【2021/7/24(土)~7/30(金)】『天国にちがいない』『ホモ・サピエンスの涙』// 特別レイトショー『天使/L’ANGE』

パズー

『天国にちがいない』はパレスチナ人監督エリア・スレイマンの10年ぶりの新作です。争いが絶えないパレスチナの社会を皮肉と愛をこめて描いてきたスレイマン。今作も、スレイマン自身が演じる映画監督がパレスチナのナザレにいるところから映画が始まります。故郷で隣人たちのささいな不和やおかしな様子を目にしながら、彼はパリとニューヨークに飛び出します。どちらも華やかで洗練されていて秩序が保たれているはずの大都市。けれどパリでもニューヨークでも、なんだか街の人は不安そうだったり威圧的だったり、どうも幸せには見えません。心から安心できる「平和」はこの世界のどこにあるのでしょう?

「映像の魔術師」と名高いスウェーデンの巨匠ロイ・アンダーソンの最新作『ホモ・サピエンスの涙』。人生を嘆いている人間たちをユーモアたっぷりに描いてきたアンダーソンの独創的なタッチは、本作でもますます冴えわたっています。映画に出てくるのはカップル、牧師、老人、軍人たち、ティーンエイジャーなどなど。当たり前ですが、この世界では様々な人が生きていて、そのひとりひとりに悩みや苦しみ、そして喜びがあるのです。名もない人々の見過ごされそうなワンシーンにライトを当てるアンダーソンの映画は、自分の日常も少し違って見せてくれるような気がします。

今週の上映作品は、ひとことでいうと喜劇になるでしょう。けれどそのなかには無数の悲劇が散らばっています。逆にいうと、それぞれのエピソードは悲劇にみえるかもしれないけれど、映画を観た後は不思議と心が温かくなるはずです。それは、人間や社会に対する監督たちの眼差しが、鋭くも優しく愛情深いからなのだと思います。

「人生はクローズアップで見れば悲劇だが、ロングショットで見れば喜劇だ。」

喜劇王チャールズ・チャップリンのあまりにも有名な言葉を借りましたが、この二本立てにぴったりな言葉です。混迷を深める現代社会、日々の生活にふと疲れを感じた時に、観ていただきたい映画たちです。

天国にちがいない
It Must Be Heaven

エリア・スレイマン監督作品/2019年/フランス ・ カタール ・ ドイツ ・カナダ ・トルコ ・ パレスチナ/102分/DCP/シネスコ

■監督・脚本・出演 エリア・スレイマン
■撮影 ソフィアン・エル・ファニ
■編集 ヴェロニク・ランジュ

■出演 タリク・コプティ/アリ・スリマン/ガエル・ガルシア・ベルナル/ヴァンサン・マラヴァル/ナンシー・グラント

■第72回カンヌ国際映画祭特別賞・国際批評家連盟賞受賞/第92回アカデミー賞国際長編映画賞パレスチナ代表選出

© 2019 RECTANGLE PRODUCTIONS – PALLAS FILM – POSSIBLES MEDIA II – ZEYNO FILM – ZDF – TURKISH RADIO TELEVISION CORPORATION

【2021年7月24日から2021年7月30日まで上映】

この世界は、かくも可笑しく 愛おしい――。

新作の企画を売り込むため、故郷ナザレからパリ、ニューヨークへと旅に出た映画監督エリア・スレイマン。パリでは美しい景観に見惚れる一方、街を走る戦車、炊き出しに並ぶ大勢の人、救護されるホームレスを、ニューヨークでは、街で銃を持つ市民、上空を旋回するヘリコプター、セントラルパークで警官に追われ逃げ回る裸の天使を目の当たりにする。

肝心の映画企画は友人のガエル・ガルシア・ベルナルのサポートもむなしく「パレスチナ色が弱い」とあっけなく断られてしまう。いかに遠くへ行こうとも、平和と秩序があるとされる街にいようとも、何かがいつも彼に故郷を思い起こさせる。まるで、どこに行っても同じ――。果たして「私の”故郷”と呼べる場所とは何なのか――?」

アイデンティティ、国籍、そして“故郷”とは? 軽やかな映像美で疑問を投げかけ希望をもたらす、極上の叙事詩

2002年『D.I』でその独特なユーモアと豊かなイマジネーションで世界に衝撃を与え“現代のチャップリン”と賞賛された名匠エリア・スレイマン。これまでわずか長編三作品と寡作ながらも、イスラエル国籍のパレスチナ人であるという複雑なアイデンティティと唯一無二の作風により世界中で熱狂的支持を得ている。

本作では、カンヌ国際映画祭で特別賞と国際映画批評家連盟賞をW受賞。第92回アカデミー賞国際長編映画賞ではパレスチナ代表に選出されるなど、世界中の映画祭で軒並み高評価を得た。あらゆる言語が飛び交う旅を通して、この世界に生きる全ての人に根源的な疑問を投げかける意欲作であり、パレスチナへの愛と苦悩、そして世界の混迷と人間の愛おしさを軽やかな映像美で描くエリア・スレイマン監督10年ぶりの新たなる傑作が誕生した。

