【2022/1/1(土)~1/7(金)】田中絹代監督特集『月は上りぬ』『乳房よ永遠なれ』『女ばかりの夜』『お吟さま』// 特別モーニングショー&レイトショー『恋文』

ぽっけ

明けましておめでとうございます。新年最初の早稲田松竹の番組は毎年恒例の邦画旧作の上映。しかも今年は開館70周年の記念上映ということで珍しい貴重な作品を上映します。邦画史上に残る数々の名作に出演する大女優・田中絹代さんの「監督作品」のみを上映する「田中絹代監督特集」です。

田中絹代監督は、当時撮影所ではまだ女性監督が映画をほとんど撮れなかった時代に、日本の二人目の女性監督として(ちなみに最初は坂根田鶴子さんと言われています)、女性の視点に的を絞った数々の作品を残しました。昨年第74回カンヌ国際映画祭を皮切りにリヨン・リュミエール映画祭や東京国際映画祭など多くの映画祭で上映され、今も世界中で再評価がなされています。

当時女性監督という存在は珍しいもの。やはり好奇の目を向けられることも多く「ベテランスタッフが手伝っているから映画が撮れた」などという評価も多かったそうです。それでも女性たちの困難な生き様を冷静に切り取った彼女の女性作家としての資質は今目にすることができるとおり、明らかに他の映画にはない独自の視点と明確なテーマを持ちながら、古典的な映画と現代的な映画の狭間で、1本1本の映画と現在に立ち向かっていました。

2022年の今の視線でこの映画が切り取ろうとしていたフレームを見れば、隅々まで明確な作家としての意志を感じ取ることができるばかりでなく、「なぜ今までこの映画を見ていなかったのだろう」「もうこんな時期にこんな映画が撮られていたなんて」と、一作見るたびにため息がでてしまうほどです。残念ながら6作品しか監督することのなかった田中絹代監督ですが、そこで扱った題材の一つ一つに深く爪痕を残しています。今まであまり上映機会がなかっただけに、これから皆さんと一つずつ発見していくのがとても楽しみで仕方ありません。

今回上映する上映素材(DCP)は、東京国際映画祭で国内初上映されたものを含む、まだあまり上映されていない最新版デジタルリマスター版の素材を各配給会社様に貸して頂きました。昔の映画が再評価とともに甦るには、現像所の修復作業に携わる人たちや、それを望む多くの映画研究者たちの声があってのこと。そうした新しい波を生み出していく皆さまに心から感謝したいと思います。皆様、是非お見逃しなく!

【特別モーニング&レイトショー】恋文 4Kデジタルリマスター版
【Morning & Late Show】Love Letter

田中絹代監督作品/1953年/日本/98分/DCP/スタンダード

■監督 田中絹代
■脚本 木下惠介
■製作 永島一朗
■原作 丹羽文雄
■音楽 斎藤一郎
■撮影 鈴木博

■出演 森雅之/久我美子/香川京子/宇野重吉/道三重三/安西郷子/関千恵子/夏川静江

©国際放映

【2022年1月1日から1月8日まで上映】

豪華俳優陣で描く上質の恋愛譚で、日本人女優として初めてメガホンを取った田中絹代の初監督作品。

兵学校から南海の空へ、そして今生きのびて故国の土を踏んだ礼吉がただ一つ思いしめて来たのは最愛の人道子だった。風の便りに彼女は夫と死に別れ上京しているとは聞いていたが。礼吉は上京して書籍ブローカーの弟洋のアパートへ身を寄せ、戦友山路の世話で洋妾の恋文代筆業をしながら、道子の行方を求めた。五年の歳月を一瞬にかけた日はとうとうやって来た。道子が彼の許へ他のパンパンと同じ様に恋文の代筆を依頼に来たのである。清純な道子の姿を思い抱いていた礼吉は、眼前の道子についきつい言葉を言い放った…。

スター女優の初監督作を映画界全体が応援し、木下恵介が脚色を手がけた。男女の関係性の変化を冷静に捉えた眼差しが光る。出演は森雅之、久我美子、香川京子ら豪華俳優陣がそろった。

