を通じて、地方都市のショッピングセンターという日本中にありふれた風景のなかにもきっと潜んでいるはずの「場所」や「もの」の記憶を扱います。登場人物たちはネット配信をしたり、SNSに俳句を載せたりする現代っ子。ネットワークを介して外部とつながっているのにも関わらず自分の本当のことを伝えるのには抵抗があるようです。

『竜とそばかすの姫』では、そうしたSNSやネット空間をこれまでの作品でも扱ってきた細田守監督が、もはやネット自体が非現実的空間や来るはずの未来として目前の現実から切り離せるものではない、極めて現代的な状況を描いています。ネット空間での個人の存在は『サマーウォーズ』であればアバターを通した、あくまでも匿名的な者たちのつながりによる集合的な力の一部として描いていましたが、今回はむしろそうしたものたちから零れ落ちてしまうような個人の姿にフォーカスしていると言えます。ネット空間「U」のアバターで絶世の歌姫として評判を呼ぶ「Belle」。仲間とその評判をさらに盛り上げようと企画する中で、どうしても気になる「竜」の姿をしたアバターと出会うことで、大きく物語は変化していきます。

『アイの歌声を聴かせて』の舞台は、AIを中心に様々な電子機器を作っているメーカーがロボットたちを試験運転している田舎町。そこではAIやロボットの存在自体はすでに驚かれるようなものではありません。主人公の元に現れる高性能な人型のAIロボット「詩音」も、高い技術に驚かれこそすれ、この街で育った子供たちは詩音の存在を一つの人格として受け入れていきます。それだけでなく「空気を読んで」しまうような人間ならしない突飛な行動をする詩音を通じて、主人公の悟美には友だちができ始めるのです。

昔であれば、夢のようだったインターネットやAIもすでに生活の一部として溶け込んでいるポスト・現代。それぞれの作品はネット空間やAIの存在が、密接に個々人の生活に深く関わってくる状況を通じて、人に言えない気持ちを抱えたまま本当の自分の姿を見せることができない者たちの居場所を明らかにしようとします。

マスクをつけたまま口元を見せない『サイダーのように言葉が湧き上がる』のスマイルと、俳句を書いても声に出して読むことを恥ずかしがるチェリー。大きな声をあげることのできない人のか細い声を聞き取ろうとしてBelleのヴェールを脱ぎ捨てて行動を起こそうとする『竜とそばかすの姫』のすず。ネット空間が“誰でも参加できて、誰でも自由に発言できるから”こそ見逃されてしまうこと。本来こうしたネットワークが持ち得る力やできることを、あるいは一つの純粋な願いから生まれたAIの詩音ならばそのひたむきさをもってして大切な人のために伝えることができるのでしょうか。

誰かの秘められた思いから、言葉へ、言葉から声へ。それが歌声へと広がっていく姿は、まるでミュージカル映画のように観ている私たちの勇気を奮い起こそうとします。小さな声が消えてしまいそうなこの広い世界でその声を拾い上げ、新しい時代だからこそできる方法で新たに個人を発見していこうとする新時代のアニメーション作家たち。その作品たちをぜひご覧頂ければと思います。

竜とそばかすの姫
Belle: The Dragon and the Freckled Princess

細田守監督作品/2021年/日本/121分/DCP/シネスコ

■監督・原作・脚本 細田守
■企画・制作 スタジオ地図
■作画監督 青山浩行
■CG作画監督 山下高明
■CGキャラクターデザイン Jin Kim/秋屋蜻一
■CGディレクター 堀部 亮/下澤洋平
■美術監督 池 信孝
■音楽監督 岩崎太整
■音楽 岩崎太整/Ludvig Forssell/坂東祐大
■メインテーマ『U』
(ソニー・ミュージックレーベルズ) millennium parade × Belle

■出演 中村佳穂/成田凌/染谷将太/玉城ティナ/幾田りら/森山良子/清水ミチコ/坂本冬美/岩崎良美/中尾幸世/森川智之/宮野真守/島本須美/役所広司/石黒賢/ermhoi/HANA/佐藤健