ホモ・サピエンスの涙
About Endlessness

ロイ・アンダーソン監督作品/2019年/スウェーデン・ドイツ・ノルウェー/76分/DCP/ビスタ

■監督・脚本 ロイ・アンダーソン
■撮影 ゲルゲイ・パロス
■編集 ヨハン・カールソン/カッレ・ボーマン/ロイ・アンダーソン

■出演 マッティン・サーネル/タティアーナ・デローナイ/アンデシュ・ヘルストルム/ヤーン・エイェ・ファルリング/ベングト・バルギウス/トーレ・フリーゲル/イェッシカ・ロウトハンデル

■2019年ヴェネチア国際映画祭銀獅子賞受賞/ヨーロッパ映画賞視覚効果賞受賞

© Studio 24

【2021年7月24日から2021年7月30日まで上映】

やっぱり、愛がなくっちゃね。

この世に絶望し、信じるものを失った牧師。戦禍に見舞われた街を上空から眺めるカップル…悲しみは永遠のように感じられるが、長くは続かない。これから愛に出会う青年。陽気な音楽にあわせて踊るティーンエイジャー…幸せはほんの一瞬でも、永遠に心に残り続ける――。

映像の魔術師が、この時代を生きる全人類(ホモ・サピエンス)に贈る――愛と希望を込めた、万華鏡のような映像詩。

前作『さよなら、人類』でヴェネチア国際映画祭の金獅子賞(グランプリ)に輝き、さらに5年ぶりに発表した本作『ホモ・サピエンスの涙』でも同映画祭で最優秀監督賞受賞という快挙を果たしたスウェーデンの巨匠ロイ・アンダーソン。CG全盛の時代にCGはほぼ使わず、野外撮影ではなく巨大なスタジオにセットを組み、模型や手描きのマットペイント(背景画)を多用するというアナログにこだわった手法で驚きの傑作を生みだしてきた。

“映像の魔術師”ロイ・アンダーソン監督が本作で描くのは、時代も年齢も異なる人々が織りなす悲喜劇。構図・色彩・美術と細部まで計算し尽くし、全33シーンすべてをワンシーンワンカットで撮影した。実在の名画の数々からインスパイアされた美術品のような贅沢な映像にのせて「千夜一夜物語」(アラビアンナイト)の語り手を彷彿とさせるナレーションが物語へと誘う。さらに、ビリー・ホリデイ、ザ・デルタ・リズム・ボーイズなど時代を超えて愛される歌声も登場。映画に彩りを与え、ロマンティックな雰囲気を纏わせる。

【特別レイトショー】天使/L'ANGE
【Late Show】L'ANGE

パトリック・ボカノウスキー監督作品/1982年/フランス /64分/DCP/スタンダード

■監督・映像特殊効果・装置ミニチュア・編集 パトリック・ボカノウスキー
■撮影 フィリップ・ラヴァレット
■装置ミニチュア・仮面 クリスチャン・ダニノス
■音楽 ミシェル・ボカノワスキー

■出演 モーリス・バケ/ジャン=マリー・ボン/マルティーヌ・クチュール/ジャック・フォール/マリオ・ゴンザレス/ルネ・パトリニャーニ/リタ・ルノワール

Copyright KIRA B.M.FILMS/INSTITUT,NATIONAL DE L’AUDIOVISUEL 1982

【2021年7月24日から2021年7月30日まで上映】

光の彼方に「天使/L’ANGE」を見たか!

天井から吊るされた人形、繰り返しサーベルを突く、仮面の男。メイドが運ぶ牛乳の壺は、テーブルからゆっくりと床に落ち、割れる。凝視している男。男は、鼻歌を唄いながら風呂に入り、身だしなみを整えポーズをとる。せわしなく本を探し運び続ける図書館員たちは、皆同じ風貌をしている密室の裸女めがけて襲いかかる、棍棒を持った男たち光線が降り注ぐ中、人々は階段を昇る…。

“伝説と呼ばれた映画” ふたたびスクリーンへ!

1980年代、フランス。カンヌ映画祭批評家週間で衝撃を与え、世界のアートシーンに登場した『天使/L'ANGE』は、『アンダルシアの犬』の再来かつ、全く新しいアヴァンギャルド映画と絶賛された。しかしながら、この作品には、ダリ&ブニュエル、マン・レイ、コクトー、デレン、アンガーといった旧来の「アヴァンギャルド映画」「実験映画」とは、一線を画した哲学がある。どの1コマを切り出しても、完璧な絵画となり得てしまうほど美しいのだ。

その美は、まさに洗練されており、35年以上の月日を経た現在でも、生まれたてのような輝きを放っている。この執拗、と言っても大袈裟ではない、恐ろしいまでの美意識に基づいた特殊合成・特殊効果のほとんどを、ボカノウスキー自身が行ったため、完成までには5年という歳月が費やされた。音楽は、妻のミシェール・ボカノウスキーが、この映画のために弦楽四重奏を制作。