月は上りぬ 4Kデジタル復元版
The Moon Has Risen

田中絹代監督作品/1954年/日本/102分/DCP/スタンダード

■監督 田中絹代
■脚本 斎藤良輔/小津安二郎
■音楽 斎藤高順 
■製作 児井英生
■撮影 峰重義
■照明 藤林甲
■録音 神谷正和
■美術 木村威夫
■編集 近藤光雄
■助監督 斎藤武市

■出演 笠智衆/佐野周二/山根寿子/杉葉子/北原三枝/三島耕/安井昌二/田中絹代/増田順二

©日活

【2022年1月1日から1月8日まで上映】

田中絹代監督が晩秋の古都を背景に、美しく、微妙な女性の愛情の世界を描く文芸大作。

浅井家は父である浅井茂吉、長女の千鶴、次女の綾子、そして三女の節子の四人で暮らしている。茂吉の妻は既に他界しており、長女・千鶴の夫も三年前に死別し実家に戻ってきた経緯があるが、それでも家族四人、戦時中に東京を離れて住み着いた奈良の地で和やかな毎日を送っていた。家の近くの寺に下宿している失職中の安井は千鶴の亡き夫の弟であり、彼とも交流があったが、ある日東京から安井の親友である雨宮らが遊びに来て、浅井家の生活はずいぶん賑やかなものになる。そんな楽しく穏やかな日々を過ごすうち、三女・節子は雨宮が次女の綾子に気があるのではないかと思うようになる。綾子の方も雨宮に好意を持っていると知った節子は一策を練ることにする。互いの名を語ってそれぞれ待ち合わせに誘い、二人の想いを恋に発展させようというものだ。節子は十五夜の月明りの下で二人が愛を囁きあうロマンチックな妄想を膨らませるが…。

斎藤良輔、小津安二郎が共同で執筆した脚本を、田中絹代が「恋文」に次ぐ第2回作品として監督を務めた美しき恋の物語。笠智衆や佐野周二など小津作品の常連役者をはじめ、三姉妹を山根寿子、杉葉子、北原三枝が演じた。

乳房よ永遠なれ 4Kデジタル復元版
Forever a woman

田中絹代監督作品/1955年/日本/110分/DCP/スタンダード

■監督 田中絹代
■原作 若月彰/中城ふみ子
■脚本 田中澄江
■製作 児井英生/坂上静翁
■撮影 藤岡粂信
■照明 藤林甲
■録音 神谷正和
■美術 中村公彦
■編集 中村正
■音楽 齋藤高順

■出演 月丘夢路/森雅之/葉山良二/杉葉子/大坂志郎/安部徹/木室郁子/川崎弘子/坪内美詠子/田中絹代/織本順吉/左卜全

©日活

【2022年1月1日から1月8日まで上映】

若くして乳がんに倒れた薄幸の歌人・中城ふみ子の姿を通して描く、田中絹代監督が全女性に問う大作。

下城茂との不幸な結婚生活に終止符を打つため、ふみ子は子供二人を抱えて実家に戻った。実家に戻ってからのふみ子は、母親たつ子と弟・義夫の許で幸福だった。ひと月ほど経った頃、仲人の杉本夫人がやって来て、離婚手続きが済んだが昇とあい子の二人を引き取ることは駄目だったと伝えた。断腸の想いで昇を下城の許に去らせてからというもの、ふみ子は母性の苦汁をなめさせられる日が多かった。

下城家から昇をこっそり連れ戻し、親子水入らずて東京に職を見つけようと決意したふみ子は、この頃から自分の乳房が疼き始めるのを知った。その痛みはやがて激痛へと変わり、彼女はその痛みが乳癌からであることを知った…。

31歳で夭逝した女流歌人・中城ふみ子の過酷な人生を綴った評伝を映画化。女心の機微に触れる女性監督ならではの演出が光り、哀しきヒロイン役・月丘夢路の熱演が胸に響く。