■2021年日本アカデミー賞音楽賞受賞・アニメーション作品賞ノミネート

© 2021 スタジオ地図

【2022年5月7日から5月13日まで上映】

もうひとつの現実。もうひとりの自分。もう、ひとりじゃない。

自然豊かな高知の田舎に住む17歳の女子高校生・内藤鈴(すず)は、幼い頃に母を事故で亡くし、父と二人暮らし。母と一緒に歌うことが何よりも大好きだったすずは、その死をきっかけに歌うことができなくなっていた。ある日、親友に誘われ全世界で50億人以上が集うインターネット上の仮想世界<U(ユー)>に参加することに。<U>では、「As(アズ)」と呼ばれる自分の分身を作り、まったく別の人生を生きることができる。歌えないはずのすずだったが、「ベル」と名付けたAsとしては自然と歌うことができた。

ベルの歌は瞬く間に話題となり、歌姫として世界中の人気者になっていく。数億のAsが集うベルの大規模コンサートの日。突如、轟音とともにベルの前に現れたのは、「竜」と呼ばれる謎の存在だった。乱暴で傲慢な竜によりコンサートは無茶苦茶に。そんな竜が抱える大きな傷の秘密を知りたいと近づくベル。一方、竜もまた、ベルの優しい歌声に少しずつ心を開いていく…。

現実世界と仮想世界。2つの世界、2つのアニメーション。

青春、家族の絆、親子愛、種族を超えた友情、命の連鎖…。様々な作品テーマで日本のみならず世界中の観客を魅了し続けるアニメーション映画監督・細田守。最新作『竜とそばかすの姫』では、かつて『サマーウォーズ』で描いたインターネット世界を舞台に、『時をかける少女』以来となる10代の女子高校生をヒロインに迎えた。そこで紡ぎ出すのは、母親の死により心に大きな傷を抱えた主人公が、もうひとつの現実と呼ばれる50億人が集うインターネット上の仮想世界<U(ユー)>で大切な存在を見つけ、悩み葛藤しながらも懸命に未来へ歩いていこうとする勇気と希望の物語だ。

細田作品ならではのリアル×ファンタジーの絶妙なマリアージュと、かつてない圧倒的スケールの物語を実現させるため、役者、音楽、デザイン、アニメーション、CGなど各ジャンルに多様性溢れる才能が奇跡の集結。圧倒的な速度であらゆるものが変化し続ける時代、それでもずっと変わることのない大切なものとは――。スタジオ地図が10周年を迎える2021年夏。想像を超えたアニメーション映画“未開の境地”へ、細田守最新作『竜とそばかすの姫』が、ついに辿り着く。

アイの歌声を聴かせて
Sing a Bit of Harmony

吉浦康裕監督作品/2021年/日本/108分/DCP/ビスタ

■監督・原作・脚本 吉浦康裕
■共同脚本 大河内一楼
■キャラクター原案 紀伊カンナ
■キャラクターデザイン・総作画監督 島村秀一
■撮影監督 大河内喜夫
■音楽 高橋 諒
■作詞 松井洋平
■アニメーション制作  J.C.STAFF

■声の出演 土屋太鳳/福原遥/工藤阿須加/興津和幸/小松未可子/日野聡/大原さやか/浜田賢二/津田健次郎/咲妃みゆ/カズレーザー

■2021年日本アカデミー賞優秀アニメーション作品賞

©吉浦康裕・BNArts/アイ歌製作委員会

【2022年5月7日から5月13日まで上映】

ポンコツAI、約束のうたを届けます。

景部高等学校に転入してきた謎の美少女、シオンは抜群の運動神経と天真爛漫な性格で学校の人気者になるが…実は試験中の【AI】だった! シオンはクラスでいつもひとりぼっちのサトミの前で突然歌い出し、思いもよらない方法でサトミの“幸せ”を叶えようとする。

彼女がAIであることを知ってしまったサトミと、幼馴染で機械マニアのトウマ、人気NO.1イケメンのゴッちゃん、気の強いアヤ、柔道部員のサンダーたちは、シオンに振り回されながらも、ひたむきな姿とその歌声に心動かされていく。 しかしシオンがサトミのためにとったある行動をきっかけに、大騒動に巻き込まれてしまう――。

ちょっぴりポンコツなAIとクラスメイトが織りなす、ハートフルエンターテイメント!

ポンコツ“AI”とクラスメイトが織りなす、爽やかな友情と絆に包まれたエンターテインメントフィルムが誕生! 監督は「イヴの時間」、『サカサマのパテマ』などで海外からも注目を集め、アニメーションの新たな可能性を切り拓いている吉浦康裕。自身が得意とする「AI」と「人間」の関係というテーマを、高校生の少年少女たちが織りなす瑞々しい群像劇という形で描写し、圧倒的なエンターテインメントフィルムとして仕上げている。

キャラクター原案には、気鋭の漫画家・紀伊カンナ、共同脚本には、『コードギアス』シリーズや「SK∞ エスケーエイト」の大河内一楼が参加。また、劇伴・劇中歌は「SK∞ エスケーエイト」の高橋諒、「プリパラ」「ドリフェス」の松井洋平が作詞を担当。

ちょっぴりポンコツなAIの主人公・シオンを土屋太鳳が演じ、多彩な楽曲たちをエモーショナルに歌い上げる。もうひとりのヒロインであるサトミを福原遥、幼馴染のトウマを工藤阿須加が演じ、小松未可子、興津和幸、日野聡といった実力派声優も集結!

サイダーのように言葉が湧き上がる
Words Bubble Up Like Soda Pop

イシグロキョウヘイ監督作品/2020年/日本/87分/DCP/ビスタ

■監督・脚本・演出 イシグロキョウヘイ
■原作 フライングドッグ
■脚本 佐藤大
■キャラクターデザイン・総作画監督 愛敬由紀子
■音楽 牛尾憲輔
■作画監督 金田尚美/エロール・セドリック/西村郁/渡部由紀子/辻 智子/洪昌熙/
小磯由佳/吉田南
■原画 森川聡子
■撮影監督 棚田耕平/関谷能弘
■アニメーションプロデューサー 小川拓也
■劇中歌「YAMAZAKURA」 大貫妙子
■主題歌「サイダーのように言葉が湧き上がる」 never young beach
■アニメーション制作 シグナル・エムディ×サブリメイション 

■出演 市川染五郎/杉咲花/潘めぐみ/花江夏樹/梅原裕一郎/中島愛/諸星すみれ/神谷浩史/坂本真綾/山寺宏一/井上喜久子

© 2020フライングドッグ/サイダーのように言葉が湧き上がる製作委員会

【2022年5月7日から5月13日まで上映】

17回目の夏に君と会う

17回目の夏、地方都市⸺。コミュニケーションが苦手で、人から話しかけられないよう、いつもヘッドホンを着用している少年・チェリー。彼は口に出せない気持ちを趣味の俳句に乗せていた。矯正中の大きな前歯を隠すため、いつもマスクをしている少女・スマイル。人気動画主の彼女は、“カワイイ”を見つけては動画を配信していた。そんなふたりは、ショッピングモールで出会い、やがてSNSを通じて少しずつ言葉を交わしていく。

ある日ふたりは、バイト先で出会った老人・フジヤマが失くしてしまった想い出のレコードを探しまわる理由にふれる。ふたりはそれを自分たちで見つけようと決意。フジヤマの願いを叶えるため一緒にレコードを探すうちに、チェリーとスマイルの距離は急速に縮まっていく。だが、ある出来事をきっかけに、ふたりの想いはすれ違って⸺。

サイダーのように甘く弾ける、少年少女たちの青春ラブグラフィティ。

「四月は君の嘘」、「クジラの子らは砂上に歌う」などを手掛け、繊細で叙情的な演出に定評のあるアニメーション監督・ イシグロキョウヘイ。バンドで活動した経歴を持ち、音楽にも造詣が深い彼が、言葉×音楽をキーワードに、少年少女の「ひと夏の青春」を描いたオリジナルアニメが本作『サイダーのように言葉が湧き上がる』である。

主人公であるチェリー役には、初映画、初声優、初主演となる歌舞伎界の超新星・八代目 市川染五郎を起用。一方、ヒロインのスマイル役は、若手随一の確かな表現力で高い評価を受ける杉咲花が担当。フレッシュな競演が「ひと夏のできごと」を輝かせる。

音楽制作を務めるのは、「マクロス」シリーズをはじめ、アニメーションの劇伴やアニソン制作において第一線を走り続ける音楽レーベルフライングドッグ。同社の10周年記念作品ともなる本作は、『映画 聲の形』などの劇伴制作で知られる牛尾憲輔が担当。さらに主題歌や挿入歌にも豪華アーティストの参加が決定している。