女ばかりの夜 4Kリマスター版
Girl of Dark

田中絹代監督作品/1961年/日本/95分/DCP/シネスコ

■監督 田中絹代
■原作 梁雅子
■脚色 田中澄江
■製作 永島一朗/椎野英之
■撮影 中井朝一
■美術 小島基司
■音楽 林光

■出演 原知佐子/北あけみ/浪花千栄子/富永美沙子/田上和枝/関千恵子/田原久子/千石規子/春川ますみ

©1961 東宝

【2022年1月1日から1月8日まで上映】

戦後女性の自立に関心を深めて描く田中絹代監督第5作。

昭和三十三年、売春防止法が施行された。巧みに法の網の目を潜って春を売る女は、依然として後を断たなかった。しかし、警察のきびしい取締りで検挙された彼女たちは、強制的に厚生寮か補導院へ送られ、そこで一定の補導期間を終えて更生への途に踏み出すのだが、彼女たちを迎える社会は意外に冷たく、想像できない困難が待ち受けていた。白菊婦人寮もそうした施設の一つで、邦子、チエ子、亀寿、小雪ら三十三人の女が収容されていた。彼女たちは、野上、北村、岡田など数人の寮母の熱心な指導のもとで、規律ある毎日の生活を送っていた。模範生邦子は、職安の斡旋で食料品店に勤める身となった。が、ある日、米屋の洩らした一言から他の店員が彼女の過去を知り、主人の妻よしにそれを告げ口された。それからというものは、差別待遇、軽侮と敵意に満ちた態度に苦しめられる毎日が続いた…。

梁雅子の『道あれど』を原作とした社会派ドラマ。元売春婦たちが社会的な自立を目指して更正を試みるが、彼女たちに対する偏見に満ちた社会の現実に直面する。溝口健二監督の『夜の女たち』で売春婦を演じた田中が、続編となるような物語を撮った監督第5作。

お吟さま 4Kデジタルリマスター版
Love Under the Crucifix

田中絹代監督作品/1962年/日本/102分/DCP/シネスコ

■監督 田中絹代
■原作 今東光
■脚色 成澤昌茂
■製作 月森仙之助/若槻繁
■撮影 宮島義勇
■美術 大角純一
■音楽 林光
■編集 相良久

■出演 有馬稲子/仲代達矢/中村鴈治郎/高峰三枝子/富士真奈美/笠智衆/南原宏治/伊藤久哉/岸恵子/滝沢修/月丘夢路/田村正和/千秋実

©1962/2021 松竹株式会社

【2022年1月1日から1月8日まで上映】

茶道の名匠・千利休の娘・吟の悲恋を描く。自分の愛を通した女性の生き方を映し出す。

天正十五年。豊臣秀吉の茶頭千利休の娘、吟は、六年間一筋に慕い続けてきたキリシタン大名高山右近をむかえて喜びにもえた。しかし、妻のある右近はキリシタンの教えを破ってまで、吟の思いを受け入れることは出来なかった。折も折、父利休は石田三成から吟の縁談を持ち帰った。相手は太閤茶湯七人衆の一人、廻船問屋万代屋宗安である。気の進まぬ吟は、必死の思いで右近にその思慕を打ちあけたが、右近は苦しい思いで万代屋へ嫁ぐよう吟にすすめるのだった。

二年後、万代屋へ嫁いだ吟は、いまだ右近への思慕をたちきれず、そんな吟にあきたらぬ宗安は、放蕩三昧の生活だった。ある日、宗安が招いた茶会の席上、吟は右近に会った。同じ席上、秀吉は吟の美貌に激しく心を動かされた。これを知った三成と宗安は右近をおとし入れ、吟を秀吉の側女に差し出しておのれ達の勢力を拡大しようとはかる。

今東光の原作を映画化。キリシタン大名・高山右近と千利休の娘・吟との悲恋を描く。吟に有馬稲子、高山右近に仲代達矢を配し、田中絹代の女性監督らしい耽美的でキメの細かい演出により、時代の流れに抗い、自らの愛を通した女性の生き方を映し出している。



協力:芸游会